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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

014 ポネリーアを救え! ―2―

2010年02月28日 13時28分57秒 | 小説作業編集用カテゴリ

 〜〜〜中央広場 臨時救護テント〜〜〜

 潮風の匂い、鳥達のさえずり、降り注ぐ太陽の木漏れ日は何時もの日常と同じで、目に映る程豹変したのは人間や獣人が住む居住区域となった。
 直射日光を遮る為に、革で木材に括り付けた大きなテントやかろうじて被害を免れた病院で、ポネリーアの住民達は朝を迎える。

 消毒液の匂いが鼻を付き、疼く痛みと痒みに唸り声を上げ悶える人間と獣人達。人口の比率は人間の方が多い。しかし商売をするに当たってこの国に来た者としては、どちらかと言えば商才に力を入れた者で、武芸に秀でていない者が殆どだ。
 火傷や建物の下敷きとなって打撲による重症患者がひしめく中、助っ人に駆り出された王宮の兵士や騎士達は包帯を替えたり水を求めてテンヤワンヤしていた。

「お、お願いします・・・水をもっとくれ・・・体は焼けて爛れるし、喉も渇く」
「私も、お水下さい。出来ればもっと飲みたいんです・・・」 
「今、神殿と王宮から緊急として大量の水をこの国に移動させて、皆さんに配っているんです。今手元にある分しか無いんですよ」

 騎士団所属のルートビッヒ・ラルドはホトホト困っていた。今この国にある水は雨で貯水していた分を全て使い切ったからだ。後はプロテカ神殿、ディッセント国の城の保有している水にしか頼る術が無い。
 一番の頼みはやはり神殿の中を流れる淨水路からの清涼水だが、アレは一日に作る水の量が決まっていた筈なのだ。しかもその量は普段の日常で、節水しなければいけないほどギリギリだったと思う。
 海の水を清涼水に変えるのは今のところ水の精霊の眷属・ティアレストしかいない。直に問い掛けられる程、自分は精神・魔力も持ち合わせていないのだから歯噛みし、じっと耐えるしかないのだ。

 休憩としてテントの外に出て気分転換していると、何処かから名前を呼ばれる。

「おーい、ルーー!!」
「ん??」
「コッチだよ、ルートビッヒ!!」
 
 変装をしてはいるが声からして友人であるライウッドと分かり、後は誰だか分らない旅人の格好をした複数の人間が歩いて此方に近づいて来た。

「ん?ああ、ライウッド、お前か。どうしたんだ?変装なんかして・・・?お前も駆り出されたのか。今人手も水も足りなくてだなぁ・・・全く、こんな時になんだけど猫の手でも借りたい位だ」

 座っていた瓦礫から立ち上ると、疲弊した様子で手が足りないと文句を口にした。普段でも冗談を言う彼では無い。しかしどこかで力を抜かないと、心は悲鳴を上げたまま自分が押し潰されるんじゃないかと誰かに吐露したくなった。 

「へへっ!!お前のお望みどおり、本当の猫を連れて来たんだ!!」
「・・・はぁ??」

 お前、頭大丈夫か??今のは比喩で言ったんだが、と友人である彼に問い質そうとする前に、彼が後ろを向いて誰かを呼び出した。

「リオちゃん、コッチだよ!!」

 見ると黄褐色の髪をした人間がやって来て、布にくるまれた何かを手に持っている。目線を下げて見てみると金色の瞳と目が合った。

「ニャアア(は、初めまして。リオです)」
「・・・」
「名前はリオと言っている。オレはガウラ。よろしく頼む」 

 モゾモゾと布の中から顔を出したのは、真っ白い顔の猫。金の瞳を瞬きしてコチラをジッと見つめて来た。

「ねっ??この子がルーの言ってた猫の手も借りたい・・・・っててて!!何すんだよっ!?いきなり腕引っ張んなって!!」

 ルーと呼ばれた騎士団員の彼は、ライウッドをリオ達から少し離れた所まで連れ出し、額に手を当てながら言い放つ。

「ライウッド、お前姫様の専属騎士やって少しはその能天気な性格がマシになったかと思ったのに、本当に猫連れてやって来てどうするって言うんだよ!!」
「いや、だからさ・・・」
「俺は友として情けないぞ!いつからお前は人の悲しみにつけ込んで逆撫でする男になったんだ!!」

