パラレル (文春文庫 な 47-3)長嶋 有文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
長嶋有作品を読んで3冊目になりますが。
良かった。非常に良かった。
傑作だと思います。
主人公の設定は「ジャージの二人」と共通している。
「ジャージの二人」の主人公夫婦の「その後」を描いた、とも言えるかも。
妻の不倫によって結婚生活が破綻し、会社を辞めて無職の状態。
妻とは離婚したものの、今でもしょっちゅう電話やメールや、実際に会ったりと、表面上は仲が良い。
そういう奇妙な距離感にある男と女の、気持ちの「すれ違い方」が、とても的確に、というか的確と思わされずにはいられない繊細さで描かれます。
「ジャージの二人」でも、そうした繊細な距離感描写が存在しましたが、本作ではそれがさらに研ぎ澄まされている、というか。
小説の終わりの方にある、別居したはずなのに毎晩訪れて来る妻が、ある日現れなかった晩の出来事を描いたくだりなど、かきむしられるような男心が絶妙に表現され、たいへん刺激的です。
そうした夫婦の機微にとどまらず、この小説は登場人物の造形と主人公との絡ませ方が非常によくできている。
「なべてこの世はラブとジョブ」と言って憚らない主人公の悪友・津田。そして津田と行動をともにする中で主人公と関わりを持つ女たち。
彼ら彼女らは、すべて主人公の一人称での主観を通して小説上表現されるわけですが、作者がタランティーノの映画を模したという巧みな時間軸を交錯させる手法でその人生の断片を重ねられるうちに、血肉を備えた厚みのある人物像が立ち現れてきます。
だからこそ小説が終わりに近づくにつれて、これら登場人物がどんどん愛おしくなってくる。
夜明け前の団地の屋上で、主人公が津田を見つける場面なんて、胸にぐっとくるものがありました。
この小説に、特にテーマや主張といったものは感じられません。
物語というほどの物語も存在しない。
だけど人間がしっかりと描かれている。
だからこそ良い小説だと思いました。