【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ7-500 「東京タワー」

2007-05-15 | 修学旅行ss

477 :名無しさん@お腹いっぱい :2007/05/12(土) 20:02:08 ID:yFI6mKMZ
行方不明者が・・・
てか明日から修学旅行っすよ・・・しばらく佐々木スレみれないのが悲しい。
・・・てなわけで誰か修学旅行ネタのSS作ってくれないですかね?


500 :東京タワー 1/4:2007/05/12(土) 22:54:50 ID:e3JPxhor
「東京タワー 佐々木と俺と、時々、誰か」

 てな感じで、リリー・フランキー原作のベストセラーにあやかったタイトル通り、
俺は佐々木と、須藤、岡本などのグループで東京タワーを見上げていた。すでにお察しの通り、
東京見物を主題とした修学旅行の二日目、自由行動日である。自由と言っても、事前に担任
教師に行く先とスケジュールを書いた行動予定表を提出してのモノだ。グループ単位の
レポートの提出が義務づけられているものの、我が班には、佐々木様がおられる以上、これは
楽勝というものだ。そんなわけで、俺は完全にただの観光客と化していた。だが、修学旅行な
んてそんなものだろう? 真面目に勉学をしようなどという変わり者は……ひとり心当たりは
あるが、そこまで無粋なヤツでもない。さて、そんな我らが佐々木は、先ほどから俺たちに
対し、バスガイドよろしく淀みなく東京タワーの解説を行なっている。
「……というわけで、現在、東京タワーは、テレビ東京、ん、ああ関東地方のローカル局だよ。
それにNHKを始めとして9局のTVの発信拠点となっている。この高さも別段、高い建物を
建てようとしたわけではなく、関東100km圏内に電波を届かせるために必要だったというわけ
だね。もちろん、可能な限りの高さの塔を建てようというバベル的な発想がなかったとは思わ
ないけどね。その他にもJR東日本の列車に対する緊急停止信号の発信なども行なっている。
……つまり、だね。前を走る電車に事故などがあった場合、山手線や中央線のように常時過密
なダイヤで運行されている電車は危険だ。前の電車までの距離が短いからね。そこで、この東
京タワーからの緊急停止信号を受け取った電車は即座に停車してしまうというわけだ。これで、
マグロの処理をしている所に、後続車両が突っ込んだりしなくて済むというわけさ」
 マグロ? なんだそりゃ。
「キョン、気になるなら、自分で調べる癖をつけたまえ。ささ、それでは展望台に登ろうでは
ないか、僕も登るのは初めてなのだ」
 さっそうと、佐々木は中へと入っていく。俺や須藤たちもそのままついていくことになる。
 さてと、特別展望台までのチケットを買えばいいんだよな。
 チケットカウンターに並ぼうとしていた俺たちを佐々木は制する。
「ちょっと待ってくれたまえ、チケットを買う前に、先にこっちだよ」
 佐々木は荷物からぺら紙を取り出してチケットを買わずに案内所のお姉さんに渡している。
 いったいなんだよ、それは。
「事前にね、東京タワーについて調べていたらね。僕らのような修学旅行生向けの割引をやっ
ていたのさ、特別展望台まで860円が750円だ。なかなかお得だったので、プリントアウトして
おいたのだ」
 総合案内所のお姉さんは、佐々木の打ち出した特別割引券を受け取ると、俺たちの人数を
確かめ、なにやら別のチケットを渡してくれた、これを窓口に提示すると、割引が受けられる
のだという。
 渡されたチケットを裏がしたりしつつ、割引料金を支払い、俺たちは特別展望台までのチケット
を入手した。ちゃららーん、そんなファンファーレを聞き流しつつ、東京タワーの名物のひとつ、
展望台直通エレベータへと望む。
 大展望台でエレベータを乗り換える。景色は特別展望台までお預けだ。
 耳、痛くなったな。鼻を押さえて、生唾を飲み込む。ふん、ラクになった。見れば、須藤が
時計を差している。分かってるよ、と右手を上げて合図する。
 エレベータガールのお姉さんが恭しく俺たちを迎え入れる。しばらくまてば、そこは地上
250m、絶景である。高い所というのは、こう気分が高揚するな。
 ははは、見ろ、人がゴミのようだ。
「何を悪役のようなセリフを言ってるんだか」
 佐々木が呆れたように両手を上げる。何を言っている、高い場所では、これがお約束という
ものだぜ。