 最早聞く耳持たんとばかりにお説教タイムが始まった。ライウッドは苦笑いして自分の幼馴染であり、同じ専属騎士のイールヴァに目線を送る。頷き、二人の間に割って入った。 

「話している所悪いが、こっちは真剣な話でコイツを連れて来た。ライを責めないでやってくれ」
「お久しぶり、ルートビッヒ。ライウッドの言う事は本当よ。この方が覇者様なんです。あ、私が来たこと、他の人には秘密にしてね」
「あの・・・?」

 ルートビッヒは一人で混乱していた。
 何せ旅人の格好をした彼らの事は全く知らないのに、話口調は自分の事を以前から知っている者が使う言葉だからだ。当然の事の様に話す彼らに首を傾けるばかりである。
 埒が明かないと踏んだイールヴァがメガネを外し、頭に巻いた布を取る。
 フリージアもメガネを取って髪の毛に付けた蝶の留め具を外すと、ピンクから鷲色の髪に様変わりした。

「イッ、イールヴァ!!・・・・ひ、姫様っ??」
フリージアに向けて慌てて膝を付く。その仕草にフリージアは慌てて止めた。声を小さくしてルートビッヒに問い掛ける。

「シ、シー!!あの、今日はエヴァディスに会いに来たのよ。彼は今どこに??」
「はっ、エヴァディス宰相は南の区域に居るかと思いますが、直に来られるかと存じます!!」
「ありがとう。じゃあ、ここで少し待ちましょうか?」

 そう言ってここにいる5人に確認を取った。

***

 ここに来た目的は各々あるのだが、まずリオが住民達の心のケアをする事になった。
 五人はテントの中に入り簡易ベッドに寝かされている者、ベッドが足りなくて床の上で体を休めている者と多数の重症患者を目に移す。自らの心臓がドキドキして固唾を呑んでいる時、床の上で幼い子供が火傷による痛みで苦しんでいた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「・・・(苦しそうだ、どうしよう)」

 オロオロしてガウラを見上げた。優しい瞳で見つめ返してくれて、頭を撫でられる。すると何か思案した顔をして疑問に思った事をルートビッヒに訊ねてくれた。

「この国で何か足りない物はあるのか?」
「見ての通り、何もかも足りない。居住区が焼けた事によって生活するのに必要な物が全然で・・・水に食糧、ベッド、衣服。いや、やっぱり一番は水だろうか。急いで他の街から救援物資の援助を申請してるんだが急にこの町には届かないんだ」

「何故?隣町のレーニンなら直ぐに援助してくれる筈じゃ・・・」

 フリージアが問い掛ける。
 
「それでもこの町の全ての住民に行き渡る数じゃないんです。首都なだけに、人数も半端無いじゃないですか。それだけもっと違う国からの援助も頼らないと、全ての民には行き渡らないんです」
「そんな・・・!」

 一緒になって見廻っているルートビッヒは憔悴しきった顔で答えた。一番近くで住民らに尽力を尽くしている彼が、一番欲しい清涼水の獲得に難航を示している。リオは居ても立ってもいられなくて、ガウラの腕の中から滑り落ちた。

「ニャ、ニャアア(だ、大丈夫?)」 
「はぁ、はぁ・・・」
「ニャア、ニャア(ゴメンネ。私、どうやったら貴方達の苦しみを取り除けるか分からない)」

 腕や左目に包帯を巻かれた5,6才の男の子に近づいてリオは項垂れる。火傷をしていない腕の箇所に舌を這わせペロペロ舐めた。
 そっと白い体をすり寄せ、顔色を窺ってみる。それに気付いた男の子は右目を開けて、その白い生き物を恐る恐る片手で触れて確かめた。

「ね、猫・・・?」
「ニャアッ!!(そうだよっ!)」
「わ、わぁぁ・・・ボク、真っ白い猫を見たの初めて・・・うわぁぁ」
「ニャアアッ(元気出してねっ)」

 感嘆の息を漏らす。雪のように純白のその体は、見る者全てを魅了する。手の甲から肩に掛けて包帯を巻いているのも気にせずに、男の子は擦り寄って来るリオの真っ白い体を両手で抱き上げ頬ずりした。
 
「ふわふわだぁ。すごく柔らかくて暖かい。良い匂いもする・・・」
「ニャアニャアッ!!(へへっ、私の体を触って元気が出るならもっと触っていいよ!!ねっ!)」

 ガウラが聞けば嫉妬の炎を燃やしそうな台詞を惜しげも無く連発する。だが彼は我慢してリオの好きな様にさせていた。それを知らずにリオは男の子を元気付けようと、顔を精一杯舐める。すると男の子の右目から涙が流れ出た。

