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『嘆きのピエタ』 (2012) / 韓国

2013-06-06 | 韓国映画


原題: 피에타 / PIETA
監督・脚本: キム・ギドク
出演: チョ・ミンス 、イ・ジョンジン 、ウ・ギホン
試写会場: 駐日韓国文化院ハンマダンホール

『嘆きのピエタ』公式サイトはこちら。


トーキョー女子映画部さんで当たって行って来ました。
試写会場のハンマダンホールは新宿通りに面している綺麗な建物ですが、周辺は日本の警察によって厳重に警備が敷かれていて、とてもホールの写真など撮れる雰囲気ではなく・・・。昨今の日韓事情を見る思いがします。

 




<解説>
韓国の鬼才キム・ギドクが、第69回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したサスペンスドラマ。債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる非情な取立て屋のイ・ガンドは、親の顔も知らずに30年間、天涯孤独に生きてきた。そんなある日、ガンドを捨てた母だと名乗る謎の女、チャン・ミソンが突然現れる。
(映画.comより)



※以下、ネタばれではないものの、結末の予測がつく表現があります。










冒頭から悲惨な映像がずっと続くが、ここが実は後にとても重要な伏線になってくるので目をそらさないで観ていただきたい。
借金のかたに障害保険金を奪い取る=債務者に障害を負わせる、これは明らかに違法だが韓国ではよくある話なのだろうか。よく借金を返せないなら臓器を売れだのという話は外国なんかでは実際にあるようだが。とは言っても借金の果てのこういう結末は世界中にありそうだけど、後遺症を発生させるっていう発想がもう陰惨。
「金を借りる方が悪い」のはごもっともだが、これでは借金返してもらった代わりにたっぷりと恨みもくっついてくるようなものだ。

韓国映画でよく取り上げられるテーマなのが「母と息子」で、日本と比較してもいささかその関係は濃いように感じてならない。母は息子のことが盲目的に可愛い、そして息子も自分にあれこれと過剰気味に関わる母親を鬱陶しく思いつつもそれが嫌ではなく、むしろ甘えてもいるし、日本よりも儒教の影響が強いので親孝行も考えている。
そんな砂糖菓子のような甘ささえ感じさせるくらい濃密な母と息子の間にもし何かがあったなら。恐らくは半狂乱になるのではないか。そして自分たちの間を壊したものに対しては絶対に許さないという信念すら持ってしまうのだろう。

突然イ・ガンドの前に現れたチャン・ミソンについての説明は全くなく、「昔、ガンドを捨てた母だと名乗る」のであればそうなのだろうと観客は一応納得する。しかし観ていくうちにじわじわと湧いてくる違和感があるのなら、結末に向けてある程度予測はつくだろう。ミソンは何故ガンドを止めなかったのか。それはガンドへの目的が遂行された時、より彼を深く深く傷つけたかったからに他ならない。



「母」という聖域に対しては何も反論することはない息子たち、そしてタイトルそのままの「ピエタ」、これが本作のキーである。「ピエタ」とは、「聖母子像のうち、死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリア(聖母マリア)の彫刻や絵」だそうだ。

ピエタ wiki

一家を背負うために無理な借金を重ねるのも息子たちならば、その顛末として無残に虫けらのように扱われるのも息子たちである。そしてその一部始終を見ているのは絶対に母たちなのである。ここは母でないといけなくて、決して父たちではこの話は成り立たない。
どんな手を使ってでも息子を守り通す母たちと、それを誇らしげに思う息子たちの、息が詰まるような蜜月の歴史を、キム・ギドク監督は部外者の視点から語りたくなったのかもしれない。誰も入れさせない繋がりを作り上げてきた彼らの胸の内は、純粋や狂気という言葉では簡単にくくれないドロドロとしたものがある。
母にしか持てない想いが息子にあるとするならば、果たしてそれを「作り上げる」ことは可能なのか?傍目から見ても呆れるくらい濃すぎる関係故に、そんな疑問が出て来ても不思議ではない。日本と韓国では文化も違うだけに、このような光景を見てしまったら、もし自分なら同じ選択をするだろうかと考えてしまう。世間一般では無条件でよしとなっている「母と息子の間の聖域」だが、それを認めることをためらわせるのが、本作の中にある母と息子の姿だ。


★★★★ 4/5点






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10 Comments

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 (とらねこ)
2013-06-13 14:41:49
こんにちは!早速書きましたね。
TB,ここ最近ずっと、どのブログサービスにも反映されなくなってしまったので
URL欄に入れましたので、今後TB代わりにさせてください。