502 :東京タワー 2/4:2007/05/12(土) 22:58:25 ID:e3JPxhor
 それじゃ、佐々木。向こうの方で、望遠鏡でも覗こうではないか。ここからはペア行動である。
 佐々木は瞬間、疑問の顔を浮かべたが、即座に心得たと言わんばかりに、唇を歪めた。
「じゃ、岡本さん、私たちちょっと向こうに行っているから、ここからは自由行動ね。そうね、
1時間位したら、さっきの案内所で集合でいいかしら」
 なんで、待ち合わせ時間まで分かってる?
「ふふふ、キョン。キミは本当に頼りがいのある友人だね、須藤に華を持たせようと言う腹づ
もりなのだろう。僕らは、教室内では半ば公認のカップルだからね。こうして、ペア行動をし
た所で、今更だ。そうなれば当然、残りの班のメンバーもふたりっきりになれるという寸法か」
 ああ、悔しいが完璧にその通りだ。須藤に依頼されていて、な。俺はこれ以上、お前と故な
き噂の対象になるのは、勘弁だが、他の連中はどれだけ言っても、わかってくれねえしな。
お前が言い出さなければ、俺が言い出す予定だったのさ。
「それでは、景色を一巡りしたら、大展望台に降りよう、キミとふたりなら、ちょっとやって
みたいことがあるのだよ」
 付き合うのはかまわんが、一体何をするつもりなんだ?


 さて、展望台を一巡りした俺たちは、須藤たちの邪魔にならないように、大展望台へと降りる。
「さてと、少々冒険といこう」
 だから、何をするつもりなんだ。
「ああ、キョン。一応聞いておくが、キミは高所恐怖症ではないよね?」
 ああ、大好きというほどバカでもないがな。
「結構、では行こう。東京タワーを歩いて降りるのさ」
 ほう? そんな事できるのか?
「ウェブページでは日曜、祝日、特に混雑している日は“上り階段は”開放されているとあった。
さて、今日は平日、おまけにさして混雑もしていない。まったく人がいないわけではないがね。
よって“上り階段は”開放されていない。では、“下り階段”はどうかな? 折角の修学旅行だ、
思い出になることもしてみたいとは思わないかね? 僕のカンではね、常時開放されている
はずだ、下り階段は、ね」
 実際、開放されていた。重い非常扉を開けた向こうでは、地上150mの空気が直接、頬を叩
いた。風、強いな~~。
「うむむ。この風は計算外だった。キョン、大事なお願いがある、聞いてくれ」
 なんでしょ?
「キミは、僕の前を歩け、そして決して振り返るな、黄泉路を降るオルフェウスのごとく」
 奥さんを失ったあと独身主義になった吟遊詩人なら、ヤツは最後に振り返るぞ。
「地上近くなら、もう風も収まっているだろうさ。問題なのはこの状況だ。さすがにこの高さ
の階段だ。手すりには掴まりたいが、スカートも押さえたい」
 なるほど、女子は大変だな。まぁいい、俺も好きこのんで痴漢の汚名を被ろうとは思わん。
「助かるよ。まぁ僕も色を知る年頃なのでね、下着を放り出して歩くような事は避けたいのだ
が、いかんせん、そうも行きそうにない」
 はいはい、しかし、面白いこと考えたな。
「本当は歩いて登って、昇り階段認定書を皆で貰いたかったのだが、修学旅行の日程上、平日
なのは分かっていたからね」
 なるほど、それでせめて下りか……、しかし、いい風景だな。ガラス越しではなく生で見て
いるせいかもしれないが。
「渡る風が少々強すぎるが、清生としているように感じるな」
 俺たちは、ゆっくりと階段を下りた。特に話すこともないので、沈黙していたが、それは妙
に心地よい沈黙だった。俺と佐々木、世界には俺たちしかいないように感じられた。だが、
寂しくはなかった。