「ニャアアッ??(どうしたの?舐めた所、痛かった??)」 

 驚いて金の瞳を瞬きさせて窺うかの様にニャ? と首を傾ける。男の子は首を振りながら答えた。

「僕の家でも猫を飼ってたんだ。白い体で背中に黒い大きなブチの模様がある生意気な猫。でも助け出されたのは僕の家族だけで・・・」
「・・・」
「僕はティムを逃がそうといっぱい捜したんだけど、居なかったんだ。その内どんどん火が迫って来て・・・気が付いたらお父さんに抱きかかえられてたんだ」
「ニャア(じゃあ・・・)」
「キミ見て思い出したんだ。ティムの事。それで泣いたのかも・・・」
 
 涙を流しながら火に包まれる様子を思い浮かべ、しゃくり上げる。リオは堪らなくなり涙ごとペロペロ舐めた。

「ニャアアアッ!!(私、この町を見て回るからその時でいいならティムを捜しとくね!!えっと、それで君の名前は??)」
「??」

 ガウラに視線を向けると、意図を汲み取り通訳してくれた。
 男の子の両腕から滑り抜け、ガウラの元へと移動して、腕へと勢い良く跳び乗る。

「坊主、リオが町を見回るついでならティムを捜してもいいと言っている。それでお前の名前は?」
「ルイ・・・」

 任せて! と胸を張りウニャアアと一鳴き。
 どうやら少年ルイはティムの事を気掛かりとしていた様だった。

「・・・猫さんの名前、リオっていうの??」
「ニャア!!(そうだよっ!!)」
「えへへ・・・ありがとう、リオ・・・」

 安心したかのような表情を見せ、ルイ君は気持ち良さそうに眠ってしまった。


「驚いたな・・・あんなに痛がってたのに安心して眠るなんて。侮ってたよ。そうだよな、普通の猫にはまず無理だよな」 
「ああ、普通ならな。でもリオちゃんが居ればこの国はちゃんと立ち直れる気がするよ」
「私もそう思います。リオ様はこの国にとって無くてはならない存在におなりになるわ」

 残った騎士の三人とフリージアは、少し離れた場所でリオがする行動を眺めていた。彼女は我々が出来ない、人の心を少しづつだが解きほぐしていく――ルートビッヒはリオを唯の猫ではないと結論付けた。
 だが一人だけ、皆とは意見が相容れないイールヴァだけが、リオの事を冷たい目で眺めている事を誰一人気付かずに・・・


****

 お昼近く迄、少年のルイや他の眠っている重症患者を気遣ってか、テントの外でリオはせっせと人間に遊ばれていた。カウンセリングと言う名ばかりの、彼らのためのアニマルセラピーだ。比較的軽度の火傷で済んだ者などが積極的にリオに声を掛けて来たのである。

「リオちゃん・・・コッチおいで」
「コッチよ。さあ、撫でてあげる」
「オレ、猫じゃらし持ってんだよ。さあリオッ、コッチ来い!!」
「・・・ニャ、ニャアアア〜〜(ゼ〜、ゼ〜、ゼ〜ッ)」

 中央テントに入った時は、こんなに元気では無かった筈。一体何時の間にこんなに皆起き上がれる程回復してるんだろう?? それに白い猫は神の使いじゃ無かったのか? この扱いってペットにするような構われ様じゃない??
 不思議に思いながら床に伏せて、体力が回復するまで撫でて貰おうと、ヨロヨロと女の人に近づいた。だがそうする前に男の人に目の前で猫じゃらしをチラチラ見せられて、大人しくするなんて芸当、私には無理だった―――

「ホラホラッ!!」
「ニャ、ニャニャッ!!(ムォォォッ!!)」

 自らの安易な考えをあざ笑うかのように左右に動くソレ。
 目が血走り、獣の本能が騒ぐ――ヤツを追いかけろ、噛み千切ってしまえと。
 白い毛むくじゃらの手で動きを封じ込めて、自分の物にしたい!!
 リオはさながら獲物を狩る様に、ジリジリと距離を取る。男の人がその尋常じゃ無い気迫に「うっ、」とたじろいだ瞬間。
 白い体を空高く思いっきり跳躍させて―――

