
本編 白呪記
リオとガウラの聖なる夜 (番外編)
12月24日――クリスマスの前夜祭。
巷ではイブの日だ。そこもかしこも、パートナーと一緒に過ごす大切な日。
特に私は何もしなかったけど、二人のお兄ちゃんを含め、五人家族揃っては美味しい物を食べてたと記憶してる。
「ニャアアア・・・(もうそんな季節かなぁ)」
魔族の世界、デルモントに雪が舞い落ちる。
気温がいつもよりグッと下がって、自分の毛むくじゃらの手足がかじかむ。
口から白い吐息がハッキリと見えた時、ガウラに抱き上げられた。
「雪を眺めるのも良いが、風邪を引く。城の中からも見れるし、中へ入ろう」
「ニャッ、ニャアッ(うんっ)」
灰色の飛竜(ロドス)さんに頼んで、城の入口まで運んで貰う。
さっきまで、ペンギン三兄弟と駆けっこして遊んでたんだ。
長男のマルルさんには電光石火を特技にしてるだけ、猫の私は一回も勝てた事は無い。
二男のコパパさんと三男のモモチさんにはなんとか勝てても、たまに彼等は腹で滑る時がある。汚い反則技にムシャクシャしてると、ガウラがツララを出して彼等をいびってくれた。
「ニャ!(しまった!)」
「どうした? リオ」
クリスマスを連想する物――御馳走、サンタ、プレゼントじゃないかっ。私とした事が、ガウラへの贈り物の事を考えた事なんか無いっ!! 誕生日だって、ん? ・・・ガ、ガウラの誕生日も知らないじゃないかっ。これはぜひ訊かねばっ!
「ニャアアッ(ガウラッ、誕生日はいつ?)」
「リオ? どうしたんだ、いきなり――」
頬ずりしていたガウラが、私の言動を聞いて動きを止める。少しうろたえ、視線が定まらない。・・・えっと、そんな変な事訊いたかなぁ??
「・・・」
「ニャオオッ(ガウラの誕生日を知らないと、贈り物もあげれないでしょ? だから、いつ頃かなーーって・・・)」
「すまない。誕生日は忘れてしまったんだ」
ホワイッ?? 忘れたとな?
ガウラは、私とそんなに年が離れてない筈だ。
自分の両親がもし居なくても、カイナの群れに居た大人達から話を訊けば、どの季節に産まれたかくらい分かるはずなのに。
「ニャアアッ(春とか、夏とかは・・・? お祝いみたいなのは、カイナの中でしなかったの?)」
「多分、夏頃だったと思うが。誕生日とやらは、キリがないからしていない。かれこれ、百五十年は生きてるからな」
ニャンとっ!
「リオには言ってなかったな。オレ達カイナは、長寿だ。千年は余裕で生きれる」
「ニャアアッ(えぇぇっ! じゃあ、ガウラって百五十歳なの・・・?)」
じじいじゃないかっ!
「ニャガッ(あだっ、)」
軽くゲンコツされた。
ガウラの眉間にしわが寄って、不服そうに顔を顰(しか)めている。
「こら、リオ。声が聴こえたぞ。
カイナの中での百五十年は、人間の十五歳に相当するんだ。オレはフリージア達と同い年なんだからな。間違ってもじじいじゃないぞ」
「ニャオォォン・・・(そ、そうだったんだ。ゴメンネ、ガウラ)」
「その証拠に、人間姿のオレは近衛騎士のイールヴァやライウッドとそんな変わらないだろ。若い証拠だ」
確かに、ガウラの姿はじじい・・・とは無縁の若い青年の姿。髪の毛も、肌も、白髪やしわくちゃとは程遠い。
現代世界では鶴は千年、亀は万年と諺(ことわざ)があるけど、千年もの月日を生きるなんて仙人じゃなきゃ絶対無理だ。
「リオ、この窓のくぼみからなら雪が見えるぞ」
「ニャ!(うんっ)」
窓枠まで二人移動して、そこから眺める。
実際にはガラスなんて取り付けられてないのに、外からの冷気は入ってこない。
ガウラが近くにあった椅子を移動させて、膝の上に乗せて貰う。それから一緒に雪を堪能した。
「ニャアアッ(さっきの話なんだけど。お祝いの時はどんなモノ貰ってたの?)」
「オレが小さい時だったからな。皆からは沢山の獲物をドッサリ貰った。獲物は自分で捕らなきゃならないんだが、この日の時だけはてんこ盛りになるぐらいだった」
ガウラの小さい時・・・百五十年で人間で言う十五歳。百年で十歳。三十年で・・・三歳?
