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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

018 ポネリーアを救え! ―5―

2010年02月28日 17時34分43秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 異様な雰囲気の中、食料が詰まった袋に群がっていた大勢の黒ブチ猫は私を取り囲んだ。
 真正面から値踏みする者、上から見下ろす者、後ろから遠巻きに眺める者と、下卑笑いと舌舐めずりして近づくオス猫達に、私は唸りながら威嚇する。

「ニャアア(へっへっへ、痛くしないからコッチ来いよぉ)」 
「ニャア、ニャアア(そうだぜ、この俺が特別優しく扱ってやるよ・・・)」
「フギャアアッ(何言ってんだよ!前に襲ったメス猫はお前に譲ったじゃねーか! 次は俺だ!!)」 
「フウウウッッ!(ち、近寄らないでよっ!)」

 貞操の危機を感じ、焦って逃げようと駆け出すと左右前後に立ち塞がれる。後ろからメタボ猫に押さえ付けられて、ガクンと前のめりに倒れ込んだ。暴れて抜け出そうとしても、自分よりも大きくて体重のあるオス猫からはどうやっても逃げられない。
 暫く猫パンチを繰り出していたら、彼の黒い顔に爪が引っ掛かった。喜んだのも束の間、頭にきた彼は私の首根っこに狙いを付けて、何度も噛み付こうとして来る。

 バチチチッ!!

「フギャアアッ(イデェーー!!)」
「ミギャアアッ(なっ、何だコレッ!!)」
「ニギャアアアッ(だ、旦那、大丈夫ですかい?)

 私の背後に居たメタボ猫が、白い魔法陣と接触した様だ。
 モロに顔面に当たった鼻から煙がプスプスと立ち昇る。
 痛みを堪え切れず転げまわる様を見て、私を取り囲んでいた黒ブチ猫達は一斉に私から離れた。今ばかりはこのピリマウムに感謝だ。

「・・・ニャアアアッ(はっ、早くしなさいよ!人間が来るかもしれないじゃないっ)」

 苛立ち紛れにけしかけるメス猫さんに、オス猫達は逆に尻ごみし出して来た。さっき迄の勢いはなんとやらだ――

「ギニャアアッ(そ、そうだ、さっさとしろよっ!順番が廻って来ねえじゃねぇかっ!!)」
「ニャアアッ!(そんな事言ったって、コイツに近づいたら旦那の二の舞じゃねぇか!!)」

 悶絶しているメタボ猫を見て、一同恐ろしい物を見る様な眼差しを私は一身に受けた。

 ――失礼な、被害を受けたのはコッチなのに。
 ムッとして彼らに一歩二歩近付くと、彼らも一歩二歩跳び下がる。
 怯える彼らの反応に味を占め、ニヤリとして反撃しようと企んだ時、右目を怪我した黒ブチ猫は「ギャッ!」と跳び上がりうつ伏せた。


「ニャアアアッ(お前ら、何嫌がるメスを犯そうとしてる!!)」
「!!」

 響き渡る怒声が聞こえた後、フギャアアアッ!!と周りから悲痛な声が辺りに響く。
 一体何が起こったんだろう? と不思議に思い、注視したけど見た限り何も無い。
 一番近くに居た黒ブチ猫の背後に回ってみると、私よりも小さな黒猫が果敢にもオス猫の尻尾を噛んでいた。

「フウウウウッ(お姉さんから離れろっ!! このチンピラめっ)」 
「フギャアアアアッ(わ、分ったから。頼むから尻尾を噛むの止めろぉぉ!!)」

 大人の貫録も何も無いと来た。
 懇願する情けないその様子に、白い目を向けながら黒い子猫は素早く離れる。
 周りに居た他の子猫達も一斉に離れ、先程の怒声の主へと寄り出した。一瞬静寂が訪れた後、ねっとりとした場違いな猫鳴き声が耳に届く。

