Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.305:キャリア設計とBeatBOX

2009年05月26日 | 授業のおはなし
今年から、大学2年生を対象に「キャリア設計と業界研究1」という授業を担当しています。実は当初この科目を担当することに筆者はあまり乗り気ではありませんでした。

筆者自身大学を卒業して最初に入った会社を、2年経たないうちに辞めてしまったのが大きな理由です。大学で教えるキャリアの授業では、いわゆる「7・5・3」現象(中卒7割、高卒5割、大卒3割が入社3年以内に辞めると言われる現象のこと)を忌み嫌う傾向がありまして、本学みたいな「就職命」な雰囲気の大学では、「3年以内に辞めるなんて・・・」という風潮がどうもあるのではと推測していたためです。

さらには、社会人教育部門に所属していた頃から、「キャリアなんて人から教えられるものでなく自分で考えるべき」という固定概念に囚われていまして、この科目の担当は避けたいと思っておりました。しかし「やれ」と言われれば断れない状況でもあり、4月から授業を担当してます。

そのような背景のため最初は少々引き気味に授業を開始したのですが、何回か続けていくうちに、この授業を通じて今の大学生の悩みとか職業観のようなものがダイレクトに伝わってきまして、これはなかなか面白い授業だなあ。と考えるようになってきました。

授業の概要
科目のゴールは自分のキャリア設計書が書けるようになる。職種や会社での仕事等について理解する。就職に対する意識を持つ等、色々と設定されています。

2年生の必修科目ということもあり、現在私を含めて4人の教員が共通のプログラムを実施しています。必修科目なので嫌々ながら出席している学生も少なくありません、さらには5時限目(16:30~)開始の授業のため、基本的に学生は疲れて集中力を欠いた状態で授業に臨んできます。飽きさせずまた眠らせないよう、授業は毎回4つぐらいのモジュールで設計し、小レポートを提出させています。モジュールは「自己分析」「キャリア用語の解説」「ビデオ」「仕事の理解」「基礎学力チェック」等のテーマで15分~20分ぐらいの学習内容となっています。

仕事インタビュービデオの作成
筆者が教材開発を担当したモジュールの一つに「職種ごとの仕事内容について説明する」というテーマがありました。このモジュールでは学内の他部署の職員や筆者がeラーニングの仕事をやっていた時にお世話になったSI会社の営業の方に仕事のインタビューをさせていただき、その模様を録画・編集して授業の中で活用しました。(合計7人にインタビューしたのですが、結局時間の都合上授業に使えたのは2人だけでしたが・・・)

よくテレビ等で見る働く人のインタビューは、その道で優れた業績を残した人ものが多く、これらを見ても学生が「自分達とは別世界の人の話だ」と認識してしまうのではと考えました。そこで名もない一般のビジネスパーソンのインタビューならば、仕事の醍醐味やおもしろさを自分達の未来の姿とつなげて感じてもらえると考えこのようなビデオを制作しました。

作ってみると別の発見がありました。このビデオは学生の教育に利用することを目的に開発したのですが、インタビューされた人の多くの人が「今までの自分の仕事を振り返ること良い機会となった」と話してくれたのです。どうやらこの手法、学校職員の研修(Staff Development)としても効果がありそうです。さらに言えば筆者自身今回のビデオ撮影で多くのことを学ぶ事ができたので、「学生、教員、職員」相互に学び合うきっかけになったのではないかと考えています。

小レポートでの驚き
しかし、一番のコンテンツはなんといっても学生に毎回書かせている小レポートです。これにはホント圧倒されています。今の若者の仕事に対する価値観が実に多様なんだなあということに毎回驚かされています。そうしたレポートの主な意見を次回の授業に用いると、学生も素直に聴いてくれるのです。

今まで出したレポート課題としては、シャインのキャリアアンカーを説明した後に「今現在の自分のキャリアアンカーは何だと思うか、またその理由は?」「今のインタビュービデオを見て、インタビューされた人のキャリアアンカーは何だと思うか、またその理由は?」等、大人でも書くのが難しい事を要求してきました。

すると2割ぐらいはメタメタ、6割はまあ大学生ならこんなレベルかなという回答を提出するのですが、残りの2割は大変興味深い回答を提出してきます。

BeatBoxerとプランドハプンスタンス
前回の授業では、クランボルツ教授のプランドハプンスタンスについて説明した後に、自分のプランドハプンスタンス的な出来事を書かせるというレポート課題を出しました。するとある学生から大変興味深いレポートが返ってきました。

その学生はBeatBoxという音楽パフォーマンスをやっています。Wikipedaによると、BeatBoxとは人間の口からの発音のみでレコードのスクラッチ音や、ベース音などをリズムに載せて、音楽を作り上げるテクニックとのことです。

彼は、海外のBeatBoxer達のYouTubeの映像を見て独学でBeatBoxのテクニックを修得しました。そしてドイツで開催されるBeatBox世界大会の予選がYouTube上で開催されるというのを知り、勇気を出してYouTubeに自分のパフォーマンスを投稿しました。すると後日NHKからテレビで取り上げたいのでインタビューさせて欲しいという連絡があったそうなのです。

ちなみに下記が彼のYouTubeでの映像です。

Takuya for Beatbox Battle Wildcard


その後NHKに取材された時の映像は下記です。
http://doga.nhk.or.jp/doga/viewvideo.jspx?Movie=48411824/48411824peevee252261.flv
(最初の1分20秒は新型インフルエンザのニュースの投稿です)

BeatBoxのテクニックを磨きたいという意欲。世界大会に向けて映像を投稿する「前に踏み出す力」。それを偶然見たNHKの人からTVインタビューのオファー。彼は慣れない英語で自己紹介したり、自己紹介文を投稿していますが、このような機会がなければ、stomatitis なんて言葉は一生調べなかったと思います。

キャリアというのは自分で切り拓くもの。
自ら積極的に動かない限り偶然は起こらない。

筆者が授業で伝えたかったことを彼の行動は雄弁に物語ってくれています。

学生達は、筆者のような初老の爺の人生訓には全く関心を示しません。しかし、その一方で同年代の学生の考え方や行動にはとても敏感です。今の学生は周りとの相対的なポジショニングを認知して自分の立ち位置を常に確認しないと落ち着かないのだなあと認識しています。

ということで、来週の授業ではこのYouTube映像を流し、実際に彼にBEATBOXをやってもらおうと考えています。教室には学生という生の学習素材が沢山転がっています。これからも学生の良いところを引き出し、他の学生を刺激していければと考えています。

では今週はこの辺で

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