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vol282:第一回初年次教育学会全国大会(その2)

2008年12月15日 | セミナー学会研究会見聞録
期日:2008年11月29日(土)~ 30日(日)
会場:玉川大学キャンパス 大学8号館・9号館

前回に引き続き、11月29日(土)~ 30日(日)に玉川大学で開催された第一回初年次教育学会全国大会の模様をお伝えします。

前回は藤田先生のワークショップ(以後WSと略)の模様しかご紹介できませんでしたが、今回は様々なWSや発表を少しずつ紹介し、最後に筆者が感じた初年次教育の課題をまとめてみたいと思います。

参加者同士の情報交換WSS">参加者同士の情報交換WSS
初日午後2つ目のワークショップは「総合的な初年次教育プログラムを開発する」というテーマに参加しました。冒頭に国立教育政策研究所(2007)、および私学高等教育研究所(2001)が行った初年次教育の実態に関する調査報告の説明があった後、参加者個々が自大学の初年次教育の実態をワークシートに記入しました。その後6人のグループに分かれ、その記述内容について情報交換しました。筆者の参加した班では、各大学での初年次教育運営上の苦労(先生のアサイン、必修にするかどうか、再履修者をどうするか)等について生々しい意見を交換しました。一言でいうなら「どこも一筋縄ではいかず苦労している」というところでしょうか。しかし結局各グループで情報交換したところでTime Up。100人以上参加しているワークショップのため難しい側面はあったものの、最後に全体のまとめが欲しかったです。ハイ。

初年次教育の効果測定
2日目の午前中は「初年次教育の効果測定」というワークショップに参加しました。教育の効果測定は筆者が企業内教育時代から追い続けてきたテーマだけに大変参考となる発表を聞くことができました。

まずは島根大学の山田先生より、ご自身の実践されている「現代大学論」「スタートアップセミナー」という授業での技能・スキル検証の結果についての報告がありました。評価方法は、スキルや態度の自己評価を授業のプレ(4月)とポスト(7月)で実施・比較するというものでした。結果としてはいくつかの指標で有意な効果が現れたものの、一部ポストテストの方が下がった指標もあったそうです。

次に高千穂大学での全学的な初年次教育の効果測定について報告がありました。こちらもプレとポストの比較なのですが、評価対象が、文書作成スキルおよび一般常識と具体的である点、一人の教員の実践でなく全学での実践(1クラス15名×40名)だった点が島根大学さんの発表とは大きく異なるところでした。教員別の評価結果を示したグラフがバラバラだったのが印象的でありました。

最後に2名からの論点整理があったのですが、その中で関西国際大学の佐藤先生が指摘した
「学生の自己評価を裏付ける状況証拠の必要性」
「教員によるばらつきを均すことは可能か?必要か?」
「なんでも数値化する発想の方が評価者として怠慢では」
という3点が大変印象に残りました。

企業内教育であれば、職場に戻っての行動変容を上司がチェックするといったカークパトリックのLevel3調査があります。しかしそれを大学に適用するとしたらどうすれば良いのか?
前回紹介した法政大学の藤田先生が「初年次教育は他の授業や高年次に転移されてこそ効果があったと言える」といった趣旨のことをおっしゃっていましたが、そのあたりに一つ評価方法のヒントが隠されているような気がしました。つまり2年次以降授業を担当する先生方が、各学生に対し「初年次教育で修得しているべき能力項目」を評価するという方法です。オペレーションの面では乗り越えなくてはならない壁が大きいものの、学習後の行動変容をみる仕組みとしては、なかなかイケるのではないかと思った次第です。

ミニッツ全部にフィードバックする凄い先生
この後は午後の自由研究発表についてお伝えします。

まずは金沢工業大学 西村秀雄先生の「動機付けを重視してWebサイトを活用した授業改善活動の分析」という発表についてお伝えします。まずは下記のサイトを開いてみてください。
「ようこそ西村センセイの部屋へ」
http://www.page.sannet.ne.jp/h_nishi/

上記サイトで「平成20(2008)年度の授業の様子です」をクリックしてみてください。なんと西村先生はご担当している授業すべてでミニッツ(授業後に感想等を書かせる紙)を配布・回収し、学生が書いた手書きの文字をすべてデジタル化し、ひとつひとつにコメントをつけ、授業があった日にサイトにアップしているのです。本発表はサイトへの学生のアクセス状況を分析を考察したものです。比較的学期の初期にアクセス数が高くなる。高年次の学生の利用率が高い。成績上位の学生がより多くの知的刺激を求めてアクセスしている。といった調査結果を報告いただきました。

筆者としては、アクセス数の分析云々よりも、毎日きちんとミニッツに返答をしているという西村先生の努力にまず圧倒されてしまいました。聞くところによると、金工大では他の先生も実践しているとのことです。何時間ぐらいかかるのかと質問してみたところ、「手書きの転記とコメント記入で2~3時間ですよ。」と軽く答えてくれました。個人がやっているというのであればまだ理解できますが、複数の先生が実践しているというところに金工大の組織力を感じました。

