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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

007 二人の魔族

2010年02月28日 11時02分05秒 | 小説作業編集用カテゴリ


※※※警告:文章中に若干残虐な行為が含まれています。苦手な人は引き返して下さい※※※
















「ヒャッホー!!」 
「ゼルカナンダ、もう少し知的に振る舞えぬのですか?」
「無理だね。久しぶりの地表なんだ。体がウズウズして止められねぇ。ハーティスもそうじゃねぇの?」 
  
 黒い上等の衣服を身に纏った二人の魔族。
 耳は長く尖り背の低い紅い眼の持ち主、ゼルカナンダ・ボティアスは悪鬼の如く自らの手から迸る炎を街に振りかざす。首元までの黒い髪を風に靡かせて、もう一人の魔族と逃げ惑う人間を眺めて笑っていた。
 時折自分たちに向かってくる兵を灼熱の炎で焼き尽くす。五千度を超すので骨も残らない。

 阿鼻叫喚。
 百頭程のオーガや複数の骸骨兵士を引き連れて町の建物や外壁を壊して行く。
 上質とは言えないが少しの事では物ともしない、耐久性に富んだ木材は魔族によって燃やされ、石造りの簡素な建物は打ち崩される。露天商で売り出された食べ物や服なんかは呆気無く消し炭にされた。

 火に囲まれ逃げ遅れる者、建物から逃げ遅れた者など正に地獄絵図が描かれるかの如く人は泣き叫び、ディッセント国の町や広場が炎に包まれる。
 黒煙が町中を包み込み、熱風で更に炎を煽り拡大しつつある惨状。今まで培っていた物が突如壊され無くなるのだ。破壊の限りを尽くす暴挙に力無い人間や、獣人も巻き込まれ命を失くす者までいる。

「大体、今日は祭りなんだろ?“覇者の降臨”ってやつの。だったら、俺ら魔族も祝ったっていいじゃんじゃないか?」
 ただし、俺ら魔族流の祝い方でと愉快気に付け加え、近くに転がった樽を蹴り上げその上に腰掛ける。
 途中で見つけた赤い果物をポケットから取り出して、上機嫌に齧り付く。店の上部に掲げている白い蓮の花で表わされた国家の旗を見つけると、片手を数回捻り手の平から作り出した炎の矢を撃ち放った。

 パチパチパチッ

「オーー、よく燃えるな!やっぱ祭りはこうじゃなきゃ!!」
「そう言えば最近祭りとは無縁でしたね。私達の祭りの時は何で花を飾りましょうか」
「炎の滝はどうだ??ハーティスが城に耐久魔法掛けて、てっぺんから俺が溶岩さながら、炎の滝を演出してやるよ」 
「それより城の周りに頭骸骨を所狭しと敷き詰めた絨毯なんてどうです? 窪んだ目の所に妖光蝶を入れて紫に発光させるんです。囚われた魂の叫びと妖艶色は癖になるんですから」
 
 炎の滝は熱いでしょうが、闇の骸骨絨毯なんてジジくさいとああだこうだ言って、白熱する。
 後ろから忍び寄って来たチンピラ風の男に意識を向けると、「ソルトスに意見を聞くか」と呟きながらズボンの太腿部分の、ベルトで固定された数本のナイフの内の一本を、緩やかな動作で正面を向いたまま背後に投げ突ける。
 トスッと小気味いい音が聞こえると、男の額にヒットして大剣を手に持ち振りかざそうとした姿勢のまま見事崩れ落ちた。

「一丁上がり!!ってか??」
 ニヤリと口角を上げ冷たい視線を男に投げ付ける。罪悪感は微塵も持たない。

「我らはこの国の人間を滅するのでは無く、家や建物を壊せとしか命令されていない筈。仕方ないとはいえ、無闇に人間を殺せばソルトスに迷惑が掛かります。ゼル、その事は頭に入っていますか?」
「ウッッ、それはっ」
「骸骨兵士は勿論、知能の低いオーガ共でさえ、表立って人間を始末しない様に厳重に言い聞かせてあるのに。一つしか無い命令を受けれない? ゼルはアレ以下に成り下がっても良いと?」
 
