心の栄養

とりあえず小説を...

タマの心配 雨15

2011-06-24 05:58:43 | 小説
 抜刀会の仲間が中心になって、せいきちさんの葬儀がしめやかに執り行われた。
せいきちさんの希望で、会社関係へは知らせなかった。
 葬儀には、村人の全員と、ごく親しい友人が参加しただけだったが、家へ
入りきれない人が大勢いたのだった。
「人の善し悪しと、タバコの善し悪しは、灰になってからわかるって言うけどなぁ。
こんなに良い葬式は久しぶりだよ。せいきちさんらしいやなぁ・・・・」
 村の長老は、それとはなくせいきちさんを褒めたのだった。
「実さん、これをもらってちょうだい」
 葬式の片づけが終わって、家人と実さんだけが残った時、ヨネさんが刀を持ってきた。
「これは、宗次だろう?いくらなんでも、こんな貴重な品物を貰うわけにはいかねえよ」
「実さん。是非もらってもらわなきゃ困るのよ。せいきちさんがネッ。「実さんなら
これを大切にしてくれるに違いないから・・・・。自分が一番大切にしていた物だから、
どうしても実さんに渡してくれ」って、ずーっと前から私に言っていたのよ。だから、
御願いだから貰ってちょうだい」
 実さんは、ジーッとうつむいて考えた。しばらくして、
「せいちゃんがそこまで言ってくれたのなら、貰うことにするよ」
と言って、仏壇の前の白い机の上で、小さな箱におさまったせいきちさんの前へ行き、
改めて線香を供えたのだった。
 その日は、娘さん夫婦が泊まることになった。
「ネエ。お母さん。ここじゃあ不便だし一人暮らしは心配だから、一緒に住まない?」
 娘さんが、母親の今後を心配て言葉をかけた。
「そう言ってくれてありがとう。ただ、お盆のこともあるし、いろいろ整理をしなきゃ
いけないから、もう少しここで暮らすことにするワ。わがまま言って悪いけど、私が
その気になったら連絡するから、そんなことで許してくれない?」
「許すも何も、お母さんが気が済むようにするのが一番だから・・・。あまり無理
しないでね・・・・」
「ありがとう。何かあったらすぐに電話するようにするから。電話が無いのが無事
だと思ってネ」
「お母さんには邪魔かも知れないけど、電話もするし、突然遊びに来るからネ」

 娘夫婦が帰り、ヨネさんとおカルさん。それに、タマの暮らしが始まった。
 せいきちさんは仏壇の中にいるみたいで、ヨネさんは、ご飯をあげるたびに
何かを話しかけているのだった。

 ー これからどうなるんだろう

 タマは心配になった。                    おわり

 お読みいただいた皆様には心から感謝いたします。日記を書いても三日持たず、
書き始めはどれくらい書けるか心配でした。ここまで書けたのは、読んで
くださる方々の応援があったからです。
 心から感謝いたします。ありがとうございました。合掌

 

たまの心配 雨14

2011-06-23 08:42:44 | 小説
 せいきちさんは、病院で横になっている。タマの心配は現実になった。
 暗い家で留守番をしているタマとおカルさんは、ジッとしている。
おカルさんは、雨の日はジッと過ごすことに慣れていた。
「ねえ、おカルさん。二人ともいなくなっちゃうなんて、変だよネェ」
「アーッラ!そうかしらっ?」
「だって、私たちのご飯何日分かわからないけど、ずいぶん大盛りよネェ」
「アーッラ!ご飯がたくさんあるって、安心でショッ」
「それはそうだけど・・・・・・。ネエおカルさん。以前にもこんなこと
あったノ?」
「アーッラ!タマちゃん。暮らしてゆくっていろいろな事が起こるものなのヨッ。
だからッ。いつもいつも同じことばかりが起きるって事じゃないでショ」
「それは、そうネェ」
「晴れている時は、お外で畑仕事。雨の日は家の中で読書。それがせいきちさんの
理想なんだって・・・・・。ウーーーン何だったかなぁ??????」
 おカルさんは、モグモグと口を動かしながら、何かを考えているようだった。
「アーッラ!思い出したワッ!せいきちさんの理想は晴耕雨読なんだって!!!!
アーッラ!私って、何て素晴らしいのかしラッ・・・・・。ウフフッ・・・・」
 おカルさんは、自分で自分のことを褒めて、嬉しがった。
 おカルさんは、喰っちゃあ寝を繰り返し、タマとの会話は途切れ途切れになった
のだった。

