小説 「真田幸村伝説殺人事件」

真田幸村伝説にまつわるミステリー小説。

第19章 嫉妬の鍵

2013-11-05 23:59:45 | 小説

第19章 嫉妬の鍵
 
 さて、どうしたものか?安寿は、腰を落ち着けて考えた。
 六文銭の木箱に入っていた鍵は、慶士の仕事机の引き戸の鍵ではなかった。でも、こんなに立派な箱に入れていたということは、何か大事な物を保管しているに違いない。でも家の中で、他に鍵を掛けてあるような所は見当たらない。鍵を使っているのは、せいぜい、部屋の扉、車、バイク、戸外の物置ぐらいだ。安寿が、見つけた箱入り娘の鍵は、そのどれでもない。
 目の前に、鍵をかざして、凝視した。うーん、分からない。取り合えずは、箱の中にしまって、本棚の上に戻した。
 本棚の上には、いろいろな置き物があった。その中の一つにヒグマの彫り物があった。慶士は、学生時代に何度か北海道にバイクで旅行に出かけたという話をしていたし、最近も出張で何度か北海道に行っていたので、その時のお土産として買ったものかも知れない。
 若しかしたら、ヒグマの怖さにあやかって鍵を隠しているのかも知れないと、予感めいたものを感じたので、置物を手にとってみた。ここかな?と、ひっくり返して底を見てみたが、「白老コタン土産屋 知里」と書かれいるだけだった。若しかしたら、木彫りに切れ込みを作って、その隙間に隠してあるかもしれないと、目を凝らして探したり、振ったりしてみたが、何も見つからなかった。

 ヒグマの彫刻を棚に戻し、今後は、大黒様の小さな置き物を手にとってみた。思ったよりずっしりと重い。背中に横一文字の切れ込みが入っている。振ってみると、ジャラジャラと音がした。どうやら貯金箱のようだ。こんな風に慶士はこつこつとと貯金をしていたのかと、ちょっと感心した。
 安寿は、あまり男に干渉しない性質(たち)なので、一緒に生活していても、慶士に関して以外と知らないことが多い。まぁ、世の中には知らなくても良い事がたくさんあるし、若しかしたらと勘ぐりながらも知りたくい事もある。それに、恋人と言えども所詮は他人。一から十まで首を突っ込んでいたら、煙たがれてしまう。
 さて、大黒様といえば、日本の福の神として名高い、七福神の一人だ。五穀豊穣と商売繁盛の神としては、布袋様と並ぶ日本代表のツートップだ。最近では、宝くじの神様としても担ぎ出され、金運を上げてくれと拝まれることになり、忙しい日々を送っている。
 慶士からは、宝くじも含めて、パチンコ、競馬などのギャンブルをしたという話を聞いたことがないし、彼がしているのも見たことがない。堅実な現実主義者で、神仏などを熱心に拝むということもしない。神社やお寺に、一緒に参拝した事もあるが、簡単に手を合わせて終わりだ。そんな慶士でも、大黒様のご利益にあやかって、貯金している事を知って、彼の違う一面を垣間見る事ができた気がした。
 おそらく、鍵は、大黒様の小銭に紛れ込ませて、隠されているに違いない。
「慶士、ごめんね。ちょっと開けさせてもらうよ」と呟いて、貯金箱の蓋を取り、お金を机の上にあけた。小銭を手で広げて、探したが、鍵は見つからなかった。
「はー、ないわ。一体、どこに隠したのかしら」
 福の神に見放された安寿は、落胆の溜息を漏らした。
 
 大黒様の貯金箱に小銭を入れてから、棚に戻した。
もう諦めようかとも思ったが、捨てる神あれば、拾う神ありと気を取り直して、本棚の上にあった置き物を一通り手にして調べてみた。しかし、鍵を見つける事はできなかった。
 安寿は、目を瞑って、心を落ち着けて考えてみた。
 普段、私が触れない場所は他にどこがあるだろうか?
 そうだ、杯(さかづき)はどうだろうか?去年、慶士が趣味で集めている杯(さかずき)がたくさんになったので、専用の棚を買って、そこに陳列している。そこには、慶士の聖域的な場所で、安寿は触らないようにしているので、若しかしたら、隠しているかも知れない。ただ、二度あることは三度あるという諺(ことわざ)があるように、自分の勘は外れるかもしれない。。。まぁ、駄目もとで良いやと開き直った。
 グラスケースのガラス窓から、慶士の杯コレクションを眺めてみた。基本的に、焼き物が殆どで、カットグラスが数点あり、木のグラスが1点だけあった。
 ケース窓を開けて、一つ一つ手にして、じっくりと、底を覗いたり、ひっくり返したりして物色した。焼き物を全て調べたが、鍵は見つからなかった。カットグラスは、ぱっと見たところ、透明なので鍵が隠されているように見えなかったが、一応、手にして調べてみたが、やはり、何も見つからなかった。
 残された木のグラスを手にすると、杉の良い香りがした。年輪が縞模様になっていて美しい木目の杯だ。。ノートの下敷きぐらいの厚みの薄い板が、くるっと丸められていて、小さなメガホンのような形をしている。とても珍しい杯だ。慶士は、どこで買ったんだろう?と訝しく思いつつ、杯を振ってみたが、何も音がしなかった。あぁ、これも駄目か、と底を覗いて見ると、何か紙のような物が付いていた。ひっくり返しても、落ちて来なかった。テープか何かでくっつけているようだので、ピンセットを持ってきて、摘んで取ってみた。
 紙には、813796と6桁の数字が書かれていた。
 これは、何の数字かしら?何かの暗証番号かな?でも、暗証番号は、大抵、4桁の数字だし。。いずれにしても、必死になって探している鍵ではない。「はい、みんな。。。」と口ずさんでから、番号が書かれた紙を、杉の杯に戻した。 
 そう簡単に見破られる場所に、鍵を隠しておくほど、慶士も馬鹿ではないという事だろう。一番、安全なのはキーホルダーに付けて、持ち歩く事だ。普段の生活で慶士を見ていて、家の鍵と、車の鍵をキーホルダーに付けて持ち運んでいる事は知っているが、他の鍵を付けていたかまでは覚えていない。もし、机の鍵も一緒にキーホルダーで持ち運んでいるとすれば、お手上げだ。部屋の中を探した所で、骨折り損のくたびれ儲けだ。
 安寿は、諦めに似た気分で、ペン立てに、ピンセットを戻した。その時、ピンセットの先がペンに触れて、ペン立てが、机の上から床に落ちて、ペンや鉛筆、ハサミなどの文房具が散らかった。
「あーあ、もう嫌になっちゃう」としゃがみ込んで、イライラしながら文房具を拾った。
 ペン立ては、桜の花の模様があしらわれた樺細工だった。慶士の趣味じゃない。若しかしたら、どこぞの女から貰った物かもしれない。何だか、ふつふつと嫉妬の念が沸き起こり、その怒りがペン立てに向かった。それを壁に向かって投げ付けたい衝動に駆られて、ペン立てを握って振りかぶった。その時、ペン立ての中から、シャリンと音がして、何かが飛び出て、天井にぶつかって、床に落ちた。

第19章 終了

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