実体よりもイメージ

「田舎の店で全然売れなかった服を、銀座にあるデパートのショー・ウインドウに飾って3倍の値段で売り出したところが、飛ぶように売れた」

聞いた話なので信憑性は疑わしいのですが、納得する話ではあります。「あの銀座」で、しかもショー・ウインドウに飾られていたというだけで、「おしゃれで高級な服なんだ」と思ってしまいます。現代人にとって服というのは、生きていくために必要なだけではなく、おしゃれを楽しんだり社会に対して自己プレゼンテーションしたりする手段だったりもします。「銀座で10万円で買った、安物ザマス。オホホ（ホントは痛い出費！）」と言われただけで、その服自体の質に関係なく、「まあ、いい服ザマスね、オホホ（ケッ、自慢しやがって）」と返答しがちです。

購買決定するさい、製品の質よりもブランド名やイメージにこだわること／人は、よくあります／います。例えば、よく売れているらしい、ペットボトルに入ったミネラル・ウォーター。その中身は実は水道水である、という噂を聞いたことがあります。その噂の真相はわかりませんが、「市場に出ているミネラル・ウォーターは水道水と質的には変わらない」という記事が、ある日本語情報誌に先日掲載されていました。その記事によると、モデルがミネラル・ウォーターを持ち歩いていたのを、一般人が真似しだしたのだとか。（名ばかりの？）ミネラル・ウォーターを持ち運ぶことで、「わたしはファッション・モデルと同じライフスタイルを志向しているのよ、オホホ」ということなんでしょうか？

消費者は製品の質よりも商標名にこだわる、というのは昔から。アメリカでは例えば、Postum Cereal Co.（PCC）という会社が1895年、小麦の実22.5%、糖蜜10%、ふすま67.5%からできた「コーヒーもどき（ersatz coffee）」をPostumのいう商標名で売り出したところ、バカ売れ。多くの会社が間もなく、Postumよりも安い値段のコーヒーもどきを売り出したそうです。マーケット・シェアが減ってきたことに危機感を覚えたPCC、今度はMonk’s Brewという名のコーヒーもどきを、Postumの5分の1の値段で発売開始。ところがこのMonk’s Brew、質が悪いために売れなかったそうです。そこで、Monk’s BrewをPostumのパッケージに詰め直し、Monk’s Brewの5倍の値段で売り出したところ、またよく売れたのだとか。消費者は製品の質よりも商標やイメージを重視する、という消費者心理の好例です。

「イメージやブランド名よりも実体で選べ」、などと説教臭いことを言うつもりはわたしはないし、イメージ自体を否定するつもりもありません。個人的に好きなブランドもあります。ただ、何事も付き合い方。イメージだけに魅せられて購入決定することは避けたい、と思っています。

(写真は、下宿先のお子さんに着せ替え人形のように扱われ、「King Cat」に扮したDinky。服を着ないDinkyにとって、こられの服の価値は全く関係なし。「猫は服に気を使わなくてもいいからいいなあ、楽で」と思う人間はいるのでしょうか？）