Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

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ZORZO BERGAMOスピーカーの誕生 その印象1

2013-06-25 22:33:41 | その他

30年間に亘って試行錯誤実験を繰り返してしてきたYさんの製作になるスピーカーシステムがようやく完成したという知らせを受ける。さっそく完成したそのシステムを西麻布にある彼の自宅兼用スタジオで試聴してきた。ガラスバッフルに挟まった奇抜で革新的なモダンデザインのスピーカーだ。彼が今まで試作した樹脂製大型平面バッフルや合金製円筒型スピーカーの美意識を放擲した身も蓋もない自作我流作品に比べれば、格段と美しい進化スピーカーが完成したものだ。シジフォス的な労苦はこれで打ち止めになるのだろうか?と完成品を眺める。このスピーカーはその名もイタリアンテイストが香る「ベルガモ」と彼は命名した。ドビッシーの「ベルガマスク」にも通じるお洒落なネーミングだと思う。

8センチの小さなフルレンジ型スピーカーが特注ガラスをはさんで正面に8個、背面に8個、片側で合計16個を組み込んでいる。写真では箱入りのように見えるが、黒いサランネットに覆われているだけである。これらは通常のようなバスレフとか密閉といった常識的形状のスピーカー箱に収まってはいない。一種の変則後面開放型スピーカーのようである。正面に向かっているユニットと同じものが背中にも反対方向へ取り付けられている。竹宮寿一さんという彼がスピーカーの伝達理論において最も尊敬している老人から啓発されたアイデアを根拠に開発したものらしい。こうすると振動板へ伝わってくる原音の歪みをストレスフリーに開放することが可能になるとの主張である。更に箱の内部で派生する不用共振に起因する混濁や脆弱な聴取環境においても原音信号の歪みは様々な形で増幅する。そうした歪みを音楽信号から駆逐せしめて元の瑞々しい音を忠実に再現する。こうしたノウハウの帰結が反対方向同一ユニットと大きなガラスウイングによる音場最適化手法にこめられている。

スピーカーユニットが挟まったガラスの大きなバッフル板とその手前にセパレートしている最適音場補正用湾曲ガラス板があって二枚でシステムは構成されている。ユニットの中心躯体そのものは小柄なのに2枚の屹立するガラスを必須とするシステムとしてはどうしても部屋の面積を食うタイプだ。少なくとも15畳以上のスペースで本領を発揮するスピーカーだろう。パワーアンプは4オームのパラレル接続して、ユニット分に対応した同一特性アンプ8台をステレオ使用している。あいにく試聴する為の耳に馴染んでいるソースは持参できなかったのが惜しまれる。

彼がPCと音楽専用インターフェイス機器を介して録ってあったチェット・ベーカーのリバーサイド盤「CHET」があってこれをかけてもらう。第一印象はジャズ音を構成するトランペット、バリトンサックス、ピアノ、ベース、ドラムスがとてもよく毛羽立った表情で実在性に溢れている。そしてその音はジャズサウンドの生命線である前によく飛び出して勇躍しているではないか。かってのYさんが製作遍歴されてきたスピーカーよりもジャズとのマッチングが良いみたいだ。聴取位置の前方へ広がっている音場の広さと深さが心地よい。そこに包摂される各楽器の点音源の像はとても鋭く明確だ。Yさんの余話で力のこもっている「位相」への腐心という話に納得がいく事象の一例である。8センチユニットが片側で16個、奇想天外というこちらのアプリオリは、「CHET」におけるペッパー・アダムスのバリトンソロ等を聞いていると見事に覆されてしまう。実務臭いペッパー・アダムスのバリトンの音色に、こんなに表情というものの原質的肉感を感じたことはなかった。

以前は8センチのこのスピーカーは英国ジョーダン・ワッツ製の流れをくむバンドールというメタルコーンのユニットだった。スピーカーシステムの新計画ではこのユニットだと技術上の都合でマウントができなくなってしまった。それで変更を余儀なくされたとはYさんの弁である。これを同口径の他社改造品に変えたらしい。そのジョーダン・ワッツでしばしば聴いていた時には、いつも空気に付着するメタリックな付帯音にいつも違和感を表明していた公平な自分である。今度は音が太くなっているのにくすんでもいない。不思議だ。朗々と力感を感じる再生音がきびきびと鳴っている。ユニットの計画変更がもたらしたオーディオノウハウの不思議を感じてしまう出来事である。大きな音でも疲れずに聴ける。これはジャズ再生の醍醐味に結びつく快味の一つである。この印象が一時の錯覚でないことを祈って、ふだん厳選しているジャズ力のあるソースを10枚ほど選んで近々に再訪してみたい気分になっている。どなたか同行したい人がいたら、このブログのメッセージ欄にて名乗りでてほしい。少人数であればきっと許可は下りる筈である。

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