そもそも論者の放言

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「なぜあの人はあやまちを認めないのか」 キャロル・タヴリス、エリオット・アロンソン

2010-11-27 00:14:23 | Books
心理学で云うところの「認知的不協和」と「自己正当化」について語った本。

「認知的不協和」とは?
心理的に相容れない二つの認知事項(思想、態度、信念、意見など)を抱え込んだときに起きる緊張状態のこと。
人間、不協和が生じると心の平穏が失われてしまうため、相容れない認知事項のうちいずれかを「曲げる」ことによって不協和を解消しようとします。
例えば、「タバコは体に害をもたらす愚かな嗜みである」という認知と、「自分はヘビースモーカーである」という認知が矛盾を起こしたとき不協和が生じます。
不協和を解消するために後者の認知を改めれば「禁煙」という解消方法になりますが、禁煙がなかなかうまくいかないと今度は前者の認知を改めようとする心理が働きます。
即ち、「言われるほど身体に悪くない」「喫煙してても健康な人はたくさんいる」「吸えば気持ちが落ち着くし、悪いことばかりじゃない」などと自分に言い聞かせることで不協和から逃れようとする。
これが「自己正当化」につながっていくわけです。

この本には実例が数多紹介されているのですが、最も身につまされ、共感をもって読んだのは「夫婦間の諍い」の例。

どんなに仲の良い夫婦にだって、配偶者の態度や言動でどうしても気に入らない、許せないという点があるはず。
「この人を愛し、素晴らしい結婚をした」という事実と「この人は自分を尊重してくれない、自分が気に入らないことばかりする」という思いが不協和を起こします。
このときに後者の認知を改め、「自分のほうにも配慮の足らない点があったのかもしれない」「あの人がああいう態度をとったのは何か理由があったのかもしれない(仕事や家事で疲れていたとか)」となれば平穏に済むが、「自分は悪くないのに、あの人はどうしてああなんだろう」と自己正当化が始まると夫婦の亀裂が広がっていく端緒となってしまう。

自己正当化の恐ろしいところは、それがスパイラル的にエスカレートしていくこと。
「自分には問題がない。あっちの性格に問題がある。」と一旦考え始めると、その考えを支持し補強する事実ばかりが目につくようになり、自分自身の悪さを示す事実は目に入らなくなってくる。
そのことでますます自己正当化は強固なものになっていくわけです。
しかも、お互いに。

更に、自己正当化していく過程で相手を非難したりすると、別の不協和が生じることになります。
他人を非難することは普通の人にとってけっして気持のよいことではなく自己嫌悪をもたらすもの。
「自分は善良な人間である」という認知と、「相手を非難した」という認知が不協和を起こし、それを解消するために「相手は非難されても仕方のない酷い人間だ」という考えが頭をもたげてきます。

それでまた自己正当化が強化され、相手に辛く当たる→相手も自己正当化の殻にこもって反撃→ますます嫌悪感が募り…
もはや泥沼状態、後戻り不可能。
そうなってくると、自身の記憶を改ざんしようとする心理すら働き出します。
「最初からあの人を愛してなんていなかった、自分は騙されて結婚したのだ」と…

この本ではピラミッドを別の方向に下りるという比喩が何度も出てきます。
最初はピラミッドのてっぺんですぐ傍にいたのに、別の方向にピラミッドを下りて行っていつしか姿が見えないほどの遠い距離が生じてしまう。

こんな実例が個人レベルから国家レベルまで、これでもかというくらい列挙されていきます。

しかし一方で、自己正当化による認知的不協和の解消という心の働きは、平穏な気持ちで生きていくために必要なもの、という面もあります。
必要悪というわけです。
それでも、自己正当化の罠から逃れることはできないにしても、自分は今認知的不協和に陥ってるな、自己正当化が働いてるな、ということを意識することができれば、不合理な言動に突っ走らないようにコントロールをできるようにはなりそうです。

というわけで、なかなか興味深い内容でしたが、同じことを手を変え品を変えくどいほどに主張している感があり、読み物としては少々冗長な印象です。
あと、児童施設での虐待を巡る訴訟が流行した話などが例示されるんですが、このあたりは米国特有の事例という感じがしてあんまり真実味を感じられませんでした。

なぜあの人はあやまちを認めないのか
キャロル・タヴリス、エリオット・アロンソン
河出書房新社

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