ピエタ像は、いろいろな彫刻家が必ずつくるモチーフなのか、教会や美術館で見ますが、ギドク的ピエタにも納得しました。
彼はキリスト教徒なんですよね。
とらねこさん (rose_chocolat)
2013-06-13 15:07:40
TB対策お疲れ様です。お知らせありがとう。

そうだなあ・・・。これ、よくできている作品だとは思います。
ピエタの意義とかね。
だけど重たかったなあ。観ていくうちに切なくなってしまいました。
それほど母&息子の関係は狂気に満ちている、というのは私もよくわかりますが、でも重たいよ。
人への憎しみっていうのはそうそう簡単に忘れられるものじゃありませんからね。
こんにちは ()
2013-07-02 10:29:03
「砂糖菓子のような甘ささえ感じさせるくらい濃密な母と息子」って、なるほどそうですね。

韓国映画の母と子の関係は特に濃密ですけど、男ならフィクションとしてある程度の距離をもって見られます。でも女性が見るともっと生々しく、男のような距離感では見られないのかもしれませんね。
雄さん (rose_chocolat)
2013-07-05 13:57:04
>女性が見るともっと生々しく、男のような距離感では見られないのかも
まさにそんな感じです。自分と比べてしまいましたね。
ここまではできないなあと思う一方、いざとなったら何をし出すかわからない部分もある。
予測がつかないのも母性なんじゃないかと思いました。
いつのまにやら (sakurai)
2013-08-09 17:37:13
母性を持ってしまったミソンの葛藤が来るかと思いきや、こう来たかあ・・・の最後に、もうギドクで、ギドクで、ギドクでしたわ。
さすがに、「さよなら・・」との二本はちと重すぎました。
余計、「さよなら渓谷」が好きに感じたかもです。
翌日、期せずしてまた似たようなテーマの映画を見てしまい、頭の中、ぐちゃぐちゃです。
「桜並木の満開の下で」ってやつですが、これから書きます。
sakuraiさん (rose_chocolat)
2013-08-11 14:58:28
>こう来たかあ・・・の最後に
ですよねえ。とどめを刺すというかね。
観終わってぐったりしてしまいました。
あんまり、好みではないです。残念ながら。

「さよなら渓谷」とだともう本当に寝込みたくなりませんでしたか?そのくらいの重さですよね。
Unknown (なな)
2013-08-24 21:33:15
お久しぶりです。

ギドクの作品は「悪い男」が一番好きです。

母と息子…確かに韓国のそれは日本では想像を絶するくらい濃いのでしょうね。
肉親を奪われた恨みを晴らす物語は韓国ものって
ありえないくらい手の込んだそして徹底的な手段を取りますよね。
実際にそんなことをするのかどうかはさておき韓国映画は
オールドボーイとか,そんな驚愕の復讐もの多いような。
ギドクの作品は彼がキリスト教徒だったということもあって
それもかなり捻くれた異端児風の信仰なのではないかと感じるのですが
なにか現実社会ではありえない「寓話」めいたものを感じます。
彼の作品はどれもOKではなく好き嫌いが分かれるのですが
これはわたしは好きでした。
ななさん (rose_chocolat)
2013-08-25 06:40:43
>現実社会ではありえない「寓話」めいたもの
確かにそうですね。
本当にこんなことしたら頭がおかしくなってしまう。
ただ、それもありかもと思わせるところが韓国ならではというか、想いの濃さ故に想像させてしまうのでしょう。

私はななさんほどたくさん韓国映画は観ていなくて、ギドク作品も初めてなんですが、
何と言うかなあ・・・。血縁関係の濃さを緻密に描かれすぎちゃうとどうも引いちゃうんですよね。
ギドクじゃないんだけど『母なる証明』も好きじゃないし。
そういうのは現実世界だけでたくさんだよ? って気もするんです(苦笑)
韓国の (latifa)
2014-01-08 14:37:27
roseさん、こんにちは!
そうでしたか、roseさんは、本作がギドク作品初めてだったんですね。
「うつせみ」とか「弓」とか、短くて面白いので、ぜひ!

そうそう、本作を見ながら私も「母なる証明」が頭に浮かびました。韓国のお母さんと息子の絆と愛情の深さって、半端じゃないもんがあるようです・・・
latifaさん (rose_chocolat)
2014-01-10 10:08:00
そうですねえ・・・。 
私はもともと、母子べったりと甘く密着する関係って
好きじゃないんですよね。
なのでこの作品のスタンスの取り方からして入り込まなかったと言った方が近いかな。個人的にはこういう内容は褒めたくないし。
映画としてはよくできているんでしょうが、決して好きではなく二度と鑑賞しないタイプです。『母なる証明』も同じ。

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