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帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの百人一首 (四十九)

2010-06-18 06:00:31 | 和歌
      



             帯とけの百人一首
                (四十九)


 藤原定家の撰んだ和歌の余情妖艶なさまを、藤原公任の歌論に基づいて紐解きましょう。


 百人一首 (四十九)
                 大中臣能宣朝臣
 みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ 

 御垣を守る衛士の焚く火のよう、夜は燃え、昼は消えつつ、もの思いしてる……身かき盛り、ゑしの燃やす思い火が、夜は燃え、昼は消えつつ、ものおこそ思う。

 「みかきもり…御垣守…身かき盛り…見かき盛り」「かき…掻き…接頭語…かきあはす…かきいだく」「もる…守る…盛る…盛んになる」「衛士…ゑ士…ゑおとこ」「ゑ…飢え…ああすばらしい」「の…のように(比喩を表す)…が(主語を示す)」「つつ…反複・詠嘆の意を表わす…筒…中空」「ものをこそ…表現し難い事柄ばかり…物お子ぞ」。詞花和歌集 恋歌上、題しらず。


 藤原公任撰「三十六人撰」、藤原俊成撰「俊成三十六人歌合」、後鳥羽院撰「時代不同歌合」に共通してあげられてある能宣の歌を、一首聞きましょう。 

 きのふまでよそに思ひしあやめ草 けふ我が宿のつまと見るかな

 昨日まで、よそよそしく思っていた菖蒲草、今日、我が家のつれあいと見えるなあ……きのうまで、よそに思ったきれいなひとよ、京、我がやどの妻と見ることよ。

 「あやめぐさ…菖蒲草…綾めくさ…彩めくさ」「草…女」「けふ…今日…京…山ばの頂上…感の極み」「やど…宿…女」「つま…つれあい…妻」「見…覯…媾…まぐあい」。


 公任「三十六人撰」だけにある能宣の一首を聞きましょう。

 もみぢせぬときはの山に立つ鹿は おのれ鳴きてや秋をしるらむ

 紅葉しない常盤の山に立つ鹿は、おのれが鳴いて、その声に秋を知るのだろうか……飽き色しない常磐の山ばに立つひとよ、おのれが泣いて、その声に飽き満ちたりを知るのだろうか。

 「もみぢ…紅葉…黄葉…も見じ…飽き満ち足り…厭き」「ときは…常盤…常磐…常に変らぬ…いつまでも変らない磐」「磐…岩…女」「山…山ば」「鹿…雌鹿…女。牡鹿は、さお鹿と詠まれる」「鳴く…泣く」「秋…飽き…満ちたり」。


 歌の「清げな姿」から憶測する意味ではなく、「心におかしきところ」が聞こえれば、これらの人々と同じ意味に聞こえて、同じ評価ができるでしょう。


 大中臣能宣は「後撰和歌集」選者の一人。伊勢祭主、神祗大副(五位相当)。清原元輔ら同じ撰者たちはもちろん、恵慶法師、曾禰好忠らと広い交流があった。正暦二年(991)没、七十一歳。拾遺、後拾遺和歌集あわせて八十五首入集。新古今和歌集に十一首入集。後に登場する伊勢大輔(紫式部の後継の女房)は孫。


                 伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
                 聞書 かき人しらず