 もう一人の魔族、ハーティス・レット・クロウは腰まである長い黒髪を靡かせ、紫の目でゼルカナンダを呆れながら睨みつける。
 貴族風の白いシャツに黒のロングコートは上品に仕上げられ、彼を気品良く表している。
 崩れ落ち瞳孔が開いた状態の男の傍まで来ると、額に深く突き刺さったナイフを勢い良く引き抜き男の服で血を拭いてから、ゼルカナンダ目掛けて大きく投げ返す。回転しながら返ってくるナイフを優れた動体視力で視界に留め難なくキャッチした後、不穏な空気を纏った友人を察知する。どうやらやり過ぎたと後悔したゼルカナンダが、顔を引き攣らせしどろもどろに訴えた。
 
「けど、俺らの仲間は人間に殺されたりしたんだ。俺の親父もだ。特別慕っちゃいなかったがやり方が残酷だと他の魔族に聞いたんだ」

 虚ろな目をしながら過去を思い出す。幼き日の忌まわしい出来事。
 あの事件の後だったと思う。自分の力が急激に伸びてきたのは――

「俺はハーティスとソルトスには本当に感謝してるんだ。だからお前らが困ると言うのなら自重する」
 
 髪を掻き分け爛れた額を触りながら、ポソッとゼルカナンダが答える。親しい二人の友、ハーティスと唯一の魔族の王の子息、ソルトス・アルガ・デルモントに励まされた。二人が居なかったら壊れたあの時のまま、今の自分は居ないだろう。

「報復はこの町を壊すという事で皆の意見が一致しました。ゼルもそれで良いですよね?」
 
 ゼルカナンダの昔を知る一人として、当時を思い出しながら複雑な気持ちで腕を組み問いただす。人間に報復したい気持ちは分かる。だがそれと今日の事はまた別なのだ。不満が募る気持ちを抑えて貰わなくては、これからの時代を生き抜くのは難しい。

「ああ、流石に王宮は壊せなかったが、これで魔族に逆らおうと考える輩も減るだろう。何せ街の半分、焼失させちゃったしな」
 
 アハハと頭に両手を当て、黒い翼を背に広げて空から見下ろす。鮮血に似た紅い瞳は瓦礫に崩れゆく炎に揺らめいて一層輝きを放つ。炎を自在に操るゼルカナンダは他の属性を纏う事が出来ない。その象徴として瞳が赤くなった。

 突出した力をコントロールして他の術を放出する等苦手としている。ハーティスやソルトスの様に多様に属性を操る事が出来ないのだ。  
 満足したと言う友の答えに、ハーティスは自らの魔力を放出して魔物の大軍を引かせる。圧倒的な魔力を持ち、闇を放つハーティスの底知れない力に下部に位置する魔物達は、振り回していた得物をピタリと振り回すのを止め、わらわらと一か所に集まって来た。
 
「デルモントに帰還する。クロウ家の名の許に門よ開け――ダークゲート――」

 ゴゴゴ……と黒い靄が現れ、魔物達を次々に飲み込んで行く。数が後半分に残された時、それは起こった。

 ゴウッッ

「!!」
「な、何だ!?コレッ」
「縛朱壁―アンチウォール―その陣から出る事は敵わない」
 
 四角い陣が床一面に現れ、朱い牢獄に阻まれる。一か所に集まった魔物達を封じ込んだ。
 自らの剣を横に向けた形でこちら側に向けていた。刀身はプラチナに輝き、柄の中央には朱玉が填められている。

「お前達がこの惨状を引き起こした首謀者か? 目的は何だ」
「そんな事お前に答える義務は無いね」
ハンッと冷たく口答えするその時、陣がグニャリと歪んだ。

「グウゥッ」
「ゼルッ!!」
 
 ゼルカナンダの体がギシギシと唸りを上げ、吐血した。

「(アバラが折れやがった!?)」
 
 周りを見ると、魔術の耐性の無いオーガやその他の魔物はその圧力に耐え切れず事切れている。自分たちは上級魔族なので強い魔法の耐性を少しばかり持っていた。ハーティスも締め上げられる感覚に体が悲鳴を上げるが守護魔法を自動で付与していた為、大事には至らない。