「あ、」「あっ」「ああっ!!」

 バシッ!と右手の肉球で踏みつけ手に取り、猫じゃらしにこれでもかと噛み付く。手にした戦利品を口に含み、一人よがり、ジャレついた。

「ニャア♪ ニャア♪」
「す、凄いぞリオちゃん!!」
「ホント・・・可愛いだけじゃ無くてとてもパワフルなその姿、家に欲しいわ」
「リオは俺の持ってる猫じゃらしが好きなんだよっ! なぁ、俺の所に来るよな??」

 素晴らしいパフォーマンスに、いつの間にか周りに居た重症患者達は拍手喝采していた。キョトンとして猫じゃらしを口に加えていると、遠くから声が近付いて来る。

「此処は物凄く活気づいてるな・・・?何かあったのか」
「「「「 !!! 」」」」

 新打ち登場である。噂の、怖いというエヴァディスさんが遂に来たのだ。背まである長い銀髪を一つに括り、上下白い服を着てマントを羽織り、体格が良く腰に朱玉が光る剣を所持している。
 灰色の眼に無表情の顔は何を考えているのか、猫である自分には勿論分からない。さっき迄元気だった患者さん達は、蜘蛛の子を散らすかの如く散って行った。

「・・・エディス叔父さん」

 変装したイルさんがエヴァディスさんをおもむろに呼び掛ける。叔父さんって、イルさんの親戚の人だったんだ。

「・・・イールヴァか?? お前がここに居ると言う事は――」
「「「お早う御座います、エヴァディス(おじ様)宰相!!」」」

 横に居る三人をチラリと一瞥すると、眉を顰めて溜息を吐く。
 フリージアちゃん、ライさんは躾が行き届いているのか、それとも真っ先に叱責を受けるのが嫌なのか、エヴァディスさんの口を開かせる前に素早く挨拶に移行した。
 次に視線を巡らせ、こっちを見て驚愕の表情―――

「白い猫――貴方がもしや覇者殿か?」 
「ニャ、ニャアア!(あ、私の名前はリオです! とりあえず皆が覇者って言ってるだけですから)」
「名前はリオ、周りが覇者と言っているので不本意だがそれに甘んじていると言っている。因みに俺はリオの守護獣ガウラ。元は“カイナ”だ」
「ヴニャニャニャッ・・・!(くっ、苦しい!)」

 エヴァディスさんの纏う空気に、ガウラが警戒して私を抱き込む力を強める。息苦しさに驚いて腕に爪を立て、引っ掻いてしまった。

「そうか、異世界の覇者の・・・やっと見つかったのか・・・」

 灰色の瞳をこれでもかと見開いて呟く。ジーッと見つめられる事5秒、この緊迫した状況に耐えられなくなった私のお腹は、物の見事にその存在を盛大に主張した。

 グゥゥゥ・・・

「・・・」
「ニャ、ニャア(ゴ、ゴメンナサイ・・・)」

 ショボンと項垂れる。最近こんなんばっかじゃないか、私のお腹。
 ガウラの腕の中で顔を伏せ、力無くグッタリしつつ、シッポだけをフリフリ動かす。
 最近意識して動かせる様になった私のシッポをガウラは優しく擦ってくれれば、開口一番とんでもない事を喋り出した。

「そろそろ昼時だ。昼時はリオと二人っきりで甘い時を過ごしたい」  
「・・・俺達は別にどっちでも良い。飯を食べたら待ち合わせは北方面の入口で・・・」

 ガウラとイルさんがこの場を仕切るかの如く、速やかに綿密スケジュールを組んでいる。そのやり取りを打ち壊すかの如く、鶴の一声が出た。

「いや、私はお前達の今までの成り行きの話なんかを聞きたい。ガウラ殿、悪いが昼食は此方のテントで取って頂く・・・良いな?イル」 
「ハ、ハイ・・・!」
「チッ!!」 

 有無を言わさぬその物言い、明らかに語尾を強めてイルさんを脅してますよね。姿勢を正して返事したその顔は、若干口元が引き攣っている。ガウラは一瞬舌打ち・・・ちょっと、行儀が悪いよ!!
 でも、これでイルさんの上を行く人は王様、エヴァディスさん、フリージアちゃんと三人見つけたっ!! 後はこの国の王妃様と接触しなくちゃっ!!
目指せっ、王族コンプリート!!!





騎士団所属 熱血漢 ルートビッヒ・ラルド
左目を負傷した少年 ルイ

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