くまだから人外日記

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【偽書】夏娘跳ねる2013シーズン『南風ランナー』真菜美 43

2015-12-14 01:17:55 | 【偽書】シリーズ
待望の得点は、それまで香取慎二に集中していた相手多数をサイドに引きつけた上、ゴール前にクロスを上げた神田川巧の利き足から生まれた。


ゴールネットを揺らしたボールとコーナーポスト脇に倒れた選手。
観客の大半は前者に対して、そして後者を見ていた僅かな観客は異質の叫び声を上げた。

「キャーッ!た、巧!」

私は反射的にピッチに向かって走り出したが、何故か前には進めなかった。

振り向くと私の手首を握っている伸治。

「ちょっと。離してよ、伸治」
「どこへ行く気だよ?」
「ピッチよ。巧の所に決まってるでしょ」
「関係者じゃない者が降りる場所じゃないだろ」
「巧が怪我をしたかも知れないでしょ」

それまで私達のやり取りを黙って見ていた由真が呆れて指を
指す。

「あんたの出番は無さそうよ。真菜美」

ピッチにはベンチから救護バッグを抱えて一年生マネージャーが物凄い勢いで駆け出して行く。
その後を三年生マネージャーも追っていた。

「真央ちゃんか…」
「だから真菜美の出番は無いのよ」
「…わ、私は…」
「アンタは…何よ。幼なじみだって今はただの観客なのよ。それとも何?巧の身内?それとも看護師とか?アンタの姉さんみたいに」
「その話をしないでよッ!何なの?由真も伸治も二人して」

手首を掴んでいる伸治の手を払いのけて、皮肉めいた由真の言葉に私は語気を荒げて言った。



観客席からは多数の歓声に変わって、悲鳴や溜め息も発せられ始めた。




「いきなりやっちまったか。マネージャー、ピッチだ」
若い監督はゴールを喜ぶよりも、負傷を押してピッチに送り出した神田川巧の下へマネージャー向かわせる。
正確には監督の指示より早く、既にホイッスルと同時に救護バッグを抱えるとピッチに横たわる神田川巧の下へ向かっていた一年生マネージャー。
そして、監督の方を振り向いて頷き、その後を追う三年生マネージャー。

監督は諦めた様に、控えの選手に最終アップを命じた。



応援団らがゴールの賛辞をひとしきりコールし終えると、次いで神田川を元気づけるべく「神田川コール」を指揮する。
観客席からは特大の「神田川コール」が巻き起こった。


ピッチ外に横たわる二人の選手の横に線審から合図された主審も歩み寄る。

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