504 :東京タワー 3/4:2007/05/12(土) 23:01:47 ID:e3JPxhor
 眼下には眠らない街、東京があった。俺はいつかまた、この街に来るのだろうか、大学や就
職や何やらで。
「今は昼だから、よく分からないが、夜景はそれはすばらしいものなのだそうだ。人工衛星か
ら見ると、東京の夜は世界でも類を見ないほど、明るいと聞いたことがある。東京の中心部の
辺りから、中程、三鷹だったかな、その辺りまで光が途切れないのだそうだ」
 その三鷹がどこにあるのかなんてさっぱりだが、結構広いんだろうな。
「うむ、直線距離で30kmだか40kmだか離れているはずだよ」
 そりゃ、広い。まったく、人間というヤツはどこまで闇が嫌いなんだろうな。
「違うよ、キョン。キミも眠る時は、部屋を暗くするだろう。人が嫌うのは恐怖さ、闇には恐怖が
潜む。僕らに刻まれた本能がそれを知らせるのだ。よって僕らは闇を嫌うのさ。恐怖は不安
から生じる、不安は未知から生まれる。キョン、キミは未来が、先の見えない時間が、怖いと
感じたことはないか?」
 恐怖ねぇ、それほど感じたことはないな。
「あの成績でか?」
 茶化すなよ、そういうことじゃねえんだろ、お前が聞いてるのは。
「ああ、その通りさ。すまないね、キョン。謝罪と共にさっきの発言は、議事録から削除して
くれたまえ」
 未来を怖いと感じたことは、ない。多分な、それほど真面目に先のことを考えたことがない
からかもしれないけどな。
「どうしてなのか、聞いてもよいだろうか? キミはどうして、未来に恐怖を感じない? 
僕は、怖い。この時間が過ぎ去ってしまうのが、恐ろしい。そして、この時間を留めおけない
のが、悲しいんだ」
 何を言ってるんだか、明日にだって、この程度の時間はあるだろう。明後日にだって、別の
イベントがあるさ、明日は上野の西洋美術館だったか? 明後日は船の博物館でお台場だっ
けか? お前の講釈をそれなりに期待してんだ、俺は。
「それはもちろん、任せてくれたまえ。事前準備はぬかりないぞ。なるほど、明日も楽しみと
いうわけか」
 そりゃ、俺だって、受験受験と鬼のようにいうお袋は好きじゃねえし、勉強以外のことをし
ていると罪悪感があるのなんか、最悪だと思ってる。だけど、時間が過ぎれば、そんなの全部
思い出だ。
「この瞬間を過ぎれば、すべては追憶、それは脳のシナプスが紡ぎ出す虚構に過ぎない。真実
はこの瞬間にしかない、世界は僕にとって煩すぎる」
 お前がそんなペシミストだったとは、な。意外だったぜ。
「本来、そんなことはなかったのだけれど、ね。卒業まで半年を切った、そう思うとね。最近
はこんなことを考えてばかりだよ、キョン。諸行無常、一期一会、光陰矢のごとし、全部言葉
の意味は知っていた。だけど、どうやら、それだけだった、らしいね。僕は」
 変化するのが、怖いんだな。それは、分からないでもない。でも、仕方のないことだろう、
受け入れるしか、ない。
「そうだ。仕方のないことなんだ。受け入れるしかないんだ。だから、僕は一瞬が愛おしい。
この空気を吸えるのも、この風景を見るのも、一度のことだ。僕と、キミが中学三年生なのは
今年だけだ」
 留年したら、どうするよ。
「茶化すなよ、僕は真面目に話しているのだよ」
 こりゃ失敬。
「僕とキミが一緒にいることができるのは、一年だけ、季節が一巡したら、僕らはお別れだ」
 俺と佐々木では頭のデキが違う。俺よりも数段上のランクの高校をこいつは志望している。
その実力はあるだろう。滑り止めですら、俺の高望みレベルだ。
 そう、冬が来て、春が来たら、俺たちは違う道を歩み出す。それは決まっていること、仕方
のないこと、受け入れるしかないこと。
「僕はバカだ。後悔すると分かっていても、止められない、受け入れがたい現実を受け入れら
れていない。時間が来れば、どうしようなく受け入れるだろう、そう思っているんだ。追憶の中で、
大事な宝物にして、愛でていればいい。そんな風に考えるなんてあんまりにも愚かだ。でも、
僕にとってそれは最善の選択だった。だから、僕にとって過ぎゆく時間は、恐怖であり、希望
なんだ」


