帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第五 秋歌下 265~267

2009-03-29 05:15:01 | 和歌


 佐保山のもみじの歌三首。歌の清げな姿の帯を解けば、添えられてある艶なる情が顕れる。その「心におかしきところ」を賞味し給え。併せて、万葉集の藤原宇合の歌二首を、同じ「言の心」で聞く。


   古今和歌集 巻第五 秋歌下
      265~267


265
 やまとのくににまかりける時、さほ山にきりのたてりけるを見てよめる
               紀 友則
 たがための錦なればか秋ぎりの さほの山べをたちかくすらむ

 大和の国に行った時、佐保山に霧が立ったのを見て詠んだ歌 
 誰のための錦織なのか、秋霧が佐保の山辺を立ち隠してるようだ……誰の為のにしき木なのか、飽き限りが、さおの山ばを絶ち隠す、どうしてだろう。
 山ば途上のせかいに行ったとき、さおの山ばで限りの絶つたのを見て詠んだ歌。

 「佐保山…山の名、名は戯れる。さほの山ば、さおの山ば」「さ…接頭語…美称」「ほ…抜きん出たもの…お…おとこ」「山…山ば」「にしき…錦…色とりどりの織物…もみじの比喩…にしき木」「木…男」「秋霧…飽き切り…飽き限り」「たちかくす…立ち隠す…絶ち隠す」「らむ…だろう…推量を表わす…どうしてだろう…原因・理由を推量する意を表わす」。



266
 是貞のみこの家の歌合の歌        
            よみ人しらず
 秋ぎりはけさはなたちそさほ山の はゝそのもみぢよそにてもみん

 是貞親王家歌合の歌
 秋霧は今朝は立たないで、佐保山の柞の紅葉、遠くからでも見たいのよ……飽き限りは、今朝は絶たないで、さおの山ばの端々其のも見じ、君のほかにも見たいのよ。

 「秋…飽き…厭き」「霧…限り…切り」「立つ…絶つ…断つ」「さほ山…山の名、戯れる。さお山、さおの山ば、おとこの山ば」「さ…接頭語」「ははそ…柞…薄くもみじする木」「よそ…遠い他の所…君以外…わたし」「見…覯…合…まぐ合い」「ん…む…推量・意志を表わす」。女の歌。



267
 秋の歌とてよめる              
              坂上是則
 さほ山のはゝその色はうすけれど 秋はふかくもなりにけるかな

 秋の歌として詠んだ歌
 佐保山の柞のもみじ、色は薄いけど、秋は深まったことよなあ……さおの山ばの端端其の色は、薄かったけど、飽きは深くもなったことよなあ。
 飽きの歌として詠んだ。

 「さほ山…佐保山…山の名、戯れる。さおの山ば」「ほ…お…おとこ」「ははその色…柞のもみじ葉の色…薄い色…端端その色情」「端…身の端」「色…もみじの色彩…色情」「うす…薄…薄情…おとこの性情」「秋…飽き…飽き満ち足り…厭き」。

 上三首。佐保山のもみじに寄せて、さおの山ばの薄い色情の飽きざまを詠んだ歌。



 藤原宇合卿の歌を聞く

 万葉集巻第九 雑歌、宇合卿歌三首より、二首。
 山科の石田の小野のははそ原 見つつきみやは山路越ゆらむ

 山科の岩田の小野の柞原、見ながらきみは山路越えてるだろうか……山ば無しの、ひとの多の、おのの端端そはら、合いつつひとは山ばこえてるかな。

 「山科…地名、戯れる。山し無、山ば無し」「石…岩…女」「田…女…多…多情」「小野…おの…おとこのひら野」「ははそ原…柞原…端端素原…端端白腹」「端…ものの端…身の端」「見…覯…合」「山…山ば」。

 山科の石田の杜にぬさおかば けだし吾妹にただにあはむかも

 山科の岩田の神社に幣おけば きっと我が恋人に直に逢えるだろうな……山し無の、ひと多の盛りに、ぬさおけば、どうだろうわがひとに直に合えるかも。

 「杜…もり…社…盛り」「ぬさ…幣…神に捧げるもの…ひとに捧げるもの…おとこ」「神…女」「あふ…逢う…合う」。

         伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。

         聞書 かき人しらず