そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『トヨタの強さの秘密』 酒井崇男

2017-04-09 23:41:21 | Books
トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業 (講談社現代新書)
酒井 崇男
講談社


Kindle版にて読了。

トヨタはなぜ強いのか?
その秘訣は、「カイゼン」「ジャスト・イン・タイム」などのトヨタ生産方式:TPS(Toyota Production System)にあるとほとんどの人が考えている。

が、著者はそうではないと言う。
TPSに求められている役割は、設計情報を間違いなく実際の製品の形にすること、つまり、製造品質(適合品質)を保証することである。
そして、それを最小の費用かつ、最小の運転資金で、望まれる水準の品質で行う(コピ ー)プロセスを作ることである。
TPSは売れるモノがあった上での話であり、その「売れるモノ」を設計情報として生み出す営みがトヨタ流製品開発:TPD(Toyota Product Development)である。
TPDこそがトヨタの強さをずっと支えてきたのだと。

そして、そのTPDの中心となっているのが、製品の社長である車両担当主査だと言う。
主査は、製品の価値を決める広義の設計者であり、同時に利益に責任を持つ原価企画の責任者でもある。
つまり主査は、製品の価値と利益と実現手段すべてに責任を持っている。
トヨタ内では、生み出される製品が、我々が買う「商品」として価値があり、高く売れるのか売れないのか、あるいは、製品の持つ価値に対して我々がお買い得だと思う価格で提供されるのか、逆に、会社側から見れば、商品の売価に対して、十分に利益が出せる原価構造になっているのか、といったことは、すべて TPDで決められるのだと。

主査は「製品の社長」であり、(本当の)社長は主査の助っ人であるとまで言われている。
主査こそが、利益を設計段階から作り込む存在であると。

だから、他の企業がTPDなくしてTPSだけ真似しても儲からない、そういう失敗例は世の中にたくさんあるそうだ。

TPDで売れるモノを作るために、TPSで資金を捻出して、ますます工場が稼働するようにしていたというのが、TPDとTPSの関係であると。
トヨタというとなぜかTPSばかりが有名になってしまったが、全体のシステムの中で TPSが担っていたのは、売れるモノを生み出すところではなくて、そのための資金捻出のところである。

自分も御多分に洩れず「トヨタ=TPS」だと浅い理解しか持っていなかったクチなので、TPDの話はなかなかに目からウロコだった。
しかも、このTPDを米国企業が取り入れたのがいわゆる「リーン」だそうなのだ。
そのリーンを逆輸入して喜んでいる日本企業は、トヨタという本家本元が国内にいることを何もわかっていない、と著者は不明を断じている。

正直、じゃあ他の企業がTPDを真似できるかというと、クルマのような大量生産品、かつ、世界中で拡販できる商品を持っている企業じゃないとなかなかそのまま当てはめることは難しいかな、という気はする。
だが、主査制度のような考え方は、組織設計や権限設計を考える上では参考になるとは思った。

それ以外のところで興味深かったところを以下備忘のため、引用しておく。

・経済学部ものつくり論で言う「すりあわせ」とは米国のカール・ウルリッヒ教授の言うインテグラル・アーキテクチャとモジュール・アーキテクチャのうち、インテグラル・アーキテクチャを翻訳したものだという。すりあわせアーキテクチャの自動車産業にはすりあわせ型の組織能力のある日本人が向いているなどという議論はもちろん間違いで、自動車はヘンリー・フォードの時代からモジュール・アーキテクチャであり、日本人だからといって、横串の調整機能が得意などというわけではない。TQMの「機能別管理」、会議体、委員会など、特に豊田英二氏らのリーダーシップで取り組んできた横串組織の活動、すなわち、横串の会議体、委員会、前工程と後工程の連携は、日本人だけではなく外国人でももちろんできる。TQMは、設計品質を確保し、製造品質を確保する。TQMはそのためのマネジメントである。

・自動車と違い、パソコンやスマホ、半導体のようなデジタル製品ではすりあわせ力が生かせないので日本企業は弱いなどという議論があったが、それも的が外れていて、パソコンやスマホの設計情報は、すでにインテルやクアルコムのような会社を中心に設計済・企画済であり、日本の家電メーカーはその転写のみ担当している。儲からないのは当たり前である。

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