醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  423号  白井一道

2017-06-18 14:55:25 | 日記

    イタリア彫刻研修留学を聞く

 イタリア語がこんなに簡単に通じちゃっていいのかなあ……?胸の動悸もおさまり、思わずロ許が緩んだ。少し安心したせいか、日本人を代表者する者になったような気分になり、胸を張り、日本人の印象を良くしようなどといらざることを考えてしまった。思わず不必要なほど笑顔をつくり、「ありがとう」と言った。後になって思うと、過度の笑顔は正しい日本人観を相手に「伝える」ものではないことに気がついた。
 安心したのも束の間、空港を出て、目指すホテルに行き着けるだろうか。バスチケット売り場にたどり着くことができた。「ローマ、テルミニ駅行きのバスはどこから出ていますか?」と私は窓口のおじさんに聞いた。「料金はいくらですか?「一枚ください」・・。通じる。つうじる。本当に通じていますよ! 浮き浮きした気分で釣銭を受け取り、ズボンの後ろポケットに無造作にしまいこんだ。それを見ていた券売窓口のおじさんが「ノー、ノー」と身振りよろしく「上着のポケットにしまいなさい」とアドバイスしてくれた。イタリアは物騒なところです。盗難には気を付けろ、と言われていたことを思い出した。特に空港に着いたばかりの外国人は狙われると聞いていた。隙を狙う泥棒がいれば、一方には用心なさいと注意してくれる親切なおじさんもいる。これどちらも同じイタリア人なんですね。お陰で無事ホテルに到着することができた。
 一ヵ月のホテル暮らしの後にアパートを見つけることに成功した。生活用品を買い揃え、ローマで初めて一人暮らしを始めた。米の飯を食べよう。米を買い求め、炊く段階になって困ってしまった。今まで一度もご飯を炊いた経験がないことに気が付いた。やむなくご飯を食べることを諦めざるを得なかった。残念。
ある日、研修先の工場にイタリア在住の日本人彫刻家がやって来た。作品の注文を出しに来てくれたのである。その方に私の身分を話したら、すぐ親しくして下さった。その方に私は初めて飯の炊き方を教わった。目玉焼きを初め、ちょっとした日本食の作り方を教えていただき、以後、ローマで日本食を普段に食べられるようになった。一人暮らしの日常生活の基礎を私はイタリア研修留学で培った。日常生活を一人で確実に行うことが研修留学の第一歩であった。
 研修は一日中、工場の職人だちと同じ仕事場で過ごすことである。新入りの最初の仕事は掃き掃除だった。仕事場をきれいに掃き清める。その仕事が気に入ってもらえると次の仕事が与えられるようになる。日本と同じ職人の世界だった。私は一所懸命掃き掃除に精を出した。それが認められたのか、アルベルトが私にいろいろ仕事を教えてくれるようになった。アルベルトは一番仕事のできる職人だった。母子家庭に育ったアルベルトは叩き上げの好職人だった。

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