「われに撃つ用意あり」という、一昔前の映画をご存知だろうか。
ハードボイルドな邦画を好むファンなら、すぐに作品名にピンと来るであろう。
1990年(平成2年)に公開された作品(松竹映画)で、監督は「寝盗られ宗介」「キスより簡単」などで知られる若松孝二。主演の原田芳雄は、本作でブルーリボン主演男優賞を受賞。原田さんは、惜しくも昨年7月に病で亡くなられた。
実は、この映画の舞台となったのは、日本一の歓楽街「新宿・歌舞伎町」である。
つまり、平成初期の歌舞伎町を知る者にとっては、特別の意味を持つ作品なのだ。
当時、歌舞伎町のパチ屋に入り浸っていた私も、本作に対する思い入れは大きい。
http://blog.goo.ne.jp/selfconfide777mc/e/942c8fd33de397f3246c7df0fcf22006
(1991年当時の歌舞伎町パチンコ店マップ)
作品中のいたる箇所で、足繁く通ったホールの「雄姿」が映り込んでいる。当時を偲ぶには打ってつけの作品といえる。
今回、詳細なストーリーの解説は、専門の映画評論サイトに譲る。当ブログの趣旨に基づき、映画のどの場面で歌舞伎町のパチ屋が映っているかを、明らかにしたい。
ハッキリ言って、興味を持つ人間は極めて少数だと思うが…伝わる人には伝わるだろう。
「われに撃つ用意あり」で登場する、歌舞伎町のパチンコ店
(目印となる、パチ屋以外の建物・看板も併せて紹介)
★オープニングでは、夜の新宿大ガード交差点の遠景が映る。ボンヤリではあるが、新宿西口の大型パチンコ店「ジャンボ」のネオンが見える。
★やはり冒頭部分、「麻雀道場コスモス」というTV麻雀店のネオンが映る。これは、西武新宿駅前通りで撮影されているが、後方オレンジ色のネオンが、パチスロ専門店「ビッグプレイ1」(現・「スロットクラブエスパス新宿1」)。さらに後方の大きな白いネオンは「日拓1号店」(現・「エスパス西武新宿駅前店」)。
★一也(松田ケイジ)がバイクに乗り、厳戒態勢の歌舞伎町を偵察する場面。全身白ずくめでグラサン姿のヤクザが、両手をポケットに入れながらパチンコ店の前を歩いている。背後で「ピンポーン、535番台スタートしました」という大当りの自動音声も聞こえるが、このホールは旧コマ劇場前の「オデヲン」(現・「オリエンタルパサージュ新宿」)である。また、直後のシーンでは、ヤクザの背後に「ワーロック」(Warlock)「ザ・トレイン」(Beyond the door III)という、当時公開された洋画の看板も見える。
★続いて、パトロール中の警官二人が、繁華街の交差点を渡るシーン。「大番寿司」「サウナ・プレジデント」のネオンから、新宿区役所通りの「風林会館」交差点だと判る。その直後、3人のヤクザがネオンの下の自動ドアの前で情報交換をする。実は、これはパチンコ店の自動ドアで、「日拓1号店」の裏口(エビ通り側)で撮影されたものだ。自動ドアの奥には、店内の「競馬中継用モニター」が見えるが、これも懐かしいアイテムである。
★メイラン(ルー・シュウリン)がヤクザに追われ、地下駐車場の隅に身を潜めて「克彦…」とつぶやくシーン。克彦(原田芳雄)は、メイランの肩を抱いて夜の歌舞伎町を足早に進む。これも、西武新宿駅前通りで撮影されている。その直後、克彦達の姿を見たヤクザが裏路地から飛び出して後を追うが、その裏路地にパチンコ店のネオン看板がチラッと映っている。「日拓2号店」(現・「エスパス西武新宿駅前店」)のネオンである。向かいには、「鮒忠」という料理屋の看板も見える。
★バーで三宅(小倉一郎)と派手にやり合った馬場(斉藤洋介)を、酔った秋川(石橋連司)が「奢ってもらおう」と慰めるシーン。その直後、派手なスーツ姿のヤクザ達が、路地でメイラン達を必死に探している。背後に風俗店「USA」の赤い看板らしきものが見えるが、これは老舗の「USA」ではなく、いわゆる「ボッタ〇リ」として有名だったほうだ。したがって、ロケ地は一番街通りと西武新宿駅前通りを結ぶ「エビ通り」。ここでも、「ピンポーン、506番台スタートしました。」というホールの自動音声が聞こえるが、位置的に考えて「日拓1号店」のアナウンスだろう。
★続いて、中年の客引き(草薙良一)が、「社長、良い娘いるよ~」と通行人に声を掛けるシーン。当時の歌舞伎町では良く見られた光景だが、これは歌舞伎町公園(王城公園)前で撮影されたものだ。偶然通りかかった克彦とメイランを「ヨッ、マスター。今日は良い娘連れてるね~」とひやかすポン引きだが、ベテラン刑事の軍司(蟹江敬三)が来ると、表情をこわばらせる。このシーンで、軍司の背後に煌々と輝く白と赤のネオンが映る。これは、さくら通りのパチンコ店「トップス」(現・「ゲームプラザGAO歌舞伎町店」)のものだ。
★偽造パスポートを受け取ったメイランが、ビルの陰から現れた克彦に手を掴まれて、そのまま二人が走り去るシーン。克彦と一也が身を潜めていたのは、コマ劇前「新宿ジョイパックビル」(現・「ヒューマックスパビリオン」)1Fのパチンコ店「ラスベガス」(現・「ゲームカーニバル」)入口付近だ。その後、克彦達がヤクザに追われる場面では、コマ劇裏の「アマンド」や裏路地のアダルトショップ、そして東通りの「ルノアール」などが確認できる。ルノアールの後方には、パチンコ「ニューメトロ」やキャバレー「ロンドン」の看板も小さく見える。
★なお、パチンコ店とは無関係だが、克彦と李津子(桃井かおり)が、マフィアのボス(室田日出男)と壮絶な銃撃戦を繰り広げるシーン。この舞台となったのは、新宿区役所通りの「メトロプラザ」。また、克彦と軍司が銃を持って睨み合う場面は、向かいの「新宿バッティングセンター」付近で撮影されている。そして、負傷した克彦とリーが座り込むラストのシーン。原田芳雄の名曲「新宿心中」が流れてグッとくる場面だが、早朝のコマ劇前広場が撮影場所である。二人の背後には、コマ劇の古い「Koma」のロゴも見える。隣の新宿東宝会館には、洋画「ローズ家の戦争」(The war of the Roses)(1990年5月日本公開)の看板が掛かる。
★劇中、歌手の佐賀紀三江が、流しのギターを伴奏に「女一代」という自身の曲を歌う場面がある。ヨウツベ等でお目に掛かる事はないが、平成初期の「隠れた名曲」である。