くまだから人外日記

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サウザント・クロノス・ナイツ 銀髪のノーラ 『四つのクロノス その2』 1

2015-12-12 12:10:48 | 【偽書】シリーズ
「何故僕には父様も母様も居ないの?」
小さな村の長老に訊ねる幼(おさな)子に、村長(むらおさ)として民を束ねる長老は長い髪に隠れた瞳を光らせてこう答えたそうです。

「お前の両親は帝国傘下の宗教都バルブルトスの教皇様のお命をお守りする為に代わりに命を落としたのじゃ。平安を良しとしない輩達と勇敢に戦ってな」
「教皇様をお守りしたのか。僕の父様と母様は」
「そうじゃ。レイドの民として他の誰より勇敢に戦ったと聞いておる」
「誰よりも勇敢だったのか」
「そうじゃ。誰よりも勇敢に、じゃ」
「そうか。僕の父様と母様は偉かったんだね。勇敢だったんだね」
「そうじゃ」

長老は銀色の髪をなびかせる子供の頭を撫でながら、空を見やりました。
昼間は明かりで見えない星雲の彼方にある、巨大な惑星群に鎮座しているであろう帝国の方角を。

幼子はそんな長老の顔をしばし見つめているだけだったといいます。






「僕の後に続け!悪漢らを退治するんだ」
「なあ、ノーラ。いつまで“僕”なんて一人称の幼児語を使っているんだ。ましてやお前は女なんだぞ」
「僕は僕だよ。アルキン」
「皇帝府の中央士官学校へ進学が決まったこの私、アルキメデス・ナザルト・ギ・メザルトを何時まで幼名で呼ぶつもりだ?」
アルキンと呼ばれた若者は、たいそう不満げな顔を浮かべてノーラと呼ばれた少女を見て語ったそうです。

「士官学校への進学が決まってから、随分つまらない奴になっちゃったんだな。アルキン」
「ノーラこそいつまで英雄ごっこにうつつをぬかしているのだ。もう惑星暦で14。古(いにしえ)の暦ならば元服や輿入れすら叶う年だと言うのに」
「そんな古の古い暦など、今は誰も信仰していないだろう」
「全く…。真面目に勉強していれば、それこそ私より先に帝国傘下の選抜上士官学校へだって進めた筈なのに」
「僕には興味無い」
「もったいない奴だな」
アルキンは草むらに腰を降ろしました。
「お前も座れ」
「…」
有無を言わさないアルキンのムードにおされて少女も渋々アルキンの横に腰を降ろしたのです。
「ノーラ。私は次の大月夜の晩に士官学校へ向かう」
「随分早いんだな。入校式はその次の小月夜なんだろ」
「早めに寮に入って、しっかりと支度をしておきたいんだ。田舎者とバカにされないようにな」
「仕方ないだろ。田舎者は田舎者なんだから」
「勉学や剣術で遅れを取るなら仕方がないが、氏育ちで差別されるのは合点がいかないんだよ」
「面倒くさい奴だなあ」
「士官への道は名誉な事だ。かつてノーラの両親がそうだった様に」
アルキンはノーラを羨ましそうに見つめました。

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