「ニャオオオォォン!!(カイナは凄いなぁ)」
ガウラはこれから、きっと千年は余裕で生きる。その時、私がそこに居ない事は少し寂しい――でも、猫の姿で千年や万年生きるとなるとキッツイしなぁ・・・神の使いでありながらヨボヨボの妖怪みたいな格好なんて、女として正直イヤだ。
「ニャアアアッ(まっ、ガウラは頑張ってねッ)」
「・・・」
平凡&小さい脳みそで考えた末の答えは、ガウラへの励ましの言葉だった。
彼は少しの間沈黙した後、良い案が閃いたと私に切り返す。
「白精霊のパンナロットに頼んだら、リオもオレと同じ長寿になるんじゃないか――?」
「ニャニャニャッ!? (ハァ――――???)」
「パンナロットは、きっとリオを気に入る。そうすればオレの願いは快く受け入れてくれるだろ?」
ガウラッ、私に猫の姿で千年生きろってか! 悪けりゃ、羞恥プレイじゃないかっ。
腕の袖に噛んで、爪を立ててやった。
頭を撫でられ、やっと馬鹿な事を言わなくなったと体の力を抜いて油断してたら、ガウラの顔の位置の高さまで掲げられた。至近距離な上に、真剣な表情をするもんだから身構えてゴクリと唾を飲み込んだ。
彼の決意に満ちた琥珀色の瞳が、私の姿を捉えて離さない。
「オレの願いは、リオとずっと一緒に居る事だ。気にするな。他の誰がヨボヨボと罵っても、オレだけはリオの傍に居る!」
「フギャアアアアーーッ(誰がヨボヨボなのっ! ガウラのバカーーーッ!!!!)」
意気込んだKY(空気読めない)ガウラは、今度の祭りで白精霊とやらに訊いてみるそうだ。本当に言いそうだから、始末に負えない・・・一緒に居たい気持ちは分かるんだけどね。
デルモントでのホワイトクリスマス・・・来年(?)もガウラと過ごせますように・・・後は何が残ってるかな? と考えを張り巡らすと、良い子には必要なアレ! アレを置かねばっ。
「ニャアアアッッ(ガウラッ、塩王子にくつ下貰いに行こうよっ)」
「くつした??」
「ニャアア(きっと、サンタさんがプレゼントを入れてくれるハズッ。ねっ、行こう)」
毛むくじゃらの両手を合わせておねだりする。こうすれば、ガウラは私のお願いを聞いてくれるのだ。
自分の部屋で魔法書を読んでいた塩王子。何をするのかと訊かれれば、子供には必要な行事だと説明してやる。眉間にしわを寄せた塩王子に、やっとくつ下を貰った。準備は万端。さぁ、寝るぞ・・・
「ニャアアァァ(おとうさん・・・おかあさん・・・陽兄ぃ、太一兄ぃ・・・ガウラァ・・・)」
「・・・さっき言った言葉は、嘘じゃ無い。オレは、一生をリオと添い遂げてみせる」
****
次の日目を覚ました私達のベッドの上には、くつ下には入りきらない位の花やお菓子、色取り取りの鉱物が所狭しと置かれていた。昨日、塩王子から話を聞いた熊魔王さんが、私達にプレゼントを贈ってくれたらしい。感謝のお礼を述べて、ガウラと二人でプレゼントを開けてみた。
「こっ、これは・・・!」
「ニャ??(ん?)」
オモチャの猫じゃらしをガウラに与えて、よがり狂う私に、彼はとてもお気に召したらしい。猫じゃらしが壊れるまで、暫くはずっと遊んでいた私達だった――
<クリスマス番外編 (終)>
※後書き※
クリスマス番外編を思い付き、急いで書き上げました。
ラクガキから始まる小説も、ありですねっ。想像力が膨らみます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます