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フランチェスコ・トリスターノ ピアノリサイタル

2013年02月20日 | pocknのコンサート感想録2013
2月20日(水)フランチェスコ・トリスターノ(Pf)
王子ホール

【曲目】
1.トリスターノ/プレリュード
2.ブクステフーデ/アリア「ラ・カプリッチョーザ」による32の変奏曲ト長調 Bux WV.250
3.ブクステフーデ/トッカータ ニ短調 H.2-20, Bux WV.155
4.ブクステフーデ/組曲 ニ短調 Bux WV.233
5. トリスターノ/ラ・フランシスカーナ
6. バッハ/パルティータ第3番 ニ短調 BWV827
7.バッハ/パルティータ第5番 ト長調 BWV829
8. トリスターノ/グランド・ベース ~シャコンヌ~
【アンコール】
1. トリスターノ/メロディー
2. バッハ/ゴルトベルク変奏曲より 第30変奏~終曲(アリア)


フランチェスコ・トリスターノはバロックと自作曲を含む現代の作品のみをレパートリーとする変わり種、という話題性も手伝ってか、このところ人気急上昇。少し前に出た話題のアルバム「bachCage」は僕も聴いたが、演奏の鮮烈なイメージだけでなく、特殊な音響効果が施されているあたりも異次元的効果をもたらしている。そうした細工ができないピアノ1台だけによるリサイタルでは、CDのイメージがどこまで聴けるか、期待にちょっぴりの懐疑心を持ちつつ出かけたが、生で聴くトリスターノの演奏は、CDの印象を遥かに超えた、衝撃的とも言える強烈なメッセージを投げかけてきた。

ブクステフーデとバッハの作品の前後に自作作品を置くというプログラミングは、アンコールも含めて完璧に計算された構造が見えるが、その中ではファンタジーが自由に花開き、炸裂する。「ファンタジー」といっても、もちろんそれはロマンチックな甘美さやファジーな曖昧さとは無縁の世界。予めお膳立てされたプログラミングとは対極にあるような、今まさに生まれた音が空間に放たれるというライブな感覚が息づいていた。そしてこれらの音たちが自ら意思を持ち、音同士が意気投合し合い、音楽として明確で強力なベクトルに一本化されてひとつの方向に突き進んで行く。

トリスターノは、美しく歌わせようとか、微妙な緩急のニュアンスで聴き手の心をくすぐろうとか、ましてやバロック時代の演奏では常套的な、リピートでは多彩な装飾を施して名人芸を披露しようとかいったことには目もくれず、もっと何か大きな使命を担っているかのように音を研ぎ澄ませ、磨きあげ、究極の美、真理といったものを追求しているようにも見えた。そんな態度で演奏されたバッハは、これまで聴いたことがないような新鮮さ、生命力を蓄えて、1音1音が直球勝負で胸に迫り、意識を覚醒させた。

まだ聴いていないが、最新のアルバムではブクステフーデに焦点が当てられていて、今夜のプログラムにもブクステフーデの比較的大きな作品が選ばれた。「バッハに影響を与えた」という言い方の背後には、バッハがブクステフーデの路線を完成させた、という意味合いがあって、音楽としての完成度はバッハが上ということになるが、今夜の演奏を聴くと、ブクステフーデは立派な作風を自ら確立した重要な作曲家であることがわかる。

「ヴァリエーション」では、当時の音楽様式の制約のなかで、これほど多彩な音楽を展開し、更に終わりの5つの変奏では頂点に向かってどんどんテンションを高めていくその気迫に圧倒されたし、「トッカータ」では即興性とメッセージ性の新鮮さと感性の鋭さに目を見張ったし、「組曲」ではまさしくバッハを先取りしたような充実した音楽に接した。オルガンやチェンバロの演奏会でたまに取り上げられるだけの作曲家だが、トリスターノはブクステフーデの真価を白日の下に曝したと言える。

それほどに究められたものが伝わってきたわけだが、このトリスターノのアプローチをもってすれば、ブクステフーデならずとも同時代の他の作曲家、例えばフレスコバルディとか、ラモーとか、バードとか、クープランとか、鍵盤楽器の音楽ではバッハの影に隠れてしまいがちな色々な作曲家の作品に同じように光を当て、その素晴らしさを明らかにしてくれる気がした。そこにトリスターノの計り知れない可能性を感じる。

こうしたバロック時代の作品と、現代の自作曲を並べることで、両者が刺激を与え合い、「古い音楽」からは新鮮な魅力を、「新しい音楽」からは太古の世界に通じる普遍性があることを伝えることに成功していただけでなく、無限の広がりを持つ異次元の宇宙空間を旅するような不思議な気分を味わった。そして、そんな宇宙の旅の最後には、また美しい地球に戻ってくる。アンコールの最後に演奏された「ゴールドベルク」は、まさしく宇宙からそんな美しい地球を見たときに感じるような感動をもたらしてくれた。

トリスターノは今年の12月にまた王子ホールでのリサイタルが予定されている。これも絶対聴き逃せない!という気持ちになった。

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