詩の自画像

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

140文字の世界:震災の道に咲く自然

2017-11-07 12:44:39 | 

 

震災の道に咲く自然

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

51

 

雨が秋の影を流していく

一つだった秋の影が流されながら

幾つにも細断されていく

 

烏が飛んできて

嘴一つの大きさになったものから

影を喰いちぎっていく

 

悲鳴をあげている影の声は

もう視線に届かない

 

最後の一つになるのは何時なのか

誰にも分からない

雨の狭間に陽が昇っても

 

 

 

52

 

冬の夕暮に、秋の夕暮れが

山に沈むときに変わった

 

夜の時間がまた長くなった

眠れない時間が多くなる

 

心身内科のドクターは

この時期は一番心が安定する

と 言っていたそうだ

 

そうなのだろうか

と 自分に重ね合わせながら

その言葉に背を向けている

 

 

 

53

 

今朝も小雨が

洗面台から両の手を伝わって

顔へと、冷たい感触を運んでくる

 

顔の真ん中は冬に入ったようだ

 

顔拭きタオルを厚手のものに替えた

鏡を拭きながらその裏を見ると

秋が小さくなっている

 

衣替えはほぼ終わった

大きなクシャミ一つすれば

周りは冬へと押しだされるだろう

 

 

 

54

 

傘を頭深く被ると視野が隠れる

 

秋雨の先が遠くまで見えないのは

小さな理由が一つや二つある

これもその一つ

 

木の葉を敷いた歩道は

すべり易く全神経を靴底に置く

 

歩道の上り下がりが歩幅を半分に削るから

歩みはときどき亀になる

 

だから秋の終わり道は口笛を吹いて歩けない

 

 

 

55

 

物干し竿の上に

干し物がいっぱい並んでいる

久しぶりに丸まった陽が

その上で体を横たえている

 

陽を追う水亀の首のように

洗濯物の自我が長く伸びている

 

秋の船首が凍えた時間のようになっていたが

丸まった陽に饒舌になった

 

雨の日が続いたから

今日一日のこのご褒美は嬉しい

 

 

 

56

 

詩人の冬さんは詩が書けないでいる

冬になると心の中にしもやけができるという

 

冬さんの書斎には

春から秋までの詩集は揃えているが

冬の詩集は本棚の後ろに隠したままだ

 

書けない理由は

ここにあるのだが気が付かない

 

しかし冬はやってくる

 

いつの間にか本棚の本が入れ替わり

詩が生まれてくる

 

 

57

 

落ち葉の音を踏むとかすれた声がする

耳が四方に広がっていく

街中の散歩道の秋の終わりを歩いている

 

歩きながら問答し

考える事が沢山あった夜を少しずつ解放する

 

数百メートルの距離の中だが

この時期の秋の声は風邪を拾った声だ

それでも出口に明るい朝が待っている

 

一日の始まりである

 

 

 

58

 

春のベンチが夏のベンチに変わった

夏のベンチが秋のベンチに変わった

秋のベンチが冬のベンチに変わろうとしている

 

季節が変わっても座るベンチはいつも同じだ

 

そこで春が生まれ、夏が生まれ、秋が生まれ

冬が生まれようとしている

季節の時を刻む目に見えない時計があるのだ

 

 

 

59

 

朝の挨拶をしながら通り過ぎていく人がいる

歩く速さが少しずつ速くなってきているから

冬の人なのかも知れない

 

その人が通り過ぎた後には秋の葉が落ちている

 

忙しさを理由にしても季節は待ってくれない

今年は庭の柿の実は一つだけ収穫できた

 

 

 

60

 

猫二匹が、何か話している

 

「食べ物が贅沢だと言っているよ

昔は、ご飯に味噌汁をぶっかけた

ぶっかけご飯だったんだって」

 

「贅沢なのかな? いや今は、時代が違うからね」

 

「俺たち稼ぎはないけれど 癒し系だから

十分採算はとれていると思うよ」

 

こんな愛嬌のある話をしているのかも

 

 

 

61

 

てっぺんに立つ人がいる

底辺があるからてっぺんがあるのだろう

 

そのてっぺんに立つと

謙虚な考えが剥がれ落ちていく人がいる

 

小さな組織でも

てっぺんに立つ人がいる

 

目配りや気配りや裏方の仕事に汗を流す人

このような人を

本当のてっぺんに立つ人だと思いたい

 

 

 

62

 

秋を蹴ったのは誰だ!

 

ベッドの上で

寝起きの猫がくしゃみをしている

丸まった背中に

丸まった厚手を一枚重ね着した

 

秋を蹴ったのは誰だ!