「ニャ、ニャアア〜〜ン!!(あ〜〜ん、ティムぅぅ!!)」 

 ズッコケそうになった。何、その甘ったるい媚びた鳴き声!!
 周りのオス猫も一瞬動きが止まる。

「ギャッ(イテェッ!!)」
「ニャアッ!(フンッ、あんた達邪魔よ!)」

 地面に転がるオス猫を後ろ足で蹴り付けて、メス猫さんはティムと呼んだ黒ブチ猫に喜び勇んで擦り寄り甘えている。 その態度とは対照的に、“ティム”と呼ばれた黒ブチ猫は冷ややかだ。

「ニャアア・・・(レミィ、お前がここに居てなんてザマだ)」
「ニャアッ、ニャアア(ティム、でも私・・・!!)」
「ニャアアア(チビ達と一緒にこの場所から早く離れろ。もうすぐ人間が来る)」
「ニャ、ニャアッ!(わ、分かった)」

 撤退するわよと猫語で話し、悶絶していたメタボ猫も力無く立ち上がり仲間の黒ブチ猫と四方に散って行った。
 残ったティムは、申し訳なさ気に私に謝罪してくれる。険しさを纏った深い藍色の瞳が緩やかなものになると、私の体の力が抜けてペシャリと座り込んだ。

「ニャア、ニャアア・・・(悪かったな。アイツ等、メスと見たら見境が無くなるんだ。レミィ、あのメス猫は充分な食べ物が無くて気が立ってただけで、普段はもうちょっと大人しい・・・)」
「ニャアアッ(もっ、もう良いよ。特には何も無かったし、貴方達に助けて貰ったから・・・良い教訓にもなったよ」

 ゲッソリして返事する。 
 野生で過ごすとなるとこんな危険も付き纏うのか。
 そうだよなぁ、自分の世界でも性別に関係無く避妊を推すにはちゃんとした理由があったもの。
 出会った異性の猫と性行為した場合、高い確率でメスは子供を産む。子猫が生まれるのは何も一匹二匹だけじゃ無い。しかも獣の本能と来たら、一度や二度で満足するものでも無い。だからネズミ算的にどんどん増えて行く――って、まさか!

「ニャアアアッ(や、やっぱりこの世界で“不妊手術”とか、そんなの無いよね??)」
「ニャアアッ(少なくともこの港町ではそういうのはしないな。だから俺がさっきみたいに見回りして奴等に自重させてるんだ)」 
「・・・」 
「ニャアアアッ(昨日の魔族の襲来で家を無くした者や、親を亡くした子猫を俺が面倒見てる。食料も以前に比べて取りにくくなったからな。だから口を酸っぱくして注意してるんだが・・・・)」

 口で言っても聞かない奴等には鉄拳制裁すると、目の前で誓われた。
 猫には猫の世界があるらしい。そっかと納得して、最後に少年ルイ君の事をティムに伝える。

「ニャアアア(ルイ・・・あいつには世話になりっぱなしだった。小さかったが俺の誇れるご主人だったんだ)」
「ニャア、ニャア(だったって・・・、もう会ってくれないの??ルイ君は、貴方の事をとても心配してたよ。会いに行く位良いんじゃないの??)」

 窺う様に問い掛ける。けれど彼は首を横に振った。
 青い色の首輪に付いた金の鈴がチリリンと音を鳴らす。

「ニャアアアッ(ルイに会うと、きっと俺は野良に戻れなくなる。それ位あいつの傍に居るのは居心地よかった。・・・ルイの両親はちゃんと生きてるが、俺が引き取ったチビ達には親が居ない)」

 目を閉じていた瞼を開き、深い藍色の瞳が首輪に付いた鈴を愛しげに眺める。

「ニャアア(俺にも守る存在が出来たんだと、伝えてほしい)」
「ニャ、ニャア・・・(守る存在・・・)」
「ニャアアアッ(親が居なくなったチビ達は愛情を知らない。今度は俺が教えてやる番なんだ。こんな事、襲われそうになったアンタに頼むのはズルイ気もするが、どうか、頼む!!)」
「ニャアアッ(分かったよ、伝えとく)」 

