第四章 4.5
哲人政治家、国民政党、国民政党、民主政について述べた。では、哲
人政治家によって構成される二つの国民政党による二大政党制、その政
策上の対立軸について述べたい。ここでは主要な三つの対立軸である政
治軸、経済軸、軍事軸に関して述べる。
戦後日本政治の対立軸は
戦後民権派(戦後民主主義) 対 戦前国権派(岸信介)
(1960年安保で終了。)
社会主義 対 資本主義
(1970安保もしくは1973浅間山荘事件で終焉。)
護憲派 対 改憲派
(1991年の湾岸戦争以降、改憲派が主流派となる。)
守旧派 対 改革派
(1993年の小沢政変以降の政界の主な対立軸になる。)
・
・
・
・
・
・
と推移して来た。しかし、この後の対立軸がまだ明らかになってない。
一般的によく用いられる政治軸と経済軸による2次元座標軸のマッピ
ングを記す。以下これを、『Ⅹマップ』と呼ぶ。
個人(人権) リバタリアニズム 市場による調整と分配
(ネオ・リベラリズム)
\ /
③ ② ①
\ /
\ /
【左】 ④ \/ ⑧ 【右】
リベラル /\ ネオ・コンサヴァティヴ
/ \
/ \
⑤ ⑥ ⑦
/ \
政府、中央銀行に 国家社会主義 国家(国権)
よる再調整と再分配
政治軸 ③ロック、ルソー ⇔ ⑦ホッブス
経済軸 ⑤ケインズ ⇔ ①アダム・スミス
リバタリアニズムとはリバティの派生語であり、意味としては自由原
理主義といったところだ。コンサヴァティズム、保守主義は、各国各時
代において当然中身は違う。ゆえに⑧をコンサヴァティズムと称するの
は無理がある。だからネオ・コンサヴァティズム、新保守主義と呼ばれ
る。
リベラリズム(自由主義)もまたリバティの派生語である。このリベ
ラリズムには世界史の中で三段変革があった。その三段変革、リベラリ
ズムⅠⅡⅢをみてみる。
リベラリズムⅠ
③オールド・リベラリズム、古典的自由主義。国家からの自由。ロック
やルソーによって提唱された、政治的自由主義。リベラル・デモクラシ
ーのリベラルとはこのリベラリズムⅠの事。
リベラリズムⅡ
④ニュー・リベラリズム、旧自由主義。国家による自由。つまりは、た
だ個人を放っておくだけでは実質的自由は保証されない。ゆえに国権を
担う政府が個人を援助、支援しなければならないとする立場。社会権、
つまり「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は人類史上ワイマ
ール憲法で初めて憲法にうたわれた。現在「リベラル」といえば、Ⅰと
Ⅱを併せ持つ立ち場の事。
リベラリズムⅢ
①ネオ・リベラリズム、新自由主義。④のリベラルを政府による個人・
法人に対する過保護、過干渉と断じ、自由放任によって実現する市場の
活力こそがよりよい社会を実現するという立場。経済的自由主義、市場
原理主義。この新自由主義と国家主義を足したものが新保守主義と言え
る。もともと新自由主義はアメリカにて、米・民主党のリベラル政策が
アメリカをひ弱にしたとして、それへのアンチ、振り子の揺り戻しとし
て登場した。建国の理念として、個人個人が開拓者精神を発揮し人生や
社会を切り開くべきであり、政府はそれに大きく干渉すべきではないと
いう考えだ。銃所持の自由はこの考えに立脚する。
リベラリズムⅠⅡⅢについて述べたが、参考までに世界史におけるグ
ローバリズムⅠⅡⅢの三段変革を簡単にまとめる。
グローバリズムⅠ
スペイン、ポルトガルが盟主。地球が球だと発見されて以降の、帆船に
よる大航海時代。
グルーバリズムⅡ
英、仏、蘭が盟主。産業革命以降の産業資本主義の発達、化石燃料を燃
焼させる蒸気機関、蒸気船による帝国主義時代。
グローバリズムⅢ
米が盟主。米ソ冷戦がアメリカ勝利で終結し、そのアメリカが自国のイ
デオロジーを広めようとした時代。政治的にはリベラルデモクラシー、
経済的には自由経済、市場主義、レッセフェール・キャピタリズム、グ
ローバル・キャピタリズム、金融資本主義を世界に敷衍しようとした時
代。
ところでなぜ世界の先進国の多くの政党の立ち位置は④や⑧であって、
②や⑥は避けられるのか。
