見抜く力―夢を叶えるコーチング (幻冬舎新書)平井 伯昌幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
趣味が水泳なので、北島康介選手のコーチである平井氏の著書を良く読みます。
内容は、水泳愛好者に限らず主婦の方、ビジネスマンの方が読まれても、
とても読み応えを感じるでしょう。
50m、100m、200mと泳ぐ10秒から2~3分程度の間のドラマは、
1日で作られることではなく、何年も何十年も前から夢と目標を持ち、愚直な努力の成果を
オリンピックや試合で出し切ります。
私たちの生活の中、仕事でも同じようなシーンが沢山出てくるのです。
その中で課題を見つけてクリアしていく。その繰り返しが金メダルの獲得に繋がったようです。
◆アプローチを変える
アテネまでは康介を引っ張っていった。
金メダル達成をしたら、今度は康介自身が自分の目標に向かっていく立場であった。
コーチとしてバックアップすることに専念。
ライバル選手の力・戦法をさぐる。康介の決勝の泳ぎ方と戦術はまかせろ!
4年前と同じことをしても勝てない。コーチのスタンスを変えた。
一度完成させた泳ぎをあえて崩し、一から模索した。
礼子
精神的な弱さ、本番に弱い
「先生が悪かった。昨日は悔しくて眠れなかったよ」と200m予選前にいうと、礼子は号泣。
気持ちをスッキリさせて次の準決勝、決勝への気持ちの準備が整う。
改めて、礼子に問いただす。
「200mにむけてどう考えているんだ?」
「100は隣を意識しすぎたので、200は自分のレース、自分の泳ぎをしたい」これが望んだ答えだった。
◆自分自身へのチャレンジでもある上田春佳への指導
康介が繊細さと心の芯の強さ、強靭な精神力を持ってうのに比べ、
春佳は大らかで図太く、余りストレスを感じない違うタイプ。
◆現場にこそ答えがある
師の言葉に「水泳にとっての一番の基礎は忍耐力と克己心だ」
選手自身を知ることと才能を見極めること。
答えは常に現場にある。・・・現場主義の教え
◆指導者は謙虚な心を持て
元選手ならこうあるべきと固定観念があったかもしれないが自分の場合は、
実績のない選手だったから嫉妬感もなく、自分の体験の押し付けもなかった。
◆「コーチとして指導する時は、まず大胆な仮説を立てろ」
選手をこういうふうに育てたい、こんな泳ぎをめざしたいとか仮説を立てて、
それにはそんな解決すべき問題があるかと見つける。
その上で指導しなければならない。
元選手ならスタートの仕方はこうあるべき、etc...と判断基準でみるから、
「なんでこんな泳ぎしかできないんだ」と不満を持ってしまいがちになる。
その固定観念をみずから崩して、新しい仮説を立て選手を目標に向かって導ける人は、
指導者としても大成できるのではないか?
◆初心者の指導、
同じ目線で向き合い、変なプライドや実績を忘れてとにかく謙虚になること。
上からの目線や、腹を立てて怒るだけでは思うような指導はできない。
初心者に限らず、どんな人を相手にする場合でも指導者はまずは謙虚な心をもつ必要がある。
それが指導者のとしての「イロハのイ」
◆指導の前に相手の特性を見抜く
泳ぎには選手の性格が出る。ムラ気、諦めが早い、気が弱いなど。
特性には「身体的特性」と「精神的特性」がある。
それぞれの選手の泳ぎを見ながら、精神的な特性を知って対処法を練ることもコーチの仕事。
「チャレンジしているのか」
「それなりにながしてやってるのか」
「究めるところまで達しているのか」泳ぎ以外の心の動きまでみとおさなければならない。
例えば、
試合で緊張してプレッシャーに負けるタイプは、練習でも本人の中のあるレベルを超えると諦めるタイプ。
最初から諦めるタイプ。スタートから手加減するタイプ。
従って、
試合のためのメンタルトレーニングは、すでに練習の時から始まっている。
40分のメイン練習時に、選手の中で常に心の葛藤があり、課題を練習中に解決しない限り、
試合でも解決はできない。練習と試合の傾向はいわば相似形。
康介は全力を出すことが当たり前のタイプなので、練習を控える場合も。
礼子や春佳は近くで叱咤激励しないとがんばれないし、
制限記録を作ってクリアできるまで何度もやり直させる。
選手によって1本1本の泳ぎの記録を点数化し、合格点がでないと終わりにさせない方法もある。
◆成績より人間を見よ
選手にもいろんなタイプがある。
思ったような記録がでなくてタッチ板をなぐる、波があったから泳ぎにくいなど、
自分の成績が伸びないのを環境や人のせいにする選手は問題の本質から逃げることに慣れているので、結果の伸びない。
古橋会長の言葉:「挨拶、言動、礼儀」
私たちの周りを見ても、トレーナーやドクター、施設の管理者などお世話になる人が多い。
そうした人々への感謝や礼儀を忘れてはいけない。
世の中には老若男女、いろんな人から認められるような人にならないと一人前とはいえない。
