物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進東洋経済新報社このアイテムの詳細を見る |
エマニュエル・ダーマン(東洋経済新報社、2005年)
みなさんは「クオンツ」という人々をご存知でしょうか? 彼らは金融工学を実
践する人々で、「金融工学」とは本書から引用しますと「この学問は、証券を評
価することを目的に物理学に端を発しているモデル、数学のテクニック、そして
コンピュータ・サイエンスなどを学際的に混合したものである」とあります。本
書はそのクオンツの中のクオンツとでもいうべき著者が、独自の視点からウォー
ル街を語った稀有な書です。
さて、私事で恐縮ですが、物理・数学というと若かりし頃赤点に悩まされ夢にま
で出てきた悪しき学問の二大巨頭。手にとって、うーんとひるんだのですが、怖
いもの見たさもあり読み始めました。結果的にモデルの説明はやはりちんぷんか
んぷんでしたが、2つの点で面白かったです。
ひとつには現在日本でも聞かれるようになってきた、ヘッジファンドやプライ
ベートエクイティといったオルタナティブな投資手法(投資信託やインデックス
ファンドといった伝統的投資に対してのオルタナティブということらしいです)
の成り立ちについて裏側から解説してあり、だれがどうやってどんな職場環境の
中でそんな複雑な代物を作り出しているかがわかったことです。
もうひとつはキャリア論としても重要な示唆に富んでいるという点です。純粋な
物理学者を目指して博士号まで取得した若者がどういういきさつからウォール街
なんかで仕事をするようになったのか。かならずしも自分がやりたくて選択した
仕事ではないにせよ、どうやって希望を見つけ、シビアな環境の中を沈まないよ
うに(ときに泥水を飲みながらも)泳ぎきってきたのか。そういった視点で読ん
でいくと、特に若者にとっては良いキャリアの教科書になるかと思います。
常日頃、もっと頭がよかったら、もっと高給をとれる仕事についていたら、どん
なにか幸せだったろうと思っていた私ですが、本書を読了して、人というのはど
こまでいっても悩みは尽きないし、順風満帆な人生なんてないのだなあとしみじ
み感じ入りました。
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