506 :東京タワー 4/4:2007/05/12(土) 23:04:09 ID:e3JPxhor
 こんな会話をしつつも、俺たちは足を止めなかった。風景も徐々に地上に近づくにつれて、
どこにでもある凡庸なものに堕した。
「俺とお前は友達だよ、卒業しても。そうだろう?」
 俺は何となくそう言った。卒業したら、赤の他人、それは悲しいだろう。そこまで俺が佐々木
に友情を感じていないわけもない。
「そうだね、そうあって欲しい。僕の友情は貴重なものなのだ。キミには伝わらないようだが、ね」
 ちゃんと伝わってるよ、大丈夫だ。
「そうだね、きっと伝わってるだろうね」
 佐々木はつぶやくようにそんなことを言った。俺は特に応えなかった。
 自分が卑怯だと、なぜかそんなことを感じた。


 俺たちは、東京タワーの真下にある建物の屋上に到着しようとしていた。陽はすでに傾き、
時刻は夕暮れに近づこうとしていた。
「Verweile doch! Du bist so schoen」
 聞き慣れない言葉が俺の耳を叩き、俺は思わず、後ろの佐々木を振り返った。
「ふふ、振り返ったね、オルフェウス。約束を……破ってしまったね」
 夕日の逆光の中で、佐々木の表情はよく見えなかった。悲しんでいるようにも、微笑んでい
るようにも見えた。だけど、夕日の中に佇む、クラスメイトの姿は、一枚の絵画のように、俺の
心に刻まれた。

 その時、一陣の風が吹いた。
 水色のボーダー柄、いわゆる縞パンというヤツで、俺の記憶は塗り替えられた。
「きゃ」
 佐々木が俺を怒りを込めた瞳で見つめる。
「振り返るな、と言ったはずだぞ。オルフェウス」
 ちぇ、勘弁しろよ、風は俺の支配下にはない。下の喫茶店で何か奢ろうか? 修学旅行中で
小遣いにちょっとした余裕のある俺は、そんなことをいった。
「そうか、それならば、岡本さん共々、ご馳走になるとしようか? ねぇ~、お茶にしない。
キョンくんが、お茶奢ってくれるって~~」
 そう言って、屋上を散策していた須藤と岡本に佐々木は手を振った。
 ぬぅ、四人分は計算外だ。
 岡本と自分の分は後で須藤から取り立てようと心に誓う、そんな俺だった。






作注)俺が大分昔に行った時は、下り階段は開放されてた。いまはどうだか知らぬ。それから
修学旅行割引券はあるが、それがどういうシステムなのかは分からないので、信用しないこと。


509 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/12(土) 23:06:10 ID:qobozjCe
gj
聞き慣れない言葉は独語か?訳をお願いしたい


513 :名無しさん@お腹いっぱい :2007/05/12(土) 23:16:42 ID:yFI6mKMZ
477の明日からリアルで修学旅行に行くものです。
東京タワーの佐々キョンと同年齢の奴です。
修学旅行の行き先が・・・


517 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/12(土) 23:20:19 ID:e3JPxhor
>>509
Verweile doch! Du bist so schoen
瞬間よ、留まれ! お前は美しい。

ドイツ語、ゲーテの『ファウスト』の第五幕のセリフから引用。

>>513
 おや、間に合ったようだ。いい思い出、作りなよ。