 次の日、せいきちさんとヨネさんが帰ってきた。

 せいきちさんは、担架で運ばれて床の間に寝かされた。
 しばらくすると、実さんがばたばたと家に上がり、せいきちさんが寝ている
所へ行った。
「せいちゃん!!!!せいちゃん!!!!せいちゃんよぉ。まだ早いんじゃ
ねえかよぉ!!!!!!」
 実さんは、せいきちさんの枕元で、「ワーーーーー」と大声で泣き出した。
 タマはビックリして、屋根裏へ逃げるように駆け上がった。
 ヨネさんは、魂が抜けたように呆然と座っていた。実さんは、泣き疲れたのか
静かになった。
「実さん。いろいろありがとうございました」
 ヨネさんが、実さんに深々とおじぎをした。
「せいさんがネッ・・・・。病院でネッ・・・・。実さんに伝えて・・・・・・」
 ヨネさんは、気力を振り絞って精一杯話をしようとしていたが、言葉が詰まって
なかなか言葉を続けられなかった。
「せいさんが、実さんに伝えてくれって・・・・。「面白かった」って・・・・
それが、せいさんの最後の言葉だったの・・・・・・」
 ヨネさんは、肩をふるわせて泣き崩れたのだった。
 

タマの心配 雨13

2011-06-22 07:54:18 | 小説
 せいきちさんは、崖崩れに巻き込まれたのだった。
 せいきちさんが通る道には、何カ所か切り通しがある。崩れた切り通しは、
今まで一度も崩れたことが無い場所だった。
 崖に生えている雑木が大きくなりすぎて、雨でゆるんだ地盤では支えきれず、
雑木の根が土を抱えたまま崖の上から落ちた。
 せいきちさんは除けきれず、落ちてきた雑木の枝に跳ねられたのだった。
「せいさん・・・・。大丈夫?」
「ああ・・・・。ヨネさん・・・・。心配かけちゃったねぇー。ごめん。ごめん」
「何をおっしゃるせいきちさん・・・・。元気そうで安心したワッ。本当に
心配しちゃったんだから・・・・」
 病院へ運ばれていたせいきちさんのベッド脇で、ヨネさんがせいきちさんの手を
握った。
 せいきちさんは、ニコニコしながらヨネさんの手を握り返した。
「手を握ったのは久しぶりだねぇ・・・・」
「そうねぇ・・・・」
「おいおい。お二人さん・・・・。仲が良いのはかまわねぇけどさぁ。チョット
熱すぎやしませんか?俺だって心配してるんだからヨォ・・・・・」
 ヨネさんに付き添ってきた実さんが、二人をちゃかした。
「実さん。本当にありがとうございました。実さんが連れてきてくれたから
助かりました。本当に、本当にありがとう」
「なーに。当然の事をしたまでだから、礼なんか言わなくていいよ」
「実さんには悪いけど、耕耘機が埋まっちゃって、皆さんにご迷惑をかけちゃ
悪いから、業者を頼んで片づけておいてくれないかなぁ?」
 ベッドの上のせいきちさんが、実さんに頼んだ。
「何言ってんだよ!せいちゃん!被害者はせいちゃんなんだからなぁ!
役場へ行って、すぐに道路が通れるようにしてもらうからさぁ。そんなこと
心配しないで、ちゃあんと養生しなヨ」
「ありがとう」
「お邪魔虫は退散するから、あとはよろしくね、ヨネさん」
「ムーーー、もう実さんたら、大人をからかうもんじゃありませんヨッ」
「せいちゃん気をつけなヨーー。あんまり熱くなると、傷に障るからナァ」
 実さんは、せいきちさんにウインクして病室を出た。
 ヨネさんは、実さんの後を追ってロビーで実さんに追いついた。
「実さん本当にありがとうございました」
 ヨネさんが、実さんに深々と頭を下げた。
「ヨネさん。遠慮しないで何でも言うんだヨ。こんな場合だからこそ
遠慮しちゃいけねえんだからネ。それが仲間っていうものなんだからさぁ。
遠慮なんかされた日にゃあ、仲間が泣いちゃうからなぁ」
 実さんはヨネさんに、諄々と説くように念を押したのだった。

タマの心配 雨12

2011-06-21 10:55:10 | 小説
 雨が降り続いている。
「もう梅雨入りかしらネ?」
 実さんが去った方を見ながら、ヨネさんがつぶやいた。
 次の日も雨になった。
「今日は、実さんも暇だろうから、廃油をもらってくるよ」
「それじゃあ、せいさん、行ったついでにブースの精算御願いネッ」
「おいおい!それでなくても冷え気味なんだからさぁ。これ以上寒くしないでくれよ」
「あら?寒かったかしら?」
「大丈夫だよ。防寒対策バッチリだから・・・・」
 せいきちさんはいつも、雨の日に廃油をもらいに行くことにしていた。
 耕耘機に荷台をつないで、プラスチックの頑丈なボックスを積み込み、
シートをかぶせて出発の準備が完了する。予備の燃料も必ず荷台に積む。
せいきちさんは慎重派で、仕事をゆっくり丁寧にこなしてゆくタイプだ。
 せいきちさんは、出発の準備が出来ると、耕耘機の弾み車を両手で力一杯回した。
せいきちさんの耕耘機は、骨董品になるほど古いタイプで、最近ではこのタイプを
見ることは殆ど無い。
 耕耘機のエンジンがかかると、