水泳を究める、何かを究めるとは人間力を究めることでもあるのだ。
◆五輪は素質だけでは通用しない
肉体的にも精神的にもさまざまな重圧に耐えれる精神力を持っていること。
◆具体的なコーチングのコツは、褒める。
泳ぎを見て「ここが良かったよ」と指導して良くなった点、記録を褒める。
その後、「でもね。こういう所を直していけばもっと良くなるよと教える」
「ここはダメだった」と否定的な言葉は使わない。
あくまでも肯定的に、「自分の弱点や悪い部分はこうして直せばもっと伸びる」と指摘する。
その上で、どうやって直すか。その方法論を具体的な課題まで掘り下げれば選手も聞く耳を持ってくれる。
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選手は練習で試行錯誤を重ねながら、少しずつ成長する。努力をして新たな課題を発見し、
それを克服することで自信をつけ、精神的な強さも身につける。
それには、小さな失敗と成功の積み重ねが強い人間を育てる。
◆伸びる選手とは周りが伸ばそうとしてくれる選手
選手の成長は一直線ではない。
単純な練習の繰り返しでは伸びなくなる時期が来る時、コーチのすることは、
感性を磨かせる努力につながる質問をする。
「今日はこのテクニックを直そうと思うけど、今泳いでどうだった?」
最初のうちは、「よくわかりません」「あまり感じませんでした」という答えから、
「すごくお腹に力が入って水がよくかけてます」という返事をするようになる。
半場、強制的な練習が、きちんと意味つけられ何倍もの濃さになって戻ってくる。
コーチの指導と選手の感覚、実際のテクニックがどうやって一致させるかが大切になってくる。
水泳は、自分のことばかり話す、ひねくれる選手は伸びが止まる。
一緒にトレーニングする仲間やコーチがどんな人間かお互い認め協力する関係が大切。
なぜできなかったではなく、なぜできたかを考える
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ミスをした時、誰でも「どうしてダメだったかを考える」
しかし、調子がよくて記録も良かった時に、「なぜ良かったのか?」と考えることが必要である。
この良かった原因や効果が上がった理由をきちんと整理しまとめておかないと次に生かせない。
調子が悪い時に、「なぜ、あの時にできたのか」がわからないと元の調子に戻せない。
これを「リカバリー能力」という。そして「どうやってリカバリーをすると良くなったか」という
引き出しを沢山増やし、最大限に生かす。
◆高いアベレージで泳ぎきれ
オリンピックでどう戦うか。プレッシャーの少ない試合で課題をだす。
メンタルは常に100%。
体90%でも心が100%で行けるか?
体80%でも心が100%で行けるか?
ふつうは、体70%なら心が60%になる。
プレッシャーがある時に心が100%に持っていく努力をしなくてはならない。
オリンピックの場合、予選、準決、決勝と緊張感を持って3日間を過ごさなくてはならない。
◆心の弱さは体で鍛えよ
20本なら20本とも同じタイム・ストローク数で泳ぐ持久系の単調な練習がある。
これを意識的に増やしている。肉体的にも疲れ、精神的にも消耗し耐えた時、
「精神的持久力が鍛えられるのではないか」思う。
結局、練習でできないことは試合もできない。
◆まずは短所に目をつぶる
人間、だれしも短所がある。最初から短所をいうと長所を伸ばせなくなる。
まずは、長所を伸ばしておいて、短所が長所のじゃまになってるかもしれないと感じた頃に、
短所を伸ばすとよい。
◆言葉は競技も上達させる
自分の目標や気持ちを言葉で表すことで言った事への責任が生じるし、決意を新たにすることもできる。
◆ピンチをチャンスに変える。
◆ポジティブシンキングで行け
「もし負けたらどうしよう?負けないようにするにはどうしよう」よりは
「どうしたら勝てるか?勝つためには何ができるか?」が前向きになる。
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ポジティブな攻めの気持ちで行かないと良い発想も生まれない。
◆練習メニューは食事と同じ
年齢の低い子は、毎回、持久力、スピード、瞬発力など3日で一回りする。
レースの2~3週間前は特別メニュー。
年間でメニュー配分を決めてある。
◆選手の得意な部分から伸ばせ
スタートの瞬発力、キック力、ターンのテクニック、後半の持続力、ラストの爆発力など
全てが同じレベルの選手はいない。
全部の要素に欠点のない選手は反省点がなく、次のレースにむけて強化する目標がなく記録が伸びないこともある。
それよりか、レベルにデコボコがある選手に「伸びしろ」が感じられ魅力を感じる。
デコボコの得意な所から伸ばせばよい。
◆夢の年間計画の作り方
