拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

学びたい(倫社と現国ではなく)

2007-04-25 02:08:45 | 活字全般
私は「名刺」というものを持っていない。しかし今なら岡田あーみんの漫画『ルナティック雑技団』とともに、「わたくしこういう(物を好む)者です」と、この本を名刺代わりに差し出すだろう。松尾スズキ著『この日本人に学びたい』。松尾スズキがその独自の観察眼で毎回一人の著名人を分析し、その生き様を通して強引に何かを「学ぶ」というコラム集である。飯島愛から「過去を清算する生き方」を、松本人志から「動物だったら死んでいる、人間ならではの生き方」を、知念里奈から「沖縄の少女の悲哀」を、坂井泉水(ZARDの人)から「過去の積み重ねで今がある」ということを、…なんか間違ってるかもしれないがとにかく。著名人たちを毒のある、しかし愛のこもった視線で見つめ、その生き様から学びどころを探し出し、賞賛していく傑作コラムなのである。その中でも、前述の松本人志の回と、97年に神戸で起き、世間を震撼させた児童連続殺傷事件の犯人であり14歳の少年・通称「酒鬼薔薇聖斗」の事を扱った回は秀逸である。
前者では、人間が生み出した文化を「勉強もスポーツも出来ない奴が輝ける唯一のシステム」と位置づけ、芸の道という、他の動物には無い、人間の世界にしか無い道を歩く人々を賞賛する。もしもヒト以外の動物に生まれたならば、獲物を捕らえる技術・体力、若しくは狩りを指揮する知力なども無く餓死する。しかし人間に生まれたということで、人間だけが持つ芸術の世界で己の才能を開花させることができた人々。子供の頃から勉強が得意ではなく、体も弱かったという松尾自身はもろにこのタイプの人間であり、「(人間に生まれたから)私もなんとか生きている」と宣言している。そして、同じく勉強・スポーツが苦手だったお笑いエンペラー・松本人志を「動物だったら死んでる業界のトップランナー」とし、ついでに『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明氏を「動物だったら死んでる業界の重鎮」として讃えている。かなり笑える上に、松尾スズキの「芸術」に対する真摯な思いが伝わってくるようで胸が熱くなること必至。
後者では、連続殺傷事件の犯人が逮捕される前、松尾の大学の同級生で、「サカキバラセイト」という名前の親友を持つ青年にまつわる衝撃のエピソードを聞き、「そいつが『あの事件』の犯人じゃ!??」と当時本気で戦慄したことを回想している。しかし結果的に捕まったのはご存知の通り松尾の同級生とは全くもって関係の無い14歳の少年。同級生に聞いたエピソード、全くもって無関係。はっきり言って、そのエピソードに出てきた青年が捕まった方が物語性がきちんと成立しているのにも関わらず、無関係だった。松尾が聞いたエピソードの他に世間レベルでは当時、事件との関連性がささやかれた事象がバンバン浮かび上がった。「小学校周辺をうろついていた南京錠を持った男」「ゴミ袋を持った鋭い目つきの男」…事態はさらに飛び火し、「薔薇」つながりで、「犯行声明の引用元と思われる曲の歌詞を書いた『鬼薔薇』いうバンド」「『薔薇族』という雑誌」にまで関連性が囁かれる。しかし、犯人逮捕後、これらの噂はいつのまにやらすっ飛んでしまった。このことから、現実に起こること全てに関係性・意味性があるとは限らない、関係ありそうに見えて実は皆無であるということを松尾は学びとる。学びとるというか、松尾の表現の根底にあるものは多分それだ。そして、そんな関係ない「ノイズ」のようなものに溢れて混沌としている状態こそがリアルであり、意味の無い事象をカットすればするほど物事はリアルから離れていく、と説く。そして、自分はノイズ混じりである真のリアルを描く作家でありたい、と宣言する。

「つくづく、ドラマ作りとはリアルから『ノイズ』をカットしてすっきりさせる作業なのだなぁと考える」
「ノイジーな部分をカットするということは、事実を口当たりよく歪めることになる」

これらの発言は、己の作品でリアリズムを追求しようとする表現者―小説家でも漫画家でも劇作家でもなんでもいいんだけど、そういう表現者を目指す人にとってかなりのヒントになってる気がしないでもない。あ、ヒントにしちゃダメか?まぁとにかく、リアルというものを考える際の良い指針にはなると思う。
「この日本人に学びたい」、お得な文庫版も知恵の森文庫から出てるので、是非読んでみて欲しい。というか文庫版の方がおすすめ。文章中に大量に登場する固有名詞に細かい注釈がついているのだ。劇団大人計画に所属する宮崎吐夢氏によるその注釈、わかりやすい上に笑える。彼は昔、毎日「徹子の部屋」を見て絵日記をつけていただけあって芸能情報にかなり詳しいのだ。注釈まで笑える本…。以下秀逸だと思った注釈を引用して今日の記事を締めたいと思います。それぞれ、割愛したりせずそのまんま引用してます。

安室奈美恵…友人の結婚式にSAMの実弟が来ていたので、司会をしていた私(宮崎)が「『CAN YOU CELEBRATE?』を唄ってくれませんか」と頼んだらアッサリOK。あまりのガードの甘さと人柄の良さに驚きました。 
『うなぎ』…今村監督も、もっとスゴイの何本も撮ってるのにコレといい『樽山節考』といい……日本人にとってカンヌというものがわからなくなる、そんな一本。
『デビルマンレディー』…「なんでいまさら?」という疑問を、「なぜウーマンではなく『マンレディー』なの?文法的にはあってるの?」という大疑問でねじ伏せて、もはや内容までああだこうだと言うとこまではいかなかった、いかさなかった作品。
『ジュラシックパーク』…映画。数億年前、恐竜の血を吸って、そのまま琥珀に閉じ込められた蚊からDNAを取り出してクローン技術を駆使して恐竜を作ったら、アー!こんなハズじゃ……みたいな話。
庵野秀明…シーサー似。


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