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人に尽くす人生の布石──ルノワール

2016-08-01 16:59:53 | 知恵の情報
 

モーパッサンの小説の中に「二人の友」という好短編がある。普仏戦争でパリへ
進撃して来たプロシア軍にフランス国防軍が対峙しているとき、こんな戦争を
嫌悪する善良な市民の時計屋をモリソンと小間物屋のソーバージュはセーヌ川
のほとりへ釣りにいった。二人は夢中でハゼを釣ったが、プロシア陣地から
二人は発見され、つかまってスパイとされて銃殺となった。という筋であるが、
印象派の巨匠ルノワールがこれと同じ運命になりかけたことがある。同じ普仏
戦争のパリで、しかもセーヌのほとりで。

ルノワールは釣りではなくて画架を立てて制作に熱中していた。彼には、戦争
も兵士も眼中になかった。ところが彼のカンバスの色彩は兵隊の注目をひいた。
その中の一人が敵を引き入れるセーヌ川の絵図面だと判断したから大変なことに
なった。ルノワールはこのそそっかしいフランス国防軍の戦術家のためにスパイ
にされ、即刻銃殺にうつされるべく、広場へ連れてゆかれた。黒山のような
野次馬があとにつづいた。その群衆を分けるようにして、腰に三色の帯を巻いた
高級将校が部下を従えて通った。と、そのとき、ルノアールはこの将校に見おぼえ
があり、ついにその注目をひくことに成功した。とたんに形勢は逆転して、将校は
ルノワールを愛国者として全群衆に紹介した。この将校は、ラウル・リゴーといい
共和党員で新聞記者であったが、先年帝政派の官憲に追われてあぶないところ
をルノアールに救われてイギリスへ亡命していたのである。第二帝政の没落
と共に帰国したのであった。

どんな人とでも知り合い、できる範囲でその人の力になっておく、むろんお返し
などあてにしない。こういう布石をたくさんしておくことほど、豊かな人生がきず
かれる。

─『一日一言 人生日記』古谷綱武編 光文書院より

ルノワールは、女性の表情が優しくて彼の女性に対する気持ちが伝わって
くる。ルネサンスのラファエロの聖母などに影響されたそうだが、確かに
ラファエロの表情のやさしさが感じられる。私の経験の中では、上野の
国立西洋美術館にある編み物をする女だったか、そのブルーの鮮やかさが
ずっとあたまに残っている。ときどきあの絵の色に会いにいきたくなる。
それから、印象派の影響を受ける前のような気がするが、花瓶に生けた
花の絵が印象派のぼやけた表現でなく、くっきりと写実している絵が
頭に残っている。ルノワールというとぼかした柔らかさだが、この絵は
彼の技術の確かさを感じさせている。印象派の表現は意図的に表現
しているということがわかる絵だ。

 




(エル・ラファルライエル─ルーベンス─ドラクロア/ルノワール)

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