


――ひょっこり猫島のラクト家にて――
「きええぇーー!」
「ぶふっ…! 凄い奇声だね、ラクトぉ~~」
腹を抱えて床にのたうち、転がり続ける白い猫のリオ。
金色の瞳からは涙がチョチョ切れ、口元はひきつき可愛さのカケラもない。
今日は一体どうしたのだと、両手を上下に振っている雪ウサギラクトに問いかけた。
「あー…最近冒険してないなと思ってね。つまんないから武芸でもしてた…」
「え、さっきの武芸だったの。てっきり肩叩きを極める為の動きかと思ってたのに」
「私の短い手と足じゃ肩叩きに見えるのか…ま、まぁ良いや、ところでリオ、この棍棒に見覚えは?」
「はわっ、こ、これは…!」
ジャンっと効果音でも付きそうな勢いで、雪ウサギラクトの丸い手に握られた物を見た。
違う世界で大活躍した生命の杖。頭部に女神らしき姿を象った、魔力が宿った杖。この杖がここにあると言う事は、もしやもしや…?
「私を誰だと思ってんの? これでもあんた達の(小説の)生みの親だからねー♪」
「ふ、ふーん。でもこれ持ってどうすんの?」
「ふっふっふ…、私も冒険したいと思ってこんなの用意してみました。にゃむにゃむ、わおっ」
「ぶふっ!」
ラクトの奇妙な呪文に笑いながら、その後静止した。なんと、三つの門がいつの間にか設置されてたからだ。
銅と銀に金の門――どの門も大きくて立派だ。しかも自分達よりも数百倍でかいのだから、ビビるしか他ない。
「嫌な予感がするんだけど! ラクトってば、また私をどっかに連れて行こうとしてない?」
「大丈夫、今回はガウラと私、ルビリアニャちゃんもメンバーとして連れてくからね!」
「ご、豪華メンバーだねぇ。でも大丈夫かなぁ」
「リオッ!!」
台所から慌ててやってきた守護獣ガウラ。
胸にハートマークを付けた白いエプロン姿は、既に主夫と化していた。
猫のリオを常に射止めて置きたいと強く願うあまり、最近は食べ物でも釣る様になったという。
食べ物がないと生物は生きられないのと同じように、リオにとってのガウラもそうであって欲しいと常々愚痴を零しているのを、耳にタコが出来るぐらい聞かされていた。
「今日も愛しいオレのリオ。この白い体がオレの目には眩い。その愛らしい姿で他のオスを誘わないように、オレがしっかり見張っておかないとな」
「ニャ、ニャに恥ずかしい事を言ってんの! もう、ガウラはいっつもこうなんだからぁ…」
「照れてるのか? そんなリオも可愛い…」
とろける様な眼差しを送り、猫のリオの喉をゴロゴロとさすり続ける事・約五分――バフォちゃんに抱き上げられた上級魔族のルビリアナお嬢さまがやって来た。クロウ家特有のダークゲートを使って、瞬時にテレポートしてきたようだ。床の魔法陣を消さぬまま、こちらに近づいてきた。
「こんにちは。リオちゃん、ガウラ、それにラクト☆ 」
「こ、こんにちは、ルビリアナさん…もげっ、ガッ、ガウラァ…」
「ふん、もっと遅くに来るものかと思ったが、今日は早かったんだな。特に期待はしていないが」
「ガウラ! お、おこんにちは、ルビリアニャちゃん。待ってたよ」
「うふふ、気にしないわ。以前の時と今の私も、性質はそんなに変わっていないもの――っと、今日はお招きありがとうね。さて、どの門にしましょうか。あ、バフォちゃん、また後で喚ぶかもしれないから、よろしくね♪」
猫のリオに頬ずりを止めぬまま、横目でチラ見して嫌味を吐くガウラ。
昔の凄惨な出来事を忘れちゃいまいとする態勢は、ひょっこり猫島に来てからも未だに崩さないらしい。それほどに彼の心を傷付けたのだから、生みの親としても心苦しくなった。
「…今日はラクトが楽しむ為の催しでしょ? 貴方達を裏切るような事はしないわ」
「オレは良い。リオを悲しませる様な事をしないと誓ってくれれば、今日の所は何も言わない」
今の時点では論議する事を止めたらしい。
疑惑に満ちた瞳を消して、ふやけた表情に戻したガウラは猫のリオに高速の頬ずりを再開していた。
「ニャ、ニャオー…ラクト、どの門に行くのか、早く決めてよ」
「そ、そうだね、じゃあ…銅の門に行ってみようか?」
「うふふ、どんな場所かしら。さあ、ラクト」
「うん! にゃむにゃむ、わおっ!」
銅の門が開かれる――
来たれ、勇気ある守人よ
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