②のリバタリアニズムは自由原理主義の事だ。無政府主義と言っても
よい。ヒトは利己的遺伝子に突き動かされるサル進化形大量繁殖種とみ
なすと、②はそれを野放しにする事だから「万人の万人に対する戦争状
態」「万人が万人に対して狼になる」となり社会はアノミー(混乱)化
する。また市場における自由競争の結果、優勝劣敗が起こり極々一部の
サルに富が集中する。そしてそのサルは更なる利殖を目指し投機に走り、
世界中でバブルの発生と崩壊とを繰り返す。富の偏在と経済の不安定化
である。自由が有り過ぎなのである。
⑥は、サル社会の中の一部のサルに大きな権力を集中し、全部のサル
を統治する事だ。その結果は、「権力は腐敗する、あらゆる権力は腐敗
する、絶対的な権力は絶対的に腐敗する、権腐十年、権力は十年で腐敗
する。」となる。選択の自由の多くを個人から剥奪し、国家権力に集中
させる。権力の集中させ過ぎ、自由が無さ過ぎなのだ。
カネザルが世界を牛耳る②、クニザルが世界を牛耳る⑥.どちらも
避けなければならない。両者を拮抗させなければならないのだ。
江戸時代、徳川将軍や各藩藩主に豪商が金を貸し付けていた。ソ連崩
壊後、それまでの政府所有財産は不正に私有化され、マフィア資本主義
が誕生した。そのカネザル達を片っ端から刑務所にぶち込んだのが、ク
ニザルたるプーチンであった。プーチンの登場により、ロシアはカネザ
ルが牛耳る暗黒社会になるのをかろうじて免れた。しかし強すぎるクニ
ザルもまた専制と腐敗の可能性を持つ。
つまりは現実的選択肢は④のリベラルと⑧の新保守しか無い。しかし
どちらも一長一短なのであり、ゆえに多くの先進国では左右の二大政党
間で定期的に政権交代を起こし、右舵左舵の微調整をしながら国家とい
う船を前進させる。1億2700万国民を乗せた日本丸も早急にそうし
なければならない。
///////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.6
Ⅹマップにおける政治軸と経済軸に関して述べる。
Xマップの政治軸における左右は、簡単に言えば、「個人か国家か」
「人権か国権か」という事だ。具体的論点は、国旗や国歌の扱い、靖国
問題、教育基本法、教科書記述、道徳教育などである。
余談だが、刑事裁判において弁護人が「人権派弁護士」と揶揄される
事がある。しかしⅩチャートの政治軸を見れば明らかなように、人権と
国権とは対立的なものだ。検察官の担う行政権限、裁判官の担う司法権
限、それら国権から被告人の人権を守るのが刑事裁判の弁護人の第一の
役割なのだ。ゆえに刑事事件における弁護人が人権派なのは当然だ。仮
に国権派弁護士という者がいたとして、貴方だってそんな者に刑事裁判
の弁護を依頼しないだろう。
//////////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.7
Xマップの経済軸には二つの面がある。政(まつりごと)は、主権者
である国民のものである公権力と、納税者である国民のものである公金
によって行われる。その公権力による「ビジネス規制」の面と、公金に
よる「政府の規模、財政の規模、政府の大きさ」の面である。
「ビジネス規制」に関しての左右は以下の様なものだ。
【極左】 【左】 ⇔ 【右】 【極右】
計画経済 規制経済 自由経済 統制経済
まともな選択肢である規制経済と自由経済の両者を考えると、規制を
強めすぎれば市場は窒息するし、規制を弱めすぎれば市場は野獣となる。
どちらが絶対善というわけではなく、状況状況に応じたサジ加減こそが
重要である。
/////////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.8
経済軸のもう一つの面、「政府の規模、財政の規模」、いわゆる「政
府の大きさ」に関して述べる。
政府の大きさは、普通、国民負担率という数値で表される。国民負担
率とは簡単に言えば、一年間に個人と法人が生み出した富のうちの何%
をいったん政府が税金や公的保険料として徴収しているのかの割合だ。
国民負担率は正確にはGDPや国民所得から算出される。
