じぶんが生きていることのありがたさ、かけがえのなさに気づくことができたとき、
ともに生きるすべての人々、生きもの、自然に対しても、ありがたさと愛しさが
あふれてきます。それは人だからこそ味わえる、人として生きることの大いなる
恵みです。
晩年にノーベル平和賞を受賞したアルベルト・シュヴァイツァー医師(1875~
1965)は20代であったある朝、鳥たちのさえずりを聞きながら、ふとこの
幸福感を独り占めしている自分を自覚して、申し訳ないという思いにかられ
ました。すでに神学校教授の職につき、パイプオルガンの名演奏者でも
あった彼はこうして転向を思い立ち、30歳でドイツのストラスブルク大学の
医学部に入学します。38歳で卒業した翌年、赤道直下の、フランスの殖民
地ランバレネに渡り、密林の医師としてその後の生涯を捧げました。
シュバァイツァーは自らの使命を、朝の幸福感への感謝をきっかけにして
見定めた人でした。
生まれてきたことによってかかわりをもったこの世で、私という存在にどんな
意味を与えるか、どんな使命を課すか、という問いを発見できたとき、人生は
本当の奥深さを見せ始めるのだと思います。
はじまりは、命への感謝から、生きていることに感謝できるやわらかな心を
もち続けたいと思います。
─『続生き方上手』日野原重明著 ユーリーグ株式会社刊より
(レイナ・エル・カンタルーネ──シュヴァイツァー)