アカデミックアドバイスの評価基準
広島大学大学院の清水さんの発表です。清水さんは筆者の桜美林大学アド時代の同期で博士後期課程に進んだ数少ない修了生の一人です。発表はアメリカにおける学習助言(アカデミックアドバイス)の評価基準に関しての報告でした。アカデミックアドバイスとは、特定の科目に限定せず、学生に対して学習上の助言を行う活動を指すのですが、日本においてはその活動の範囲や役割分担も学校によってまちまちです。そもそもアカデミックアドバイスの評価基準が存在すること自体に最初びっくりしたのですが、そのような「各校まちまち」な状況は、大学を選択する学生からすると困った事になるので、たしかに共通の基準は必要かもしれません。

アメリカにはNACADA(National Acamdemic Advising Association頭文字をとるとNAAAですがあまり深くは考えないようにしましょう)というアカデミックアドバイザーの専門職集団が加盟する団体があり、そこが基準を検討しているようです。筆者も現在1,2年生のアカデミックアドバイザーを担当しているので、大変参考(反省?)になりました。

学習ポートフォリオとは?
今年度より学生にポートフォリオを導入した文京学院大学様の発表です。本発表では導入のプロセスと現在の運用状況についての報告いただきました。学習ポートフォリオとは学生がそれまでの学習の記録を残しておくことなのですが、文京学院大学ではポートフォリオを目標管理制度的に運用しています。大学生の時から目標管理制度というのもちょっと酷かもしれませんが、なかなか面白い試みだと思います。筆者の個人的な意見としては、学生に書かせる前に、まず先生が範を示すためティーチング・ポートフォリオを書く方が先ではないかと思った次第です。

グループ学習にPCを導入すると?
最後にご紹介するのは関西大学の本村先生による「初年次教育におけるグループ学習へのPCおよび授業支援システムの導入」です。ようやくeラーニングっぽいテーマが出てきたので、筆者としては古巣に帰ったような安心感を覚えつつ内容をお聞きしました。本村先生は初年次教育におけるチーム学習の授業内で、関西大学が開発したCEASというLMSを活用ており、その取組についてご報告いただきました。授業では1グループで1台のPCを囲み共同で課題に取り組み、その結果をLMS上でファイル共有し、各自が個人学習に役立てるということを実践していたそうです。

筆者自身も、現在チーム学習のゼミでSNS的なサイトを活用し同様な取組をしているため、大変参考になった発表でした。終了後本村先生にご挨拶し、私自身の課題をお話ししたところ同様の課題で悩んでいるという話しで盛り上がりました。

まとめ「初年次教育4つの課題」
今回、大会に参加し、大学の初年次教育の課題を以下のようにまとめてみました。

1)組織的な対応
初年次教育の全学的な取組に着手した大学では、どの先生が担当するのか?教員と職員の役割分担は?正課の授業と正課外の活動の連携するのか?といった組織上の課題が山積しているようです。しかし一番問題なのは組織的な課題が顕在化していない大学です。全学的に初年次教育に取り組まず、1~2人の先生が実施している事実をもって「本学は初年次教育をやっています」と言ってしまえば、組織的な問題は最小化できる訳で、そういう状況の大学が最も根深い問題を抱えていると言えるからです。

2)効果の検証
初年次教育の効果測定を測定する手法が確立していない点に課題を感じました。効果が明示できないと、組織的対応を推進する意味を理解して貰えないという悪循環に陥るからです。

知識の定着度合いのみであれば筆記試験で測定できますが、経産省の提唱する「社会人基礎力」のような項目の場合そうはいきません。企業内教育では、職場に戻っての行動変容を上司がチェックするといったカークパトリックのLevel3調査があります。筆者はその手法を大学に適用することができないだろうかと考えています。

前回紹介した法政大学の藤田先生が「初年次教育は他の授業や高年次に転移されてこそ効果があったと言える」といった趣旨のことをおっしゃっていましたが、そのあたりに一つのヒントが隠されているような気がしています。つまり2年次以降授業を担当する先生方が、授業の中で学生が初年次教育で修得しているべき能力項目を発揮しているかを評価するのです。オペレーションの面では乗り越えなくてはならない壁が大きいものの、学習後の行動変容をみる仕組みとしては、なかなかイケるのではないかと思った次第です。

3)授業方法は個別・共通?
先生が授業の内容を全く個別に考えてしまってよいのか?
授業で用いる教材や実施するワークに至るまで共通にすべきか?
到達ゴールの共有はどこまで可能なのか?
到達ゴールの多様性を認めてもよいのでは?
等カリキュラムや科目設計の根幹に関わる大学のスタンスがあらためて問われているのだということを認識しました。

4)高校までの学習との連携
総合的な学習との連携をどうするのか?それらにきちんと取り組んでいる高校とそうでない高校の卒業生での格差をどう捉えるのか。本来大学入学時に備わっているべき「基礎力」のレベルというものは誰が保証すべきなのか?アドミッションポリシーとの関係の中で、まだまだ議論すべき点は多いと感じました。

学士課程教育の質保証が叫ばれる中、初年次教育のあり方は極めて重要であるにも関わらず、そこには問題が山ほどあることを認識したと同時に、金沢工業大学の西村先生のように、筆者の何倍ものエネルギーを投じて初年次教育に携わっている先生の存在を知り、牛の写真を探している場合ではないと考えた2日間でした。
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