GDP : 一年間に国内で創造した富、付加価値の総計
国民所得 : GDP - 減価償却費 - 間接税 + 補助金
創造した富の総計から、資産の目減り分を引き、間接税で
上げ底された分を引き、補助金で安くなった分をたす。
国民負担率 : (税金+公的保険料)/ 国民所得 × 100
この国民負担率の国際比較を比較した財務省HPのリンクを以下に張る。
国民負担率の国際比較(カッコ内は財政赤字を含めた潜在的国民負担率)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy1801o.htm
スウェーデン 約71%(約71%)
フランス 約62%(約66%)
ドイツ 約52%(約56%)
イギリス 約48%(約52%)
日本 約40%(約44%)
アメリカ 約35%(約40%)
日本の国民負担率は44%前後であり、先進国の中ではアメリカを除
けば低いままだ。これは戦後の自民党政治は決して安易な増税に頼る事
はしなかったという事を示している。スウェーデンのような高負担・高
サービスの実現を一つの理想としていた革新野党ではこうはならなかっ
たはずだ。しかし自民党は安易な増税に頼らない代わりに、安易な借金
に頼ってしまった。だがもし自民党が、安易な増税と安易な借金の両方
に頼っていたならば、国民負担率は高率となり、もはや日本再生への脱
出口は存在しなかっただろう。
国民負担率、約45%。
安易な借金には頼っても、安易な増税には頼らなかったという事実。
この事実こそが、財政問題と少子高齢化問題をかかえ、一億3000万
人の日本国民を乗せたままに沈み行く泥舟と化した日本丸の、その再生
への細い細い脱出口を残すのだ。
次に国民負担率の推移(対国民所得比)の財務省HPへのリンクを張る。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy1801n.htm
平成20年、国民所得に対する財政赤字は3.4%。つまり国民負担率
を3.4%上げれば、政府財政の収支がバランスする。国民所得は
約384.4兆円だから、
384.4兆円 × 3.4/100 = 13.1兆円
消費税1%による税収が約2.5兆円だから、
13.1兆円 ÷ 2.5兆円 = 5.24%
つまり、消費税5.24%で財政均衡だ。国民から集めた税金と公的保険
料(医療保険、年金保険、雇用保険、介護保険)の使用先さえしっかり
整体すれば国民の同意は得られるかもしれない。特別会計、財政投融資
の精査、これも必要だ。日本最高の腕っこきの公認会計士を200人集
めて監査する。会計検査院を強化するなどそういった事が急務だろう。
しかしこれは、定量的(⇔定性的)な話ではあるが、静的(⇔動的)
な話にすぎない。動的な話をすれば、消費税をアップすれば消費の収縮
が起きる。それは景気後退要因だ。しかし消費税を福祉目的税とすれば、
消費税アップによる消費収縮を、将来不安の減少による消費拡大である
程度は相殺できる。
また、国債を毎年約25兆円も発行している。今は低金利で発行でき
ているが将来もし金利上昇すれば、国債発行残高が巨額なだけに歳出に
しめる国債の利払いが急拡大する。日本政府の財政が、予断を許さない
事に変わりはない。
政府の大きさに関しての二大政党の対立軸は、
国民負担率50%強 国民負担率45%前後
の再分配派 ⇔ の市場主義派
だろうか。
左党 国民負担率を50%強に上げ(英国なみ)、ちょっと高負担・高
サーヴィスのちょっと大きめの効率的な政府を目指す。政府の役
割として所得の再分配機能を、重視する。
右党 国民負担率は45%前後に押さえ(米と英の間くらい)、中負担・
中サーヴィスのちょっと小さめで効率的な政府を目指す。政府の役割と
して所得の再分配機能は、軽視する。
となろう。
/////////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.9
これまで、政治軸についてまず述べ、その後、経済軸におけるビジネ
ス規制と政府の大きさについて述べた。最後に軍事軸について述べたい。
