毛唐もすなるブログといふものを

日本男児もしてみむとてするなり

政教分離

2005-04-07 13:31:26 | 国際
法王死去の半旗に反発 仏「政教分離に違反」

フランスの【政教分離】は元来【国民国家】フランスをカトリック教会という外部勢力から守るため編み出された理論です。イギリスが【政教分離】をしていないのは国教会の首長がイギリス国王なのでそこから【国民国家】イギリスを守る必要がなかったことによります。

似たような状況は日本では戦国時代に一向宗という形であらわれたことがあります。領民である門徒が領主以外に主を持つというのは支配者にとって不気味だったに違いありません。しかし、それ以外で顕在化したことはほとんどないといっていいでしょう。国家神道と【国民国家】日本との関係はフランス型とはまったく異なり、イギリス型に近いと考えるべきです。イギリス国教会は自国の王室の都合でカトリックと袂を分かち王室が教会を利用するような形をとりました。日本の政府も神道をそのような形で利用した面があるからです。日本においては、神道勢力が【国民国家】日本に対する脅威となったことはありません。政府の神道を利用するため神道と一体化しようとしたのです。イギリス王室の取った手法と類似します。

更に、革命前のフランスではカトリック教会が王権と一体化して権力を振るい、革命勢力の迫害に手を貸していましたから、【国民国家】を打ち立てた革命勢力からすれば明白に敵だったこともフランス流の厳格な【政教分離】に多大な影響を与えました。しかし、日本において神官階級が組織的に権力と一体化し、権力を振るっていたという事実はありません。それがあったという人は、部分的・個別的な事象を実証的な証拠もなく一般化しようとしているだけで、極めて意図的な人たちです。もし、そういう意図もないのに神官階級が組織的に権力と一体化したという人は、残念ながら戦後教育の先入観から自由になれない、いってみれば学問に不向きな人に違いありません。ガリレオ・ガリレイの肖像画の前で「それでも地球は回る」と毎日唱えることをお勧めします。

それはさておき、先進諸国の憲法で政教分離を厳格なかたちで定めている国は、フランスとアメリカくらいといっていいでしょう。フランスが厳格な理由は前述の通りで、アメリカはピューリタンが信仰の自由を求めて新大陸にわったったという歴史から厳格になるのうなずけます。もっとも、アメリカはフランスのように【国民国家】を宗教勢力から守る必要がなかったので、フランスほど厳格ではありません。そう考えると、多分共産主義国を除いてはフランスがもっとも政教分離にうるさい国ということになるのではないでしょうか。

それにしても、合理主義・啓蒙主義が勝利し教会勢力が決定的に退潮したフランスが、現在でもカトリック勢力をはじめとするキリスト教勢力から【国民国家】を守る必要があるようにも思えません。では、フランスの野党は過剰反応をしているのでしょうか。そうでもないでしょう。ではその理由は何か。確かに、フランス人は理念、なかんずく革命の理念をすごく大切にしますから、【政教分離】という革命の理念を大事にしたいというのもあるでしょう。しかし、それ以上に、イスラム勢力の拡大を警戒しているに違いありません。フランスは今や全人口の1割程度がアルジェリアを中心とするイスラム圏からの移民で占められています。彼らは【国民国家】フランスを脅かす宗教勢力と元々のフランス人には映っているはずですから。

そういえば、最近フランスで【政教分離】が問題となったものは報道で知りうる限りほとんどイスラムがらみです。フランスの【政教分離】は今やイスラムから【国民国家】を守る砦となったということと考えてよさそうです。ですから将来イスラム勢力に付け入る隙をを与えないために、最早脅威とは言えないカトリック教会に対しても、厳格な分離で臨むということなのでしょう。今やフランス流の政教分離は、このようなかたちで機能しているわけです。