オリンピック終了後に次の4年計画をたてる。企業の事業計画に似ている。
◆成功をパターン化するな
織田信長の「桶狭間の戦い」は奇襲攻撃で成功した。
これは信長が10分の1の軍勢で敵の本陣を奇襲し、今川義元を討ち取った歴史上で有名な話だが、
信長は同じようなパターンは繰り返さなかった。
つまり「信長は同じ成功パターンは繰り返さなかった。それには努力が必要だった」と東スイの先輩から指導された。
「同じ失敗を繰り返すのではなく、同じ成功を繰り返さない」
康介の力まない泳ぎは2002年の釜山大会で完成したが、成功パターンの繰り返しでは、
先がないことが見えていたので、あえてウエイトトレーニングをするなどアンバランスを作った。
あえて新しい物にチャレンジし、今までの成功パターンを崩していっても答えは誰もわからない。
答えは自分にしか出せない。康介と共に試行錯誤しながら、「これだ!」という泳ぎがみえた。
力は入れてないが、前よりパワーがある。これでアテネ・北京とそれぞれの成功パターンが続いた。
その成功は勝った瞬間に捨て去らねばならない。立ち止まっていたら、その日が人生のピークになる。
「させ、次は何を目指すんだ?」人生、毎日がその繰り返しだ。
◆プロセスは変えても、目標は変えるな
最終的な目標のこだわりは大切にしなければならない。
「これだけ練習したのだからオリンピックが狙える」ではなく、
「オリンピックに行くために、この厳しい練習をしている」と考えるのでは雲泥の差だ。
康介には、練習や国内大会は最初からオリンピックを目指すための位置づけと指導した。
オリンピックという目標のためにどんな経験をし、逆算して後ろの方から練習計画を入れていった。
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長期目標のために短期目標を決め実行。
康介が強くなってからも目標を見失わず迷わなかったのは、オリンピックのために
必要な条件を満たすように努力したからだ。課題を一つ一つ埋めていきオリンピックという目標をクリアした。
途中のプロセスで練習方法が合ってるのかいないのか、わかってくるときがある。
自分が間違っているとわかったら潔く方向転換する勇気も必要だ。
人間の成長が止まるのは、自分のこだわりが捨てられなくなったり、自分の方法論が固定化してしまう時である。
たとえば、エベレストの頂上に到達できないときに、自分のやり方に固執する人は、
「雪崩があったの頂上まで行けなかった」と言い訳して諦める。
こういう人は目標よりプロセスを重視する。
しかし私たちが目指すべきは最終目標である。途中のプロセスの変更するにしても目標さえしっかり見えていれば、
何も惑わされることはないのだ。
◆プレッシャーを味方につけろ
「金メダルをとりたい」
「もしかしたら取れないかもしれない」と思いながらやるのではプレッシャーの感じ方が違う。
中には、「取れればいいな」と思ってる人が、その場の勢いで「絶対獲ります」などと言うことがある。
そんな時に、気持ちと言葉にギャップが生まれ、それがプレッシャーの種になり増幅するのではないか。
最初からその種がなければ、プレッシャーも必要以上に巨大化しないはず。
金メダルにしても、現状の把握とか、課題の克服をしていったときに、
最大可能な目標の範囲内にあるかどうか、それを見据えた発言なのかが問題だ。
行ける範囲内だろうと読みも自身もあった。だから必要以上にプレッシャーを持たず、自分の実力を把握しておくこと。
そのために、練習して行った先に金メダルが可能な範囲かを冷静に判断することが必要。
その可能性が、自分の気持ちと近ければ、大きなプレッシャーを感じることもなければ、自分に負けることもない。
◆新たな世代を育てろ
夢に向かって行く、情熱をもった人間が少なくなった。
それは選手だけでなく、コーチする方にも問題があるかもしれない。
私が康介や礼子、春佳といった選手と会ったころは毎日が楽しくて夢に燃えていた。
「こいつらがみんな強くなったら、どうなるんだろう」
「みんながメダルを獲ったら、最高に面白いな」と考え毎日がわくわくしていた。
ところが最近はコーチもサラリーマン化して水泳にのめり込むのではなく、
コーチも「仕事」の一環と割り切り、黙々とノルマをこなしている。
一方選手の方も、泳ぐ楽しさや喜びを味わうより、淡々と練習をこなし、
試合に出ることを学校のクラブ活動の延長と思っている。本当にそれでいいのだろうか?
私が考えるコーチとは、
『選手に対して、もっともっと夢を与える存在』
たとえ毎日の練習が厳しく記録が伸びなくても、
「今日はこの子の泳ぎが良かった」「ここを工夫すれば、もっと伸びるな」
そんなすうに切磋琢磨しながら、大きな夢に向かって泳がせたい。
コーチのやる気があって、選手もやる気をだす。
そのお互いの相乗効果に中から、夢や目標が見えてくるのだ。