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記者の目:光市の母子殺人・私が裁判員なら=大沢瑞季(広島支局)

2008年05月02日 | スクラップ
◇大沢瑞季(みずき)
 

◇心読めず「明快論理」出せず--死刑判決後、続く自問


 99年に山口県光市であった母子殺人事件で、広島高裁が22日、被告の元少年(27)に死刑判決を言い渡した。差し戻し控訴審を07年5月の初公判から12回すべて傍聴し、広島拘置所で元少年に面会もした。この間、「自分が裁判員だったらどんな判決を出すだろう」という思いが頭を離れなかった。判決を聞いた後も、自問は続いている。

 元少年に会ったのは今年4月上旬、広島拘置所の接見室だった。彼は透明なプラスチックの板越しに愛想のいい笑顔を見せた。

 「被告人会見はできないので、自分を伝えるためにできるだけマスコミの方と会う」と言い、「何の恨みもない人を殺してしまったわけで、自己嫌悪というか自分を許せない気持ちがずっとあった。だから、自分が嫌で死にたいと思ったことはあったが、今は違います」と話した。椅子に真っすぐに座り、視線をそらさず、慎重に言葉を選んで語った。

 その言葉は生きて罪を償う、という意味で、事件と向き合い始めていると感じたが、一方で、元少年は弁護団が依頼した精神鑑定人に、死刑になった時は「(死後の世界で)先に(被害者の)弥生さんに会えば夫になる可能性がある」と言っている。事件の重大性を感じているのか、理解しきれない面も多かった。

 家裁の記録には、元少年は父親の体罰や、中学1年で実母が自殺して孤独感を深めたとある。18歳と30日で本村弥生さん(当時23歳)と長女夕夏(ゆうか)ちゃん(同11カ月)を殺害し、4日後に逮捕され、2審以降、家族も面会に来なくなった。このころから精神薬を投与され、接見では舌が回らないこともあり、法廷でも被告人質問にたどたどしい口調で答えていたという。

 しかし、差し戻し審では冗舌ともいえる語り口だった。「最高裁の判決以降、支援者の人が面会に来てくれるようになり、人に対する思いやりを持てるようになった」と変化の理由を法廷で説明した。遺族への謝罪の言葉も述べた。だが、弁護団は「復活の儀式」など理解しにくい主張を続けた。「なぜ突然、供述を変えたのか」。それも知りたかった。

 判決は「親代わりとまで述べた2審の弁護人とは、計296回も面会しているのに、新供述で述べるような話をしてないのは不自然」と主張をすべて退け、「死刑を免れようと虚偽の弁解を弄(ろう)した」ために「改善更生の可能性を大きく減殺した」と断じた。

 元少年は法廷で椅子から立ち上がり、ひざまずき、身ぶり手ぶりを交えて事件当時の様子を説明したが、弥生さんの首を絞めた手について「感触も覚えていない」と話した。判決は、こうした点も「不自然」と判断した。

 確かに、新供述は合理的でない部分が多かったように思う。だが、私は判決のようにすべてを「虚偽の弁解」と言い切る自信はない。元少年の本当の姿が見えないため、その言葉にもいくらかの真実があるように思えてしかたないからだ。

 これまでの死刑判決は、83年に最高裁が示した「永山基準」が基になった。動機や社会への影響などの9項目を検討するものだが、その中でも殺害した人数(結果の重大性)が重視されてきた。来年5月から裁判員制度が導入されるため、当時18歳の元少年に死刑が求刑された今回の事件は、死刑の適用基準という点からも判決が注目された。

 国学院大の沢登(さわのぼり)俊雄名誉教授(刑事法)は判決について「被害者数ではなく、残虐性や社会影響を重くみた。一方、これまで重視してきた更生可能性を低くみたもので、厳罰化への流れは感じる」と話している。

 取材を通じ、私は元少年の本当の思いがどこにあるのか、とらえることができなかった。「被告人を死刑に処する」。裁判長の声が響く法廷で、元少年は最後に天井を見上げた。私は傍聴席で「(元少年は)今、何を考えているのだろう」と思いながら、判決文の朗読を聞いた。

 仮に今回の事件が裁判員制度で裁かれたとしたら、どうだっただろうか。結果の重大性を重視する人もいれば、当時の被告の年齢を重くみる人もいたかもしれない。

 判決後の会見で、遺族の本村洋さん(32)は「判例にとらわれず、個別の事案を審査し、世情に合った判決を出す風土が日本の司法に生まれてほしい」と話した。裁判員制度が始まれば、私たちも人を裁く重責を担うことになる。量刑基準などについて、幅広い議論が求められている。




毎日新聞 2008年4月29日 東京朝刊

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