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雲林県の地方派閥に有権者「ノー」

2009年09月29日 13時50分17秒 | 台湾ニュース

 台湾中部の雲林県。山に囲まれた雲林は、名産・古坑珈琲で知られるが、農業以外にこれといった産業はなく、地方では重要な財政収入となる観光も、その外の県に比べて遅れ気味だ。

 日本でも同じだが、こうした条件下では地域はおのずと閉鎖性が高まり、ごく一部の有力者や、少ない利権=「農業や水利に絡む利権」の周辺に権力が集中し、地域を支配する事になる。
 雲林県を長く支配してきたのは、1999年から2005年まで県長を務めた、国民党の張栄味氏(52)の一派。2004年に汚職で逮捕されたが、彼は雲林きっての有力者、そんな事では失脚しないのが地方事情というもの。
 逮捕直後に行われた立法院選挙では、張栄味氏の妹、張麗善・女史が同情票を集め、選挙区内でトップ当選を果たしている(日本でも聞きそうな話ですね)。

 容疑者となった張栄味氏の後任となる2005年の雲林県長選挙を制したのは、民進党の蘇治芬・女史(現任)だった。
 この時の県長選挙で国民党の公認を得たのは、張栄味派と対立するもう一つの地方派閥だったため、一説には、張栄味派がなんと民進党の味方をし、影で対立派閥の足を引っ張ったと言われている。恐るべし地方派閥の怨念。

 県長ポストは失ったものの、張栄味一派の勢力は健在で、2008年1月の立法委員選挙では、県内に二つある挙区のうち、一区では張栄味氏の長女が、二区では張栄味氏の有力支持者の息子・張碩文氏が選出されている。
 さて、この雲林二区の張碩文氏だが、選挙運動期間中から「買票」(お金で票を買うという意味の中国語、つまりは不正選挙)の疑いで検察などの捜査が入り、関係者が続々逮捕。
 張碩文氏は見事当選を果たしたものの、当選から1ヶ月と10日後の2008年2月22日には、父親の張輝元・農田水利会会長が「買票」の中心的人物として、日本で言うところの公選法違反で逮捕されている。

 すったもんだを経て今年の2009年6月、裁判所は張碩文氏の当選無効を宣言。張碩文氏の議員資格は剥奪され、先日9月26日に、雲林二区の補欠選挙が行われたのであった。

 この補欠選挙の様相は、雲林県の地方派閥の根深さを物語るものだった。
 ちなみに、「地方派閥」というのは国民党に特徴的な政治構造。国民党には、日本の自民党のような派閥構造はあまり強くなく、その代わり、各地方に、それぞれの地方を牛耳る派閥が形成されている、というもの。

 さて、補欠選挙は届け出順に

・張輝元(つまり資格剥奪された張碩文氏の父で、公選法違反で逮捕された人)
・張艮輝(国民党公認)
・劉建国(民進党公認、張碩文氏が当選した選挙での次点)

 、、、なんと真っ先に届け出たのは、この補選が行われるそもそもの原因を作った人だったわけだ。
 国民党はこれまで、各地方の派閥勢力を適度に対立させながら地方基盤を維持してきたが、10月17日に主席就任が予定されている馬英九・総統は、不正や汚職の温床となる国民党の地方派閥構造の打破を目指している。
 ゆえに、息子の当選のために不正行為を働いたパパは当然、国民党の公認をもらえなかった。が、パパは「それでも俺は出る!」と無所属での出馬を強行。
 国民党ははじめ、地方派閥とは無縁の地元大学教授を擁立したものの、教授は選挙戦のあまりのドロドロぶりに衰弱しきって辞退、その後、同様に地元大学の教授である張艮輝氏が公認候補となった。

 張栄味派は、年末の県長選挙で、張栄味氏の妹、張麗善・女史の国民党公認を取り付けていたため、この教授の支持に回った。単独出馬した派閥の有力者を切り捨てた訳である。
 選挙直前の9月22日には、資格剥奪された張碩文氏は、国民党(と張栄味派)を割って無所属で出馬した父親のために全国紙に一面公告を打ったのだが、その内容には驚いた。

 「張栄味は私に、『父親に出馬辞退させろ、でないとオマエはこの先雲林で生きていけないぞ』と脅しをかけた。私は張栄味に育てられた身、でもどちらかを選ぶなら私は父を選ぶ!国民党はクリーンな改革の理想をすて、地方派閥に妥協した!」
 、、、とまぁ、「オマエが言うな!」と突っ込みたい気持ちがそがれるほど、何ともすさまじい地方派閥の怨念のようなものを感じさせるものだった。
(上の写真、真ん中に陣取っている男性が張栄味氏、みんな利権とポストが欲しくて跪いている、こんな事はやめよう!という意味らしいが彼に言われると説得力がない)

 さて、そして決戦の9月26日。

投票率45.55%(前回より15%近く低下)

1.劉建国(民進党)7万4272票(当選)
2.張艮輝(国民党)2万9278票 ※クリーンな教授
3.張輝元(無所属)2万2747票 ※見捨てられた地方派閥代表

 民進党の劉建国・候補が、国民党公認候補と、地方派閥構造の象徴とも言える前議員のパパを大きく上回る圧倒的な得票率でこの補選を押さえたのだ(一番上の写真、9/26当選を決め、挨拶に立つ劉建国氏)。
 雲林県のこれまでの政治構造を考える時、これは非常に大きな変化だと言えよう。劉建国・候補の得票は、他の二人を合わせたよりも遥かに多くなっている。また、クリーンなイメージの国民党公認と、ドロドロ・パパ双方の得票数それほど大きく変わらない点にも注目したい。

 地方派閥のボス・張栄味氏が教授の支持に回った事が裏目に出たのかどうかは分からない。いずれにしても今回の補選で、張栄味派は真っ二つに分裂した上に、これまでの勢いを大きく失った。
 選挙明けの28日(月)、年末の選挙戦に国民党から出馬予定だった張麗善・女史(張一派ボスの妹)は突然、不出馬を表明した。


9/28午前、涙ながらに電撃的な参選取りやめを発表する張麗善・女史。
「これ以上兄が悪人のように言われる事に耐えられない」と。
これまでお兄さん率いる派閥でいい思いをしてきた人に言われると説得力がない。

 補選での選挙民の投票行動には、地方派閥に対する意識だけではなく当然、現在の馬英九政権に対する評価なども含まれていただろう(雲林県も88水災で少なくない被害を受けている)。
 しかしいずれにしても雲林県民は明らかに、自分たちの利益の理論で地方を動かす「地方派閥政治」に「ノー」を突きつけたのだ。国民党の雲林県党本部・主任委員は、張麗善・女史の不参選を受け、次の公認を決めるため、9/29に急遽台北入りした。
 ちなみに、この主任委員とは、張栄味派と対立する地方派閥のボス・許舒博氏(張栄味派のせい?で2005年の県長選に負けた人)。ドロドロは終わらないかも知れない・・?

 今、世界は「Change」の時代らしい。変化が全てよい結果をもたらすとも限らないが、旧態依然とした体制を変化させたいという民意は共通しているように思う。
 小さな台湾の小さな雲林県でも、大きな「Change」が起こった事を忘れないでいたい。(華)


★おまけ★


当選を決めた週末明けの9/28(月)、台北市内民進党本部でインタビューに応じる劉建国氏。
記者団からは「日本の俳優、中村獅童さんに似てると言われていますが?」との声も。


蔡英文・主席(中央)、蘇治芬・雲林県長(左)、そして雲林県二区の補選を制した劉建国氏(右)
この日、9/28は民進党結成からちょうど23年目となる紀念日。
中秋節も近い(今年は10/3)とあって、ケーキの代わりに雲林名産のザボンをむいてお祝い。


中秋節には、ザボンを食べる習慣がある。
いつのころからか、むいた皮を子供が頭にかぶって遊ぶようになったらしく、たまには大人も↑あんな事をするのです。



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