 

ベッドの上の猫のくしゃみは

まだ止まらない

呼応するように

私もくしゃみをしながら

今日の立ち位置を確かめている

 

 

 

63

 

烏が鳴いている

集団で鳴いている

 

死の臭いが風に乗ろうとしている

 

そこには近づけない

嘴の槍が遮っている

秋の花一つ供えることもできない

 

食いちぎる音までも風に乗ろうとしている

 

間違いなく死が

そこには横わたっている

 

少し離れていても

魂が浮遊するまで

そっとしておくべきなのだろう

 

 

 

64

 

祖父から小遣いをもらって水飴を買った

一本の割りばしに水飴が膨らんでいる

隣の友達の方が少し大きいと口げんかになったときもある

 

割りばし一本に水飴の塊が一つ

 

そこに青と赤の模様が滴のように垂らされている

割りばしを折って二本で水飴と混ぜ合わせていくのだ

混ぜるほど綺麗な色になった

 

 

 

65

 

そこに一滴の滴があれば

大河になれる

だから降り続く雨は

いつでも大河になれるのだが

まだ震える手がある

 

秋を見送る為の手だ

 

それが小さな手であっても

水の流れの邪魔になる

震える手が去れば

一滴の滴は

心底で大河になれる

 

五感が聞き耳を立てている

 

 

 

66

 

するりと足下が滑り足音が転ぶ

 

この道は綺麗な色が沢山落ちて賑やかだが

その色や声で両の耳が塞がると

転んで怪我をする人が多くなる

 

転んだ音を治すのは大変な事だ

包帯を巻いても冬色に染まってしまう

しかし秋に戻して治療することはもうできない

 

だから一歩の踏みだしには慎重さが必要だ

 

 

 

67

 

六人に一人の子どもの貧困

差し伸べる手は沢山あるのに

どこで躊躇しているのだろうか

 

良心に従って差し伸べる手は

子どもたちにとって魔法の手となる

私の手もそうであって欲しい

 

 

 

68

 

旅人はここに留まって冬を制作している

短い時間なのだが集中力がすごい

 

雨が降り続いたので少し遅れ気味だが

十月の月カレンダーを捲れば

冬が目の前にある筈だ

 

寡黙な人だ

黙々と荒れた手で秋の蔦から冬を制作していく

小さな悩みは網目の中に隠していく

 

器用な手つきだ

 

 

 

69

 

私は店頭に並べられた一匹の魚

お客様は魚の鮮度を見て買う

 

私の鮮度は他の魚より劣っているから

買うお客様はいない

 

魚にも魚の年齢がある

魚は年齢が増すごとに旨みも増す

ほれぼれする全身の光沢

 

私にも年齢はあるが

年齢が増すごとに愚痴っぽくなり鮮度が落ちる

 

いつも売れ残る私の鮮度

 

 

 

70

 

台風が去った夜に冬が来た

風に乗って来たのだろう

 

一晩眠るごとに大きくなっていく

 

月は弓の形をして

何かを射ようとしているが

花鳥風月という

人が愛してきたものではない筈だ

 

真下に向かって矢が放たれれば

冬の背中に突き刺さる

 

そんな冒険を月がする筈はない

もう冬の中にいるのだから

 

 

 

71

 

この手は神秘な時間の中で

神様が造ってくれたもの

銃を持つ為に造られたのではない

人を殺傷する為に造られたのではない

 

悩んでいる人がいれば手で抱きしめる

痛みがあればその場所に手を添える

手と手を通して相手と会話もできる

 

手と心は一対であって

平和の役割を沢山持っている

 

 

 

72

 

背中が寒い

 

寒い寒いの 飛んでいけ!

背中が叫んでいる

 

私の背中には

老いた丸みがあるから

寒さもすべり落ちていく筈なのだが

 

冬の入り口の寒さは

すべり落ちる事を知らない

 

背中が寒い

と また背中が叫んでいる

 

寒い寒いの 飛んでいけ!

