タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

変な食育続編・宮本常一先生の本に学ぶ。

2015年11月14日 | Weblog
前回書いた通り、日本各地には麦食や雑穀食を伝統食としていた地域が多いのです。にもかかわらず、現在では大勢の人達が「日本人の主食はお米ばっかりだった」と信じているのはなぜでしょうか。

このような誤解は、実は古くからのものだったようです。民俗学の第一人者、故宮本常一先生は、潮田鉄雄先生との共著「食生活の構造」(柴田書店)の中でこう指摘しています。城下町や商人町や宿場町などに住む人々は、日本中の者が米食をしてきたように考えていた、と。農村で生産された米は年貢米や商米(年貢を取られた後に残ったお米の一部を、農民が現金にするために商人に売ったもの。)として農家の手を離れたため、手元に残ったお米は少量だった。しかしそのことは、都会の人々には理解できなかったのです。そもそも米を生産できない土地の農民は、買いでもしない限りお米を口にすることが出来なかったことなども、都会の人々には全く想像できなかったでしょう。

では、お米が多くの人々に行き渡るようになったのはいつか。同著によると、太平洋戦争中に食糧統制(食糧管理法・略して食管法と呼ばれます。)が行われ、配給米制度が誕生したことが原因だとされています。この法律が成立したのは1942年(昭和17年)ですから、日本人が皆、お米を口にすることができるようになってから70数年しかたってないのですね。

同著によると、宮本先生は日本各地を調査して回って話を伺った時、ほうぼうの山間の村々で、「戦争のおかげで米が食べられるようになった」という声を聞いたそうです。戦争が皮肉にも山村にお米をもたらしたのです。

また、大正7年の「米騒動」(お米の価格が暴騰し、怒った国民が各地で暴動を起こした事件。)によって山間地でお米が食べられた、という、一見すると不可解な記録があります。しかしその理由を知ると「なるほど」です。米騒動で各地で焼き打ち事件が発生したので、政府は社会の安定のために南京米(唐米ともいい、外国産のお米のことです。)を輸入しました。この米は日本人の味覚にはあまり合ってなかったのですが、色が白かったため、白いお米にあこがれていた貧困層が購入したのです。その行動が山村にも広まり、この時初めてお米の味を知り、お米を買って食べるようになった村が少なくなかったと、宮本先生は記しています。

もちろん宮本先生は、米騒動以降も長い間は、お米は広く各地に行き渡ってなかったので、昭和17年にようやく行き渡るようになったのだ、と付け加えています。

また、食管法に基づき配給されるお米の量は少なかったので、お米が貴重だった地域では結局、お米に麦や大根などを混ぜて食べるケースが多く、したがって、銀シャリ(混ぜ物のない白いごはん)を国民が誰でも食べられるようになったのは、お米の国内自給が達成された昭和30年代以降でした。このことはいろいろな研究書で指摘されています。タミアが山間地出身のご年配の方から伺った話でも「昭和30年代まで麦飯だった、そのころ都会に出て初めて白いごはんを食べて驚いた。」と懐かしそうにお話されてました。

・・・・というわけで、ここで前回のブログを振り返ります。石塚左玄氏の唱えた身土不二説は、元々は「風土異則民俗不同」と言って、「人間はその土地その土地に合った作物に順応して暮らしてきたので、先祖代々食べていた伝統食を食べ続けなさい。さもないと病気になるぞ~」という説でした。ちなみにこの説を身土不二(ふじ)説と命名したのは石塚氏の死後に食養会をとりまとめた西端学氏です。京都の光田さんという僧侶から、仏教用語に身土不二(ふに)との用語があり「天上天下唯我独尊」などの意味です、と教えてもらい、意味が違うことは知りつつ石塚氏の説をわかりやすく伝えるためにこの言葉を使用したそうです(出典「有機農業の事典」三省堂)。

 というわけで、身土不二を唱える人々に御願いです。あなたのご先祖様は何を食べていたか、よく調べてから唱えて欲しいのです。お米を収穫出来なかった地域の方が一人でもご先祖に含まれているなら、あなたがお米を食べるのは身土不二に違反しています。ちなみに、タミアは身土不二を全然信じてないので、毎日安心してお米を沢山食べています。身土不二説を唱えながらお米を食べることは、結局、先祖全員が都市出身という、ごく一部の層だけに通じるおとぎ話なのです。

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