齢仙寺雑記帳

滋賀県にある臨済宗妙心寺派のお寺、齢仙寺の日々のお話

11月のことば「聴雨寒更盡(あめをきいて、かんこうつく)」

2014年11月09日 | 今月の言葉
11月、すっかり寒くなりました

さてさて今月のことばです。

今月のことばは、

「聴雨寒更盡(あめをきいて、かんこうつく)」

なんだかよくわからないようなことばですが、
「秋深く、山居(山の中の住居)の板屋根、ポツポツと打つ雨音を聞きながら夜更けの寒さをじっくり過ごす」というようなことを意味します。

草庵に住まう道(どう)の人の恬淡とした、味わい深い、晩秋の夜の幽情(深い思い)です。

友と語り合うでもなく、囲炉裏端で暖をとるでもなく、ただただひとり、雨音を聞きながら、晩秋の寒い夜長をむしろ徹底楽しんでいるような句なのです。

この句は、「開門落葉多」(もんをひらけばらくようおおし)と続きますが、そこで文脈はどんでん返し。
次の朝、門口(かどぐち)を開(あ)ければ昨夜の雨音(あまおと)と思(おぼ)しきは、多くの落葉が山居の板屋根を打つ音であったと。
迷悟の世界を表す対句となります。

この句については、

歌論書の正徹物語(しょうてつものがたり)で後の句を「開門落葉深」(もんをひらけばらくようふかし)とした杜甫の句において、先の句における訓(よ)み方について論じられたり、

この句の作者の詩僧無可(むか)上人と「推敲」(すいこう)の故事で有名な賈島(かとう)との関係であったり

話題に事欠かないのですが、それらはすべて置いておきましょう。

ここでは、先の句だけで、じっくり味わいたいと思うのです。

空調設備があり、溢れるばかりの光量の照明があり、騒音が身辺を取り巻き、スマホが片時も手放せない今日(こんにち)だからこそ、この句のように、山深い草庵での晩秋の夜更けの寒さを徹底味わう心情を大切に追体験したいものだ

と思うのは私だけでしょうか

甲午霜月