「パックス・米ソ冷戦」、米ソ冷戦による平定。米ソの核抑止力のに
らみ合い。その重しゆえに東西両陣営に別れた世界は静かに平定されて
いた。東西の両親分がコールド・ウォー(冷戦)のにらみ合いをしてい
る時、子分の国々が勝手にホット・ウォーをするわけにはいかなかった
からだ。下手をすれば両親分同士の核を使用した第三次世界大戦にエス
カレートしかねなかったからだ。もちろん両親分公認の上での代理戦争
はあったが。その平定がソ連の崩壊と共に破られた。その最初の発端が
1990年の、イラクによるクエート侵攻に始まった湾岸戦争である。
あの瞬間、日本における軍事論、安全保障論は、ようやく小児的な夢想
から目覚める事ができた様に思う。
あれから19年が経った。軍事論は、55年体制の保革対立の中では
空理空論の空回りをし続け、湾岸戦争時においてかろうじて地に足つい
た形で行れるようになった。しかし我が国の軍事レジーム、軍事の枠組
みが今だに定まっていない事もまた事実だ。
個別的自衛権、集団的自衛権、集団安全保障をキーワードに、左と右、
ハト派とタカ派の軍事レジームを表であらわしてみる。
55年体制では、左(ハト派)と右(タカ派)は下記の様なものであっ
た。
左
55年体制下の左派、護憲派。憲法9条の字面通りを思想信条とする。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 × × ×
国連軍事活動参加 × × ×
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・×
右Ⅰ
55年体制下の右派現実主義者。改憲派および解釈改憲派。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ×
国連軍事活動参加 × × ×
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・○
その後1990年に起きた湾岸戦争で国際貢献が議論となると、上の
左の立場は現実を正視しない小児病として退けられた。右Ⅰの立場が
左の「ハト派」となり、右の右Ⅱ「タカ派」が現れた。
右Ⅱ(タカ派)
湾岸戦争時の右のタカ派現実主義者
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ×
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・〇
2009年現在においては、左と右、ハト派とタカ派は以下の様なも
のだろう。
左
現在のハト派現実主義者の一派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ×
集団的自衛権行使 ○ × ×
軍備保持・・・・・・〇
左
現在のハト派現実主義者の一派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 ○ ○ ×
軍備保持・・・・・・〇
右
現在のタカ派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 ○ ○ ○
軍備保持・・・・・・〇
つまり、左と右、ハト派とタカ派は、以下の様に図式化できる。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ハト派 | |
国連軍事活動参加  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
集団的自衛権行使  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ タカ派
以上、二大政党制における政策上の対立軸を政治軸、経済軸、軍事軸
の三つの軸を中心に述べた。これらを主要な対立軸とする、左のリベラ
ル政党と、右の新保守政党の二大政党制。この早期の実現が、日本にお
ける政治の整体なのだ。
日本政治を整体す 第五章
当blogの目次に戻る。
哲人政治家、国民政党、国民政党、民主政について述べた。では、哲
