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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

中桐 望 ピアノ・リサイタル

2015年04月08日 | pocknのコンサート感想録2015
4月8日(水)中桐 望 (Pf)
~中桐 望 アルバム・デビュー発売記念ツアー~
浜離宮朝日ホール

【曲目】≪オール・ショパン・プログラム≫
1. バラード第3番 変イ長調 Op.47
2.3つのワルツOp.64
3.24の前奏曲 Op.28
4.ピアノ協奏曲第2番 へ短調 op.21(室内楽版:コミネク=小林仁編曲)
【弦楽アンサンブル】Vn:崎谷直人、西浦詩織/Vla:飯顕、野中友多佳/Vc:森義丸/CB:小宮正寛
【アンコール】
1. ノクターン(遺作)「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」
2. 英雄ポロネーズ

昨年の暮れ、音楽ネットワーク「えん」主催のコンサートで聴いた中桐さんのピアノがとても良かったので出掛けたリサイタル。今夜は、昨秋からワルシャワに留学している中桐さんの意欲が伝わってくるオールショパンプログラム。

「えん」のコンサートのときとは会場の規模もピアノも異なるが、最初のバラードを聴いて、暮れに聴いたときの中桐さんの音がすぐに蘇ってきた。それはシルクのような上品で柔らかな光沢のある音色と、近景から遠景へと見渡せる奥深くゆったりとした遠近感。バラード中間部での詩情溢れる表現がグッと心に迫ってきた。続く3曲のワルツは暮れにも聴いたが、ちょっとしたテンポの変化や呼吸の「ため」などが、より自然な形で表現されているように感じてしっくり来た。

そして前半の最後に置かれた「24の前奏曲」がこのリサイタルの白眉。活力みなぎり、充実した響きで決然と始まった第1曲に続き、第2曲の左手で絶えず奏でられる音型が、これほどしっとりと物憂げな表情で語りかけてくるのを聴いたことがあっただろうか。この湿感を伴った豊かな詩情は曲集全体から感じた魅力の一つ。そして右手のメロディーは遠く山の彼方から「夕べの鐘」のように響いてきて、やはり暮れのリサイタルでやったラヴェルの「鏡」の「鐘の谷」で聴いた多層的な遠近感の世界と重なった。一転して軽やかに大きく飛翔する第3曲の柔らかな感触…

それぞれ短い曲のなかに凝縮されている音楽のエッセンスを、小さな単位で殊更に強調して聴かせることなく自然に引き出し(例えば第23曲の最後に出てくる「例の」非和声音が、大きな池の木陰でぽとっと落ちた小さなしずくのようにさり気なく)、聴き手に強い印象を与える。この姿勢はテンポ感にも現れていて、音楽全体の大きな流れをしっかり見据えたテンポ感でコントロールされている。第8曲や17曲を司る大きな呼吸にもそんなテンポ感がベースになっているように感じた。

中桐さんの意識は常に曲全体を、そして24曲全体を見ていることが感じられ、もしかしたらショパンのソナタよりも一つの作品としてのまとまりを持ちながら、そのように演奏することがとても難しいこの曲集に統一感を与え、24曲全体が大きく呼吸しているように感じた。ニ短調の終曲はまさにそんな24曲のドラマの締めくくりとして、正攻法の王道を熱く激しく突き進み、燃焼した。充実の極みとも言えるショパンにすっかり心酔し、会場で販売されていたこの曲が収録されているデビューアルバムを購入した。

後半は6人の弦楽アンサンブルとの共演でコンチェルトの第2番。中桐さんのピアノは中に温かな空気を包み込んだようなふくよかな表情を湛え、柔軟で流麗、前半で聴かせた音の美しさが、弦とのコントラストで益々映えた。

ピアノの前方に弦楽アンサンブルが並ぶ今夜の配置はごく一般的だが、ショパンのコンチェルトはほぼ常にピアノが主役、オーケストラパートは背景に淡い色付けをする程度の控えめな存在に徹することが多いため、ピアノの前に弦楽器奏者が居並んで各パート一人で演奏すると、それぞれの存在感が強調され、前半に比べてピアノを聴く集中力が弱まってしまった。とは言え、華やかでブリリアントな空気を運ぶ演奏は聴いていて楽しかったし、リサイタル後半に相応しい内容だった。

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