pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~ 1996年10月17日(木) クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 S:シルヴィア・マクネアー/Ms:マリアンナ・タラーソワ 合唱:スウェーデン放送合唱団/エリック・エリクソン合唱団 サントリーホール ◎マーラー/交響曲第2番 ハ短調「復 活」 ㊝ 期待通りの、全く素晴らしいコンサートだった。冒頭の力強く腹の底から震撼するようなしなやかな低弦の響きから、圧倒的なフィナーレまでアバド/ベルリン・フィルの実力を存分に味わった。 ベルリン・フィルの何がすごいかといえば、総合的な合奏力の驚異的な質の高さ、素晴らしい輝きと奥行きのある音色(その音は繊細な音から轟く音塊までどこをとっても聴くものを惹きつけてやまない)、それにソロ楽器のほれぼれするような巧さなど、いいオーケストラの条件を全て備えていることだ。世界最高のオケという世評が納得でき過ぎるくらい納得できてしまう。 それに今回はこのすごいオケに加えてすごい合唱団と素晴らしいソロまで加わって、コンサートの感激を増幅した。非常によく鍛えられたボリューム感のある合唱はベルリン・フィルの音色にもつながるものがある。 2人のソリストは命のはかなさと永遠の生命を得る感動を、深い情感を込めて格調高く歌い上げた。この音楽にふさわしい文句無しの名唱だ。 アバドの指揮は見ていてほれぼれする。いわゆる指揮姿で聴衆の目に訴えるタイプではないが、アバドの指揮には音楽の重要な要素、ポイントが無駄なく凝縮されている。簡潔であり、しかも機械的というのではなく、余分な動きは全てカットされ、大切なものだけが的確に楽員に伝えられていく。楽員へのインタヴューで「アバドは自分たちを自由にやらせてくれる」という言を読んだが、それがよく納得できる。 アバドが指揮で与える指示はしばしばそこで打つ拍だけではなく、そこから自由にはばたく可能性をも含んでいる。いいオーケストラであればあるほどいい方向付けだけしてあげればあとは素晴らしい演奏を展開していくもの。アバドが与える方向付けは素晴らしい歌であり、活き活きとした自由な飛翔であり、音楽の真髄に常に迫る深い読みと中弛みのない持続力のエンジンだ。 アバドが振ると「アバド的な演奏」というよりも音楽がひとりでそのあるべき姿を自由に披露していく印象を持つ。こうした指揮者とベルリン・フィルはまさに理想的な出会いだ。 こんなすごい演奏を聴けるなら来日の度にチケットを買って聴きに行っても大金も全く惜しくない。 |
ソニーとサントリーホールの共催で行われた96年のアバド/ベルリン・フィルの来日公演のプログラムは、この「復活」とベートーヴェンの第9の2本勝負。
この「復活」を思い出すと、金縛りに遭ったような衝撃が今でも昨日のことのように蘇ってくる。まさしく「全身全霊」という言葉が相応しい演奏で、アバドの公演というより、これまでに聴いた全ての演奏会のなかで、これは間違いなく僕にとって最も忘れられない演奏会の一つだ。すごいと思うのは、アバドはそんな一生忘れられないような演奏会の思い出を、この公演だけでなくほかにいくつも残してくれたこと。そんなアバドに改めて感謝したい。
(2014.1.28)
アバドが逝ってしまった・・・