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亀井静香さんが語るゲバラ その信念、あっぱれ

2009年02月23日 | スクラップ



 キューバ革命からちょうど半世紀。チェ・ゲバラの生涯を描いた映画が「革命」とはほど遠い若者から、当時に郷愁を覚える団塊の世代まで広く人気を集めている。そんなブームのずっと前から、「おれにとって理想の人物」という、永田町のゲバラが熱い思いを語った。【坂巻士朗】



 ◇責任取るやついない、今--ぶれない生き方魅力
 ◇苦しむ人助けたい、未来変えられる
 ◇キューバでは現在も英雄。田舎では老人や子供が圧倒的に支持している
  --作家・戸井十月さん


 事務所の壁に、敬愛の「証拠」があった。ゲバラの写真をもとにしたリトグラフが、額に入れて飾られている。「政治家になってすぐくらいかな。置き始めたのは」と話すのは、衆院議員歴30年にならんとする亀井静香さん(72)。帽子をかぶりひげをたくわえた野性的なゲバラが、ちょっと高い場所から見守っている。

 「事務所に来た、アメリカのべーカー大使がね、この絵を見て、ぎょっとしてた」と打ち明け、「ヘヘヘ」と笑った。2001~05年に在任した大物駐日大使が驚いたのも無理はない。1959年の革命政権誕生後、米国はキューバとの外交関係を絶ち、経済封鎖を続けている。フィデル・カストロ前国家評議会議長とともにキューバ革命の英雄であるゲバラはまさに敵将。その肖像を、同盟国の有力政治家が掲げていたのだから。

     ■

 亀井さんにとって、ゲバラはどんな存在なのか。「あこがれというだけじゃなくて、目標でもある。自分なりに、ゲバラのような気持ちで生きていきたいと思っている」。50年前の革命の記憶は報道などでぼんやりとあるだけだが、その後、ゲバラの伝記などを読むうちに尊敬するようになったという。

 「彼は裕福な家庭に生まれて、本来ならば安穏な生活を送れたわけだけど、抑圧と貧困に苦しむ人を見るうちに、そういう人のために活動を始めた。キューバ革命が成功した後で、日本でいう日銀総裁や通産相をやったり、外交舞台でも華々しく活躍した。それなのに、権力にはとどまらないで、『この世界にはまだ不幸な人がいる』『その人たちを解放する』と、国を飛び出して、最後はボリビアで殺されちゃった。自分の意思をここまで貫くなんて、なかなかできないよ」

 すっかりゲバラにほれている。とはいえ、永田町の住人になる前には、霞が関の警察官僚だった亀井さん。70年代の連合赤軍事件など、暴力的な左翼運動を取り締まった経験は、革命家で共産主義者だったゲバラへの思いと折り合いが難しいのでは……といらぬ心配もわく。すると、厳しい顔を見せた。

 「私はね、浅間山荘事件のとき、目の前で(機動隊の)隊長が撃ち殺されました。極左の連中は、残虐非道なことをやった。ただ、事件のことをほとんど知らない人が『けしからん』と、酒場のネタにしている時に言ってやったことがある。『彼らなりに、社会の仕組みが間違っていると考えていた』って。極左を擁護するわけじゃないけど、金もうけや出世のためではなく、世の中のためという心情があったことには敬意を払っていた」

 取り調べなどを通して、連合赤軍幹部の胸の内までのぞいた亀井さんにとって、事件は思想の方向性や違法性だけで片づけられるものではなかったということだ。キューバを共産主義に導いたゲバラに対しても、思想や手段よりも、「苦しむ人を助けたい」との信念に感じ入っているようだ。

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 さて、現在のゲバラ人気を探るべく、映画館へ。

 上映中の作品は2部作で、前編にあたる「チェ 28歳の革命」は、キューバ革命を遂げるまでを描く。鑑賞した女子大学生(19)は「高校のときに歴史の授業で習っただけだったゲバラが、どのような人なのか関心があった。ただ、平和を求めながら犠牲者を出すことに疑問を感じた」と話した。確かに映画は、搾取からの脱却や平等主義を描きながら、理想のためには暴力を辞さないゲリラとしての生き様をも映している。

 また、革命後に新天地に渡るが孤立してついには死を迎える「チェ 39歳別れの手紙」は、後編だ。会社役員の男性(64)は「妻や息子に勧められて見に来た。新たな理想を掲げながら失敗して終わるが、最後まで革命を求めた彼の気持ちが伝わってきて非常に良かった」と、興奮した様子だった。映画の興行会社は、合わせて20億円の売り上げを見込む。邦画に押されがちな洋画としては久々のヒットだ。

 「ゲバラ最期の時」(集英社)などの著書のある作家、戸井十月(じゅうがつ)さん(60)によると、ゲバラは現在でもキューバの英雄だという。「田舎に行くと、老人や子どもが、圧倒的にカストロやゲバラを支持している。国家が最低限、弱者の面倒を見続けているからです。権力者は普通、その座にあぐらをかいて懐に金を入れて腐っていくが、彼らはそうじゃなかった」と話す。

 日本でのゲバラ人気については、「Tシャツのデザインに使われたように、ルックスがいいというのは、大きな理由だと思う」と指摘。そのうえで「今は、政界でも経済界でもあっち向いたり、こっち向いたり、責任をとるやつがいない。みんなうんざりしている。だから、ぶれない生き方をしたゲバラに魅力を感じているのではないか」

 昨年来、拡大する格差社会で注目されたのは昭和初期に書かれた「蟹工船」だった。そして、米国の経済破綻(はたん)をきっかけに行き過ぎた資本主義の是正が叫ばれる今、「ゲバラ」に関心が向くのは必然なのかもしれない。

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 再び、亀井節。江戸時代の偉人の名も挙がった。

 「大塩平八郎も尊敬している。大阪で奉行所の与力をしていながら、やはり、民が苦しんでいるのを見て蜂起した。幕府を倒せるとは思っていなかったし、自分が命を落とすのも分かっていたでしょう。だけど、圧政を是認しないで行動した。ゲバラとも共通しているのは、未来は変えられるという信念だよ」

 現在の日米の政治へ。

 「アメリカで黒人大統領が生まれたのも、ゲバラ的な精神が形を変えたんだ。そういう意味では、ゲバラは生きているんだ。そう思わないか。日本ではおれが抵抗勢力として頑張っている。地方切り捨ての小泉政治に反対して信念を貫いて。刺客なんかに殺されてたまるか」


 

 ■人物略歴
◇チェ・ゲバラ(Che Guevara)

 1928年、アルゼンチンの中流家庭で生まれる。本名はエルネスト・ゲバラだが「あのね」と呼びかける「チェー」から、チェ・ゲバラとあだ名がついた。メキシコでカストロ氏と出会い、キューバ独裁政権を倒すゲリラ戦に28歳で参加。革命後は国立銀行総裁や工業相を務めた。59年に広島も訪問。革命を世界に広げようとアフリカや南米ボリビアでゲリラ戦を続けるが、ボリビア政府軍に捕まり、39歳で処刑された。

 

 

毎日新聞 2009年2月16日 東京夕刊


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