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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 14

2022年02月10日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
 さとみは帰宅後、母親に夜出掛けると話をした。今日休みだった父親は、まだ寝ているようだ。
「麗子ちゃんのお宅でお勉強でもするの?」母親は言う。「麗子ちゃんはともかく、あなたが勉強したって、今さらな感じがするけどねぇ……」
「ふん!」さとみはぷっと頬を膨らませる。しかし、母親の勘違いを利用しようと思った。「良いじゃないのよう! これでもわたし、国語系は強いんだから、麗子に教えてやれるわよ!」
「国語なんて教わるものなのかい?」母親は馬鹿にする。「どうせなら、理数系が強かったらよかったのにねぇ」
「仕方ないじゃない! お母さんの娘なんだから!」
「あら、わたし、これでも、理系が得意だったのよ」母親はさらに馬鹿にする。「お父さんも理系の大学に行ったわ。それなのに、お前は文系なんだねぇ…… 本当にわたしたちの娘なのかしら?」
「何て事を言ってんのよう!」さとみはさらにぶんむくれる。母親はそれを見て笑い出す。「何が可笑しいのよう!」
「ふっふっふ、冗談よ。冗談」母親は笑い続けている。「わたしもお父さんも共に文系よ。あなたは間違いなく、わたしたちの子供だわ」
 
 夜十時を回った頃、玄関チャイムが鳴った。母親が応対に出る。二階の自室で寛いでいたさとみを母親が呼ぶ。
「さとみ、百合恵さんよ」
 さとみは大慌てで着替えをして玄関まで下りてくる。いつもの無二屋のポコちゃんスタイルにイチゴのアップリケの付いたポシェットをたすき掛けにしている。百合恵はロングの黒いスカートに白の長袖のブラウスと言う、質素でいて品のある姿だ。
「わあ、百合恵さん! どうしてここへ?」
「松原先生に連絡いただいてね」百合恵が笑む。「また、学校で何か起こったようね?」
「そうなんです……」さとみはため息交じりに答える。「助けてあげなきゃいけない霊がいるんですけどね……」
「おおよそは豆蔵やみつさんから聞いたわ」百合恵が言う。「冨美代さん、ちょっと困ったちゃんのようねぇ」
「そうなんですよね」さとみはうなずく。「でも、決して悪気があるわけじゃないんです」
「ふふふ…… さとみちゃんはみんなに優しいのね」百合恵はすっとさとみに顔を近付ける。いつもの甘い香りが鼻腔をくすぐる。「そう言う所が好きだわ」
「そ、そんな……」さとみは顔を真っ赤にする。からかわれていると分かっていても、ぽうっとなってしまう。「……とにかく、出ましょう。一応、麗子の所で勉強するって事にしてあるんです。……お母さん、出掛けて来るね!」
「え? ああ、はいはい」リビングから母親が顔を出した。「百合恵さん、さとみをよろしくお願いしますね。麗子ちゃんと一緒に勉強するらしいんですけどね」
「ええ、そのようですわね」百合恵は話を合わせる。「わたし、監視役として、しっかり見張っておりますわ」
「……やあ、おはよう」呑気そうに言って、普段着の父親が現われた。「……おや、百合恵さんじゃないですか、って、もう夜なんだ」
「お父さん、幾らドラマの録り溜めを見続けたからって、寝呆けては困りますよ」母親が諭す。「もう若くないんですから、自分の限界を知っていただきませんと」
「ははは、徹夜して見続けてちょっと休んだだけだと思っていたけど、もう夜だったのかい…… と言う事は、また明日から仕事か……」父親は力無く笑うと、がっかりしたようだ。「……じゃあ、着替えたばっかりだけど、またパジャマになって寝るよ、おやすみ……」
 父親はリビングの方に戻って行った。その後を母親が心配そうに追いかける。
「あの、百合恵さん……」途中で母親が振り返る。「さとみの事、よろしくお願いしますね。麗子ちゃんの勉強の邪魔にならないように見張っていて下さいね。この娘、目を開けたまま寝るって言う技を持っていますから、騙されませんように」
「もうっ! お母さんったらあ!」さとみがぷっと頬を膨らませる。「好い加減にしてよね!」
「さとみ……」母親は真顔になってさとみを見る。思わずさとみも真顔になった。「もうっ! は、牛よ! あはははは!」
 母親は笑いながらリビングに消えた。さとみは呆然とした表情で母親の後ろ姿を見つめていた。
「……百合恵さん、行きましょう……」
 恥ずかしさで真っ赤になりながらさとみは家を出た。今夜は月が煌々としている。
「……さとみちゃん、お母様は麗子ちゃんの所に行かないって分かっているわよ」
「え? じゃあ、娘を信じていないって事ですか?」
「わたしが迎えに来るなんて、普通に考えたらおかしいと思うじゃない? 麗子ちゃんの親御さんならまだしもね」
「……言われてみれば、そうかも……」
「お父様だって、何も言わなかったでしょ? どこへ行くんだとか、何の用だとか」
「それは、放任主義だからで……」
「そうじゃないわ。さとみちゃんが信頼されているからよ」
「それは百合恵さんが一緒だからで……」
「だとしたら、わたしも信頼されているのかしらね?」
「絶対そうですよ! わたしなんかよりずっとずう~っと信頼されています」
「まあ、嬉しいわね」
 百合恵は優しい笑みを浮かべた。


つづく

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