今日は2015年ノーベル賞授賞式が報道されている。今年も大村智北里大学特別栄誉教授が抗生物質イベルメクチン発見でノーベル医学・生理学賞(seブログ2015.10.13も参照)と東大宇宙線研究所所長の梶田隆章教授がニュートリノの質量発見でノーベル物理学賞を受賞し日本全体が盛り上がっており、うれしい限りです。ここでは講談社現代新書、佐藤健太郎氏の標題の最新著の読書感を述べます。本書は医薬と人類の歴史の密接な関係を具体例を示して解説したもので、とてもよみやすい。具体的にはビタミンC、キニーネ、モルヒネ、麻酔薬、消毒薬、サルバルサン、サルファ剤、ペニシリン、アスピリン、エイズ治療薬を各章毎に歴史的・社会的背景と共に関連医薬品の開発を解説している。(元)製薬企業の研究者であり医薬品の開発が如何に難しいかの体験も述べ、また重要な医薬品の化学構造をステイック分子模型で示して眺められる様に工夫されている。佐藤氏は2007年から自作のウェッブサイトに興味ある構造分子の合成やエピソードを紹介する「有機化学美術館」を開設されており、私自身もアダマンタン関連の多環骨格分子への興味からその愛読者でもあります(拙著「ダイヤモンド分子アダマンタン」三惠社,2010,5初版)。なお本書にはノーベル賞受賞者のウッドワード(キニーネ)、エールリッヒ(免疫)、コッホ(結核)、フレミング(ペニシリン)他エピソードも紹介されている。更にGFP(緑色蛍光タンパク質)の発見で2008年ノーベル化学賞を受賞された我が恩師下村脩博士(名大特別教授)の「GFPの発見は天の導きのようなものであり、天は私という人間を使って、人類にGFPを与えたのではないかと思うことさえある」の言を紹介し、フレミングのペニシリンの発見も幸運と偶然が重なった結果と説明している。日本人の創薬への寄与も熊本大学満屋裕明博士(エイズ治療薬)、秦佐八郎(エールリッヒ、サルバルサン)なども紹介されており、若い世代にも一読を勧めたい新書である。