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小菅優/樫本大進/クラウディオ・ボルケス ベートーヴェンのピアノトリオ

2016年05月22日 | pocknのコンサート感想録2016
5月19日(木)小菅優(Pf)/樫本大進(Vn)/クラウディオ・ボルケス(Vc)
~NPO法人 子どもに音楽を 設立10周年記念コンサート~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調 Op.1-1
2.ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第3番ハ短調 Op.1-3
3.ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第5番ニ長調 Op.70-1「幽霊」

この演奏会を主宰するNPO法人「子どもに音楽を」は、20年前に亡くなったチェリストの徳永兼一郎氏を通して、氏の奥様が知り合った多くの演奏家との交流がきっかけで2006年に設立された、「子ども達に本物の音楽を」というコンセプトにコンサート活動を行っているという。

小菅優と樫本大進がメンバーに加わったカルテット(Vc :趙静、Vla:川本嘉子)で以前聴いたブラームスのピアノ四重奏曲全曲演奏会の充実しきった演奏の記憶から、今夜の演奏会に出かけた。曲目はオール・ベートーヴェン。

前半では作品1から2曲が演奏された。第1番、トゥッティによる主和音の一撃のあと、ピアノの躍動感に満ちたアルペッジョにチェロが軽やかに呼応する。冒頭部分を聴いただけで、この演奏がどんなにウキウキしたステキなものになるかを確信した。

小菅の冴えに冴え、歌に溢れ、能動的なピアノ、樫本の艶やかな音色と、かっちりと引き締まって頼もしいヴァイオリン、ベースラインでもメロディーでも芯のある美音で柔軟に立ち回り、存在感を示したボルケスのチェロ。3人が意気揚々と楽しげに奏でるアンサンブルが、ベートーヴェンの若書きの秀作が持つ、新鮮で弾ける魅力を存分に伝える。第4楽章は、子供たちが無邪気にじゃれ合っているような楽しげな情景が目に浮かび、更にどんなイタズラをするかわからないスリリングな感覚。

次の第3番では、音楽自体に深刻な眼差しが加わってくるのだが、これがシビアな中に抒情性と躍動感を持つ熟練の技を聴かせてくれた。第4楽章の燃焼度の高さにもただならぬものを感じた。3人は主旋律、刻み、相の手など、どの役割を担っていても、自分が受け持つ役割に最大限の個性と魅力を発揮し、他のパートとも「生きた」関係を作り上げる。

アンサンブルで主導権を多く握るのは小菅のピアノだ。「ここからはこれでどうかしら?」と表情をサッと変えて、新しい風を吹き込む。その場で楽想が湧いて出たような抜群のセンスによる「風」が、殊の外チャーミングだったり、楽しげだったりして、聴いていて顔が思わずほころんでしまう。あの紀尾井ホールでのベートーヴェン・ソナタ全曲演奏シリーズの感動が蘇ってきた。そんな小菅の働きかけを受け止めて、アンサンブル全体がサッと表情を変える様子は、ライブならではの醍醐味だ。

後半の「幽霊」も充実の極み。ベートーヴェンの音楽ならではのテンションや表情の目まぐるしい変幻に果敢に挑みかかり、それを見事に弾きこなし、合わせる様子は、荒馬を乗りこなす名騎士のよう。スリリングで活き活きと躍動感に溢れ、全体のフォルムは美しく整っていて、大人の味わいも醸し出し、まさに生きた芸術品。「幽霊」の名前の由来になった第2楽章は「支え」を失った浮遊感がよく出ていた。

このピアノ・トリオで、ベートーヴェンももっと聴きたいし、他の作曲家の作品も聴きたい。定期的に活動してくれないだろうか。自分で勝手に「トリオ・ユウ」と命名してしまった。

ブラームスのピアノカルテット(樫本大進・川本嘉子・趙静・小菅優) 2010.6.10 紀尾井ホール

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