人政治家によって構成される二つの国民政党による二大政党制、その政
策上の対立軸について述べたい。ここでは主要な三つの対立軸である政
治軸、経済軸、軍事軸に関して述べる。
戦後日本政治の対立軸は
戦後民権派(戦後民主主義) 対 戦前国権派(岸信介)
(1960年安保で終了。)
社会主義 対 資本主義
(1970安保もしくは1973浅間山荘事件で終焉。)
護憲派 対 改憲派
(1991年の湾岸戦争以降、改憲派が主流派となる。)
守旧派 対 改革派
(1993年の小沢政変以降の政界の主な対立軸になる。)
・
・
・
・
・
・
と推移して来た。しかし、この後の対立軸がまだ明らかになってない。
一般的によく用いられる政治軸と経済軸による2次元座標軸のマッピ
ングを記す。以下これを、『Ⅹマップ』と呼ぶ。
個人(人権) リバタリアニズム 市場による調整と分配
(ネオ・リベラリズム)
\ /
③ ② ①
\ /
\ /
【左】 ④ \/ ⑧ 【右】
リベラル /\ ネオ・コンサヴァティヴ
/ \
/ \
⑤ ⑥ ⑦
/ \
政府、中央銀行に 国家社会主義 国家(国権)
よる再調整と再分配
政治軸 ③ロック、ルソー ⇔ ⑦ホッブス
経済軸 ⑤ケインズ ⇔ ①アダム・スミス
リバタリアニズムとはリバティの派生語であり、意味としては自由原
理主義といったところだ。コンサヴァティズム、保守主義は、各国各時
代において当然中身は違う。ゆえに⑧をコンサヴァティズムと称するの
は無理がある。だからネオ・コンサヴァティズム、新保守主義と呼ばれ
る。
リベラリズム(自由主義)もまたリバティの派生語である。このリベ
ラリズムには世界史の中で三段変革があった。その三段変革、リベラリ
ズムⅠⅡⅢをみてみる。
リベラリズムⅠ
③オールド・リベラリズム、古典的自由主義。国家からの自由。ロック
やルソーによって提唱された、政治的自由主義。リベラル・デモクラシ
ーのリベラルとはこのリベラリズムⅠの事。
リベラリズムⅡ
④ニュー・リベラリズム、旧自由主義。国家による自由。つまりは、た
だ個人を放っておくだけでは実質的自由は保証されない。ゆえに国権を
担う政府が個人を援助、支援しなければならないとする立場。社会権、
つまり「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は人類史上ワイマ
ール憲法で初めて憲法にうたわれた。現在「リベラル」といえば、Ⅰと
Ⅱを併せ持つ立ち場の事。
リベラリズムⅢ
①ネオ・リベラリズム、新自由主義。④のリベラルを政府による個人・
法人に対する過保護、過干渉と断じ、自由放任によって実現する市場の
活力こそがよりよい社会を実現するという立場。経済的自由主義、市場
原理主義。この新自由主義と国家主義を足したものが新保守主義と言え
る。もともと新自由主義はアメリカにて、米・民主党のリベラル政策が
アメリカをひ弱にしたとして、それへのアンチ、振り子の揺り戻しとし
て登場した。建国の理念として、個人個人が開拓者精神を発揮し人生や
社会を切り開くべきであり、政府はそれに大きく干渉すべきではないと
いう考えだ。銃所持の自由はこの考えに立脚する。
リベラリズムⅠⅡⅢについて述べたが、参考までに世界史におけるグ
ローバリズムⅠⅡⅢの三段変革を簡単にまとめる。
グローバリズムⅠ
スペイン、ポルトガルが盟主。地球が球だと発見されて以降の、帆船に
よる大航海時代。
グルーバリズムⅡ
英、仏、蘭が盟主。産業革命以降の産業資本主義の発達、化石燃料を燃
焼させる蒸気機関、蒸気船による帝国主義時代。
グローバリズムⅢ
米が盟主。米ソ冷戦がアメリカ勝利で終結し、そのアメリカが自国のイ
デオロジーを広めようとした時代。政治的にはリベラルデモクラシー、
経済的には自由経済、市場主義、レッセフェール・キャピタリズム、グ
ローバル・キャピタリズム、金融資本主義を世界に敷衍しようとした時
代。
ところでなぜ世界の先進国の多くの政党の立ち位置は④や⑧であって、
②や⑥は避けられるのか。
②のリバタリアニズムは自由原理主義の事だ。無政府主義と言っても
よい。ヒトは利己的遺伝子に突き動かされるサル進化形大量繁殖種とみ
なすと、②はそれを野放しにする事だから「万人の万人に対する戦争状
態」「万人が万人に対して狼になる」となり社会はアノミー(混乱)化
する。また市場における自由競争の結果、優勝劣敗が起こり極々一部の
サルに富が集中する。そしてそのサルは更なる利殖を目指し投機に走り、
世界中でバブルの発生と崩壊とを繰り返す。富の偏在と経済の不安定化
である。自由が有り過ぎなのである。
⑥は、サル社会の中の一部のサルに大きな権力を集中し、全部のサル
を統治する事だ。その結果は、「権力は腐敗する、あらゆる権力は腐敗
する、絶対的な権力は絶対的に腐敗する、権腐十年、権力は十年で腐敗
する。」となる。選択の自由の多くを個人から剥奪し、国家権力に集中
させる。権力の集中させ過ぎ、自由が無さ過ぎなのだ。
カネザルが世界を牛耳る②、クニザルが世界を牛耳る⑥.どちらも
避けなければならない。両者を拮抗させなければならないのだ。
江戸時代、徳川将軍や各藩藩主に豪商が金を貸し付けていた。ソ連崩
壊後、それまでの政府所有財産は不正に私有化され、マフィア資本主義
が誕生した。そのカネザル達を片っ端から刑務所にぶち込んだのが、ク
ニザルたるプーチンであった。プーチンの登場により、ロシアはカネザ
ルが牛耳る暗黒社会になるのをかろうじて免れた。しかし強すぎるクニ
ザルもまた専制と腐敗の可能性を持つ。
つまりは現実的選択肢は④のリベラルと⑧の新保守しか無い。しかし
どちらも一長一短なのであり、ゆえに多くの先進国では左右の二大政党
間で定期的に政権交代を起こし、右舵左舵の微調整をしながら国家とい
う船を前進させる。1億2700万国民を乗せた日本丸も早急にそうし
なければならない。
///////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.6
Ⅹマップにおける政治軸と経済軸に関して述べる。
Xマップの政治軸における左右は、簡単に言えば、「個人か国家か」
「人権か国権か」という事だ。具体的論点は、国旗や国歌の扱い、靖国
問題、教育基本法、教科書記述、道徳教育などである。
余談だが、刑事裁判において弁護人が「人権派弁護士」と揶揄される
事がある。しかしⅩチャートの政治軸を見れば明らかなように、人権と
国権とは対立的なものだ。検察官の担う行政権限、裁判官の担う司法権
限、それら国権から被告人の人権を守るのが刑事裁判の弁護人の第一の
役割なのだ。ゆえに刑事事件における弁護人が人権派なのは当然だ。仮
に国権派弁護士という者がいたとして、貴方だってそんな者に刑事裁判
の弁護を依頼しないだろう。
//////////////////////////////////////////////////////////
第四章 4.7
Xマップの経済軸には二つの面がある。政(まつりごと)は、主権者
である国民のものである公権力と、納税者である国民のものである公金
によって行われる。その公権力による「ビジネス規制」の面と、公金に
よる「政府の規模、財政の規模、政府の大きさ」の面である。
「ビジネス規制」に関しての左右は以下の様なものだ。
【極左】 【左】 ⇔ 【右】 【極右】
計画経済 規制経済 自由経済 統制経済
まともな選択肢である規制経済と自由経済の両者を考えると、規制を
強めすぎれば市場は窒息するし、規制を弱めすぎれば市場は野獣となる。
どちらが絶対善というわけではなく、状況状況に応じたサジ加減こそが
重要である。
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第四章 4.8
経済軸のもう一つの面、「政府の規模、財政の規模」、いわゆる「政
府の大きさ」に関して述べる。
政府の大きさは、普通、国民負担率という数値で表される。国民負担
率とは簡単に言えば、一年間に個人と法人が生み出した富のうちの何%
をいったん政府が税金や公的保険料として徴収しているのかの割合だ。
国民負担率は正確にはGDPや国民所得から算出される。
GDP : 一年間に国内で創造した富、付加価値の総計
国民所得 : GDP - 減価償却費 - 間接税 + 補助金
創造した富の総計から、資産の目減り分を引き、間接税で
上げ底された分を引き、補助金で安くなった分をたす。
国民負担率 : (税金+公的保険料)/ 国民所得 × 100
この国民負担率の国際比較を比較した財務省HPのリンクを以下に張る。
国民負担率の国際比較(カッコ内は財政赤字を含めた潜在的国民負担率)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy1801o.htm
スウェーデン 約71%(約71%)
フランス 約62%(約66%)
ドイツ 約52%(約56%)
イギリス 約48%(約52%)
日本 約40%(約44%)
アメリカ 約35%(約40%)
日本の国民負担率は44%前後であり、先進国の中ではアメリカを除
けば低いままだ。これは戦後の自民党政治は決して安易な増税に頼る事
はしなかったという事を示している。スウェーデンのような高負担・高
サービスの実現を一つの理想としていた革新野党ではこうはならなかっ
たはずだ。しかし自民党は安易な増税に頼らない代わりに、安易な借金
に頼ってしまった。だがもし自民党が、安易な増税と安易な借金の両方
に頼っていたならば、国民負担率は高率となり、もはや日本再生への脱
出口は存在しなかっただろう。
国民負担率、約45%。
安易な借金には頼っても、安易な増税には頼らなかったという事実。
この事実こそが、財政問題と少子高齢化問題をかかえ、一億3000万
人の日本国民を乗せたままに沈み行く泥舟と化した日本丸の、その再生
への細い細い脱出口を残すのだ。
次に国民負担率の推移(対国民所得比)の財務省HPへのリンクを張る。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/siryou/sy1801n.htm
平成20年、国民所得に対する財政赤字は3.4%。つまり国民負担率
を3.4%上げれば、政府財政の収支がバランスする。国民所得は
約384.4兆円だから、
384.4兆円 × 3.4/100 = 13.1兆円
消費税1%による税収が約2.5兆円だから、
13.1兆円 ÷ 2.5兆円 = 5.24%
つまり、消費税5.24%で財政均衡だ。国民から集めた税金と公的保険
料(医療保険、年金保険、雇用保険、介護保険)の使用先さえしっかり
整体すれば国民の同意は得られるかもしれない。特別会計、財政投融資
の精査、これも必要だ。日本最高の腕っこきの公認会計士を200人集
めて監査する。会計検査院を強化するなどそういった事が急務だろう。
しかしこれは、定量的(⇔定性的)な話ではあるが、静的(⇔動的)
な話にすぎない。動的な話をすれば、消費税をアップすれば消費の収縮
が起きる。それは景気後退要因だ。しかし消費税を福祉目的税とすれば、
消費税アップによる消費収縮を、将来不安の減少による消費拡大である
程度は相殺できる。
また、国債を毎年約25兆円も発行している。今は低金利で発行でき
ているが将来もし金利上昇すれば、国債発行残高が巨額なだけに歳出に
しめる国債の利払いが急拡大する。日本政府の財政が、予断を許さない
事に変わりはない。
政府の大きさに関しての二大政党の対立軸は、
国民負担率50%強 国民負担率45%前後
の再分配派 ⇔ の市場主義派
だろうか。
左党 国民負担率を50%強に上げ(英国なみ)、ちょっと高負担・高
サーヴィスのちょっと大きめの効率的な政府を目指す。政府の役
割として所得の再分配機能を、重視する。
右党 国民負担率は45%前後に押さえ(米と英の間くらい)、中負担・
中サーヴィスのちょっと小さめで効率的な政府を目指す。政府の役割と
して所得の再分配機能は、軽視する。
となろう。
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第四章 4.9
これまで、政治軸についてまず述べ、その後、経済軸におけるビジネ
ス規制と政府の大きさについて述べた。最後に軍事軸について述べたい。
「パックス・米ソ冷戦」、米ソ冷戦による平定。米ソの核抑止力のに