 守る存在の為に、ヒトも獣も強くなれる。
 大丈夫、きっと彼等は立ち直れる。
 私に出来る唯一つの事はちっぽけな事だけど、それでも何か手助けしたい。それは彼らの心を支える事に繋がる事だと信じてる。王様やガウラは私を信頼してくれてる。彼らの為にも報いたい。

 ウニャアアッと誇らしく一鳴きする。そうだ、これも聞いとこうとティムに尋ねた。

「ニャアアアッ(検問所の事を聞いても良い??えっと、南側の検問所・・・だよね。何か知らない?結界を壊された時の事とか、魔術師さんがどうなったとか)」 
「ニャアア(俺が見た時は、もう壊された後で魔術師も事切れていた。悪いな、大して力になれなくて・・・)」
「ニャアアッ!(そんな事無い!えっと、チビちゃん達の事、しっかりお願いね!!)」

 しっかり者の彼ならポネリーアの猫達を充分纏め上げれるだろう。
 尻尾を振ってティムの姿を見送った。


「ニャ、ニャアッ(さて、私もここから移動しなくちゃ!!)」

 都合の悪い事に、今私が居る場所は救援物資が置かれてる場所なのだ。
 黒ブチ猫の彼等はこの食糧を狙っていた。結局未遂となったが、もしここで私が人間に捕まったりすると、あらぬ疑いを掛けられる可能性が出てくる。そんな所を人間に見つかると目も当てられん!という事で、そろりと動こうとした時。

「隊長、さっき野良猫達がこの辺をウロウロしてましたが・・・」
「それは俺も見た。食糧を食い荒らされてないと良いが」

(ギャーー!!騎士団のヒトが来ちゃったよ!!)

 隊長と呼ばれた骨格の良い騎士の人はブルネットの短髪に焦げ茶の瞳、もう一人は・・・
 おっ、女の人だ!!金髪の長い髪を左耳の後ろで一つに縛り、サーベルを腰に括りつけている。どちらも軽装の服を着こみ、銀の胸当てだけが心許なく付けられている。

「・・・」
「・・・」

 今、私と騎士の人二人は見つめ合っている。沈黙が痛い・・・

「隊長、この白い猫はもしかして・・・」
「ああ、陛下がおっしゃった“異世界の覇者”だな」

 二人しゃがみ込まれじっくりと眺められる。
 女の人も角度を変えて「ホウ・・・」と呟かれ、ワキワキした手を出したり引っ込めたりしていた。ドアップで見つめられるから、空色の瞳と視線がぶつかる。
 ・・・来世はコレ位美人な人に生まれ変わりたい。今世では不本意だが猫になったんだから、我儘言っても許されるはずだ。つか、絶対しろよ。割に合わんだろコレ。
 猫にされたり、異世界来てデコピンされて、挙句の果てには犯されそうになるし・・・!
 悶々と一人ツッコミして、神様に侮蔑を並びたてた所チョットは気が晴れた。思考を元に戻し、乱暴はされないと分かり安心した時、銀の胸当てが視界いっぱい広がる。

「ニャ、ニャアッ(ヒャアッ)」
「エヴァディス宰相が捜していた。“白い猫を直ちに捜してくれ”と、手の空いた兵士に勧告命令が出ている。さあ、彼らの所へ行こうか」
「ニャ!(エヴァディスさんが!?)」
「エヴァディス宰相が私的な理由で部下に命令を下す事は滅多に無い事なのだぞ。お前、かなりの大物だな」

 隊長と呼ばれた人に抱き上げられ、横から女の人が背を撫で感心して呟いていた。
 イヤ、照れますな。大物だなんてそんなっ!! 褒めたって何も出ないよっ、奥さん! みたいな。
 上機嫌に尻尾をフリフリ動かして、エヴァディスさんの居る中央広場まで連れて行って貰う事に。

 余談な話。この後私はガウラと再開するが、今までとは比にならない程の執着ぶりを身を持って体験する事になる(ゲフンッ!)




青い首輪を付けた黒ブチ猫 ティム
ティムに首ったけのメス猫 レミィ

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