この魔法は

幼子にしか効かない

 

 

 

73

 

昨日は一日中雨に滑った

会話が横切ろうとする風に流された

 

濡れるからと傘を探したら

目の前に傘が一本あった

隣でお年寄りが、雨が止むのを待っていた

傘がないようだ

心が葛藤して雨にまた滑った

 

手にした一本の傘を

そのお年寄りの方に差し上げた

 

お返しの必要がありませんと

一声添えて

 

 

 

74

 

柿の実に

夕陽が沈む

その重さで柿の木が揺れる

そこに風が吹くと

柿の実は

大地へと帰って行く

 

秋虫は鳴き終わった

寂しい夕べだ

 

柿の実が

落ちる瞬間に

夕陽は

柿の実から離れて

何処に行くのか

 

夕陽が沈む場所は

大地にはない

 

誰にも分からない

プロセスが一つ

ここにある

 

 

 

 

 

75

 

冬日の中に篭り琵琶の音を聴いている

うとうとと古まで五感が流れるように落ちていく

いつまでもその時間を独り占めしたいと思う

そうすれば貴女は私の恋する時間になれる筈だ

冬日が貴女の髪の上では傘のように従順だから

琵琶の音は私の中で透明になれるのだ

 

 

 

76

 

私は私である事を知らない

あなたはあなたである事を知らない

 

知らない者同士だから小さく頭を下げるだけ

 

沢山の年齢が積み重なると

健康だった思考が折れ始めてくる

 

あなたはあなたである事を知らない

私は私である事を知らない

 

 

 

77

 

悲しさを心に持つ人が

プラットホームに落としたものは

掃除をしてもしばらくは残る

 

プラットホームがその悲しさに

恭順するからなのだろう

 

駅員さんはプラットホームでは

乗り降りする人が持っている

人生の縮図の一番前にいたりする

 

だから ときどき

プラットホームから落ちそうになる

 

 

78

 

病院の待合室で

時計の秒針の音を聴いている

その音と

心臓の音を重ね合わせてみたりする

 

時計の秒針も命の音なのだ

ときどき一緒に数えたりする

 

それから名前を呼ばれるまでじっと待つ、受け身の姿勢で

病院の待合室とはそういう場所なのだ

大きな声で笑ったりはしない

 

 

 

79

 

縁側で冬日を編んでいる

まだ少し網目が粗いが

冬の先が遠くまで見える

 

琵琶の撥で古を引き語る雪の女(ひと)が

網目の先から

こちらを覗いている

 

まだその女はこちら側の人にはなれない

 

雪が深くなれば

冬日の網目が細かくなるから

その線引きは無くなる

 

冬日の簪は黒髪に似合う

 

 

 

80

 

万年筆のインクは詩の言葉だ

インクを何度入れ替えても

白い紙の上では言葉にならないときがある

 

ブルーブラックインクの中で

醸成される詩の言葉があるから万年筆になれる

 

一滴のインクが白い紙の上に広がり

溢れるように詩の言葉が生みだされていく

 

そんな時を 今待っている

 

 

81

 

この手は神秘な時間の中で

神様が造ってくれたもの

 

銃を持つ為に造られたのではない

人を殺傷する為に造られたのではない

悩んでいる人がいれば手で抱きしめる

痛みがあればその場所に手を添える

手と手を通して相手と会話もできる

 

手と心は一対であって

平和の役割を沢山持っている

 

 

 

82

 

秋の終わりに木の実などを拾ってポケットに入れて歩く

ポケットは歩く度に揺れるから秋を意識したりしている

 

ときどき昨日の夕陽の欠片が落ちていたりする

ポケットは限りなく膨らむ

 

しばらく歩くといろいろな物が混じりあって挨拶している

一つずつ拾った物がポケットから消えていく

 

 

 

83

 

旅人はここに留まって

冬を制作している

短い時間なのだが集中力がすごい

 

雨が降り続いたので

少し遅れ気味だが

十月の月カレンダーを捲れば

冬が目の前にある筈だ

 

寡黙な人だ

黙々と荒れた手で

秋の蔦で冬を制作していく

小さな悩みは

網目の中に隠していく

 

器用な手つきで

 

 

 

84

 

雨が秋の影を流していく

一つだった秋の影が流されながら

幾つにも細断されていく

 

烏が飛んできて

嘴一つの大きさになったものから

影を喰いちぎっていく

 

悲鳴をあげている影の声は

もう視線に届かない

 

最後の一つになるのは何時なのか

誰にも分からない

雨の狭間に陽が昇っても

 

 

85

 

傘を頭深く被ると

視野が隠れる

 

秋雨の先が遠くまで見えないのは

小さな理由が一つや二つはある

これもその一つ

 

木の葉を敷いた歩道は

すべり易く全神経を靴底に置く

 

歩道の上り下がりが

歩幅を半分に削るから歩みはときどき亀になる

 

だから秋の終わり道は

口笛を吹いて歩けない

 

 

 

 

 

86

 

万年筆のインクは詩の言葉だ

 

インクを何度入れ替えても

白い紙の上では言葉にならないときがある

 

ブルーブラックインクの中で

醸成される詩の言葉があるから万年筆になれる

 

一滴のインクが白い紙の上に広がり

溢れるように詩の言葉が生みだされていく

 

そんな時を 今待っている