「時間の無駄だな。魔力を強化した牢にぶち込むか。それと陛下に処罰を伺う」
「ってめぇ!!」
 
 喋るのが億劫とばかりに左手を横に振り払う。その仕草にゼルカナンダはより一層頭に血が昇った。すました横面を殴り飛ばそうと近くへ跳ぶが朱い色の壁に阻まれて触れる事すら敵わない。陣からの脱出は無駄な行動と解らせた所で、エヴァディスの口が開く。

「縮小せよ――」
 
 スウッと自らの剣に意識を集中させると朱玉が光り、二人を閉じ込めた陣はみるみる小さくなる。

 ブンッッ

「魔族捕縛完了」
 
 二人の魔族の気配が完全に消えるのを確認すると、剣を自らの腰に差し、パチンと鞘に戻した。
 周りの建物で炎がパチパチと燃える音が響く


 ザッザッザ!!

「エヴァディス宰相!!御無事ですか!!?」
「ああ、特に問題無い」
 
 静かになった頃を見計らって騎士団員達がやって来た。辺りに捕縛陣を張っていたので遠くに下がらせていたのだ。騎士団とはいえ、魔族との戦闘は熾烈を極める。しかも上級魔族二人だと今の騎士団員ではまず勝ち目が無い。

 魔族の捕縛に成功したのはデルモントに帰還するスキを付いたからだ。真っ向から挑めばまず命は無かっただろう。卑怯と罵られてもいい。
 上級魔族二人に、半分にも満たないが魔物を滅する事に成功したのだ。王からの勅命にも応え、まずまずの出来に体の緊張を解しながら、追々騎士団員にも対魔族を想定した訓練をさせねばならないと頭の中でシュミレートする。

「人命を優先的に、且つ建物の消火活動を急いで遂行せよ」
「はっ、ところで先程の魔族は・・・?」
「捕縛してアンチウォールで閉じ込めてある。私はもう一段落したら王宮に帰還するつもりだ。・・・これでは病院も一杯だろう、臨時の救助チームを作って休める場所と治療・飲料用の水の確保に人員を手配してくれ」
 
 ここでの指揮はお前に任せると、騎士団の隊長であるケネルに託す。

「分かりました。では1班は中央広場と南側に臨時救護テントを設置と、清涼水の確保。2班東の者達は消火した後の始末を。3・4班はエヴァディス宰相と共に西、中央、南側の人命救助と消火活動を開始!」 
 
 指示を出して各々が各方面に移動する。幸いこのディッセント国は海に近い為魔術で水を汲み上げ空間から空間へ移動させる事が容易い。扱う事が出来るのは高位の魔術師だけだが。
 魔術師達が魔術で鎮火するので騎士団員と共にそれぞれ赴く。移動する途中に避難していない人達が悲しみに暮れていた。
 
「ううっ、痛い。体が焼ける。水、水をくれ……」
「おかあさーーん、ドコーー?」
「うあああっっ、もう、もうお終いだぁ!!俺の建てた店が、家がぁぁっ!!!」
「オギャァァッッ!!」
「ウルセェゾ!そのガキ黙らせろ!!」
「すっ、スミマセン!! ほら、イイコだから泣きやんで?」

 訴え、嘆き、怯え、怒声が飛ぶ――海から近いせいか比較的他の国と比べてディッセント国では豊かな方なので、魔族に怯え荒んだ惨状の国民を見るのは久方ぶりだった。
 前に見たのは30年前以降、覇者が居なくなった後か。他国との戦争と魔族の襲来に当時の民衆は地獄を見たとか。
 ハシュバット王が騎士団に上がる前だとしたらまだ年若い少年だった様に思う。お互い手も足も出せず歯噛みしてた頃だった。またいつか戦が繰り返されるかもしれない。国民も不安と極度の緊張で、心が押しつぶされるだろうその時迄に――

「(陛下、国民の心はなかなか癒されません。早く覇者殿を……)」

 我らの心の拠り所を捜して下さい。

 

 

紅い瞳の魔族 ゼルカナンダ・ボティアス
紫色の瞳の魔族 ハーティス・レット・クロウ

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