らみ合い。その重しゆえに東西両陣営に別れた世界は静かに平定されて
いた。東西の両親分がコールド・ウォー(冷戦)のにらみ合いをしてい
る時、子分の国々が勝手にホット・ウォーをするわけにはいかなかった
からだ。下手をすれば両親分同士の核を使用した第三次世界大戦にエス
カレートしかねなかったからだ。もちろん両親分公認の上での代理戦争
はあったが。その平定がソ連の崩壊と共に破られた。その最初の発端が
1990年の、イラクによるクエート侵攻に始まった湾岸戦争である。
あの瞬間、日本における軍事論、安全保障論は、ようやく小児的な夢想
から目覚める事ができた様に思う。
あれから19年が経った。軍事論は、55年体制の保革対立の中では
空理空論の空回りをし続け、湾岸戦争時においてかろうじて地に足つい
た形で行れるようになった。しかし我が国の軍事レジーム、軍事の枠組
みが今だに定まっていない事もまた事実だ。
個別的自衛権、集団的自衛権、集団安全保障をキーワードに、左と右、
ハト派とタカ派の軍事レジームを表であらわしてみる。
55年体制では、左(ハト派)と右(タカ派)は下記の様なものであっ
た。
左
55年体制下の左派、護憲派。憲法9条の字面通りを思想信条とする。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 × × ×
国連軍事活動参加 × × ×
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・×
右Ⅰ
55年体制下の右派現実主義者。改憲派および解釈改憲派。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ×
国連軍事活動参加 × × ×
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・○
その後1990年に起きた湾岸戦争で国際貢献が議論となると、上の
左の立場は現実を正視しない小児病として退けられた。右Ⅰの立場が
左の「ハト派」となり、右の右Ⅱ「タカ派」が現れた。
右Ⅱ(タカ派)
湾岸戦争時の右のタカ派現実主義者
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ×
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 × × ×
軍備保持・・・・・・〇
2009年現在においては、左と右、ハト派とタカ派は以下の様なも
のだろう。
左
現在のハト派現実主義者の一派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ×
集団的自衛権行使 ○ × ×
軍備保持・・・・・・〇
左
現在のハト派現実主義者の一派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 ○ ○ ×
軍備保持・・・・・・〇
右
現在のタカ派
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ○ ○ ○
国連軍事活動参加 ○ ○ ○
集団的自衛権行使 ○ ○ ○
軍備保持・・・・・・〇
つまり、左と右、ハト派とタカ派は、以下の様に図式化できる。
日本領域内 公海上 他国領域内
個別的自衛権行使 ハト派 | |
国連軍事活動参加  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
集団的自衛権行使  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ タカ派
以上、二大政党制における政策上の対立軸を政治軸、経済軸、軍事軸
の三つの軸を中心に述べた。これらを主要な対立軸とする、左のリベラ
ル政党と、右の新保守政党の二大政党制。この早期の実現が、日本にお
ける政治の整体なのだ。
日本政治を整体す 第五章
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