ダッ ダッ ダッダッ ダダダダ

と排気菅から白い煙が出た。しばらくすると煙が透明になった。エンジンが暖まった
証拠を見極めたせいきちさんは、ヨネさんに手を振って物置小屋から出かけた。
「気をつけてネー!!!!」
 ヨネさんがせいきちさんに声をかけた。
「はいよーーーー」
 せいきちさんは、ヨネさんの呼びかけに応えて、笑顔を残して道の駅に向かった
のだった。
 せいきちさんが出かけてしばらくすると雨が強くなり土砂降りになった。

 リーーン  リーーン

 ヨネさんがお昼を食べて、一休みしていると電話が鳴った。
「ああ、実さん。いつもお世話になります。エエ!!!!!!!はい!はい!」
 電話しているヨネさんの顔が、真っ青になっていった。
「わかりました。すぐに用意して待ってますから・・・・」
 そういったヨネさんは、ベッドルームへ行ってせいきちさんの着替えや
洗顔セットなどを風呂敷に入れて包みを作った。
「タマちゃん、ごはん多めに入れておくから、食べていてちょうだいネ。
おカルさんも、暴れないでいてちょうだい!!!」
 ヨネさんは、おカルさんのために水を汲んできたり、干し草をたくさん
置いた。
 しばらくすると、実さんが車で迎えに来た。
 ヨネさんは、家の鍵をかけて実さんと一緒に出かけていった。

 ー どうしたんだろう?

 タマは心配になった。 

タマの心配 雨11

2011-06-18 07:10:43 | 小説
 実さんが道の駅を運営してみると、会社形態にしなければ責任の所在が
はっきりしないという問題が生じてきた。そこで、せいきちさんに知恵を
借りて一人会社を設立し、実さんが社長になって全責任を負う形になった。
 社名は「スタント(離れ業)」だ。それまでの実さんの生き方からすれば
想像も付かない離れ業に違いなかった。実さんは、奥さんに会計を頼み込ん
で、自分は経営に専念した。
 うまくいく時は何をやっても当たるもので、要望書に書かれてある事を
せいきちさんと相談して、道の駅の敷地奥にある水路を活用して、めだか
の釣り場を作った。
 釣り竿は、釣りの上手が竹で自作したものを無料で貸しだし、道の駅で
メダカ飼育セットの水槽や餌を販売した。金魚の釣り場も作ると、子ども
連れの家族が遊びに来るようになり、更に、田圃を掘り下げて大きな池を
作り、へら鮒の釣り場も作った。へら鮒釣りは、熱狂的な愛好者が多い。
それに、愛好者用の本や新聞も発行されている。それらに、記事が掲載さ
れると、定期的に通ってくる愛好者も訪れるようになった。
 スタントは売り上げを伸ばし、村一番の会社になった。そこで発生した
雇用で、七十歳を超えたおばあちゃん達にもお小遣いが手にはいるように
なり、沈んでいた村の空気が一変して、村の人々に笑顔が絶えないように
なっていったのだった。
「おーっとぉー。あんまり油を売ってると、間に合わなくなっちゃうから
貰う物もらって、行くとするわ・・・・」
「実さん、こんどはゆっくり来てネ。神様のおすそわけじゃないお酒を
ご馳走するからネッ・・・・」
「そりゃあ有難いなぁ。その時はせいちゃん、宗次を拝ましてくれろー」
「いいよ・・・」
「それじゃあ、今日の分は2千円でいいかい?」
「いいよ・・・」
「じゃあ決まりだ・・・。この領収証にサイン頼む」
 道の駅は、持ち込み販売と、実さんが仕入れて販売する2系統がある。
持ち込みの場合は、総売り上げの20パーセントを手数料として、スタン
トに支払う約束になっている。
 場所によって売り上げが違うので、開所前には、野菜の納入を一番良い
場所にしようと、順番待ちの行列が出来る程になっていた。
 手数料を2割払っても、農協へ出すより実入りがある。農協へ出荷する
には、規格に合わせる事が重要なポイントになるが、道の駅の場合は規格
などは無関係で、値段も自分で決められる。量も、出来具合を見計らいな
がら調節出来るから、一般客が多い週末に、野菜の量を多く出すことが出
来る。
 野菜には、生産者の名前や住所が明示されている。そんなことで、宅配
便を使って、直接販売につながった農家も出てきたのだった。
 元々、村の活性化が目的だったので、実さんは、宅配便の直接販売に便
宜を計っていた。
「ああ、そうそう・・・・。廃油が結構集まってるから、都合で取りに来
てくれよ」
「暇を見て行くよ」
「それじゃあお邪魔しました」
「実さん、ネギはいつもの小屋に置いてあるから」
「ああ、さっき確認してるから大丈夫。忘れないよぉ。そのそのために来た
んだからさぁ」
 実さんは、そそくさと帰っていった。