連休の或る日、15年ぶりに里帰りされた静かな人物が登場した。
ミネルバのふくろうを肩にとめたバッカスのように、お酒の話には逸話がついている。
酒は、パッケージを見て、年代や産地を推量し、これまでの経験から、味と酔い具合と、一緒に呑んだ友人の顔や会話を思い出すタイムマシンのようなものである。
容器がなければ色の付いた水であって、いちいち呑んでみなければわからないが、古い年代の酒は変容しており、記憶の書き換えをせまられるものである。
当方は、その堪能で好奇心の強いお客に促されるように、いろいろなめずらしい酒をカウンターに並べるはめになった。
変色したラベルは時代と履歴を語っている。
中国の酒についても強い関心をみせて、一緒に味見をしたかったが、竹の葉を漬け込んだ壷酒は1本しかないので封を切らなかった。
キャプテンズテーブルは久しぶりに味を見ると濃厚なコクと香りで大変良かった。
10年前のリープフラウミルヒは三本どれも味が違っていたのは多少変容したからである。
強烈なセメダイン状の香りに驚いてクラッときたが「いやーなるほど」と客が言い、当方も負けずに「大変なものですね」と応じた。我慢競べのようだが、古い酒の意外な味を飲んだときの視線が宙を漂う表情と感想を聞くのは、タンノイの音楽に似て楽しいものである。
きくところによると、若い頃クラブのバーテンを経験されて、そのときの知識が素養の一端となっておられるのであった。
現在は、伊達藩の城下町にそびえるホテルの責任あるポストで活躍されている。
さて数日して、そのお客の知人と名乗る人から、いま巷で話題騒然の『あのワイン』を調達してほしいとオファーがあった。それはロマネ・コンティと呑み比べてだまされるといわれる『カレラ・ジェンセン・ビンヤード』である。
ロマネ・コンティは五十万両でも手に入らないのか、かってドイツ軍がフランスに攻め込んだとき多くのシャトーが目標にされて、酒とは恐ろしいものだ。
電話のヌシは軽いテンポで、前述の友人の話に聞いた酒の話題に触れ「こんど遊びに行きます」と申されている。
そのカレラ・ジェンセン・ビンヤードはカリフオルニア産で、ロマネと比べると値段は非常に安いが、味がどうもそっくりで、これはぜひ「確かめねばならぬ」と多くの粋人バッカスが囁くのであろう。
「ウーン、そうですね。顧客のために2本お願いしますか。取り寄せてください」と、あっさり申されるので伊達藩は、やはり伊達ではない。
きけばこの人もまた別の老舗ホテルの責任ある立場の人である。
無事に納品できるか躊躇したが、思いのほかスムーズにいったようで後日お礼の電話があった。
あのワインはいったいどのようなバッカスのために栓が抜かれるのであろう。
ロマネ・コンティに似ているというその味は、どのようなものか。
ミネルバのふくろうを肩にとめたバッカスのように、お酒の話には逸話がついている。
酒は、パッケージを見て、年代や産地を推量し、これまでの経験から、味と酔い具合と、一緒に呑んだ友人の顔や会話を思い出すタイムマシンのようなものである。
容器がなければ色の付いた水であって、いちいち呑んでみなければわからないが、古い年代の酒は変容しており、記憶の書き換えをせまられるものである。
当方は、その堪能で好奇心の強いお客に促されるように、いろいろなめずらしい酒をカウンターに並べるはめになった。
変色したラベルは時代と履歴を語っている。
中国の酒についても強い関心をみせて、一緒に味見をしたかったが、竹の葉を漬け込んだ壷酒は1本しかないので封を切らなかった。
キャプテンズテーブルは久しぶりに味を見ると濃厚なコクと香りで大変良かった。
10年前のリープフラウミルヒは三本どれも味が違っていたのは多少変容したからである。
強烈なセメダイン状の香りに驚いてクラッときたが「いやーなるほど」と客が言い、当方も負けずに「大変なものですね」と応じた。我慢競べのようだが、古い酒の意外な味を飲んだときの視線が宙を漂う表情と感想を聞くのは、タンノイの音楽に似て楽しいものである。
きくところによると、若い頃クラブのバーテンを経験されて、そのときの知識が素養の一端となっておられるのであった。
現在は、伊達藩の城下町にそびえるホテルの責任あるポストで活躍されている。
さて数日して、そのお客の知人と名乗る人から、いま巷で話題騒然の『あのワイン』を調達してほしいとオファーがあった。それはロマネ・コンティと呑み比べてだまされるといわれる『カレラ・ジェンセン・ビンヤード』である。
ロマネ・コンティは五十万両でも手に入らないのか、かってドイツ軍がフランスに攻め込んだとき多くのシャトーが目標にされて、酒とは恐ろしいものだ。
電話のヌシは軽いテンポで、前述の友人の話に聞いた酒の話題に触れ「こんど遊びに行きます」と申されている。
そのカレラ・ジェンセン・ビンヤードはカリフオルニア産で、ロマネと比べると値段は非常に安いが、味がどうもそっくりで、これはぜひ「確かめねばならぬ」と多くの粋人バッカスが囁くのであろう。
「ウーン、そうですね。顧客のために2本お願いしますか。取り寄せてください」と、あっさり申されるので伊達藩は、やはり伊達ではない。
きけばこの人もまた別の老舗ホテルの責任ある立場の人である。
無事に納品できるか躊躇したが、思いのほかスムーズにいったようで後日お礼の電話があった。
あのワインはいったいどのようなバッカスのために栓が抜かれるのであろう。
ロマネ・コンティに似ているというその味は、どのようなものか。