トライ2おじさんの エッセイ!

エッセイ好きの皆さん、意見交換したいですね。お互いに研鑽しましょう。

庭の「カエル」

2016-12-28 20:36:52 | エッセイ
「パパー。ちょっと、ちょっとー」
家内が、『パパー』と呼ぶときは、碌なことがない。大体が、「あれやってないじゃないの」とか、「ちょっと来てよ。どうにかしてくれない」とかの文句や注文が多いのだが、今回は違った。
「小さいカエルがいるわよ。ほら、去年デッキの塗装が剥げたとこ塗りなおしたでしょ。そのとき、ペンキが飛んで背中に色を付けたカエルがいたじゃない。ペンキは付いてないけど、あのカエルじゃない。だけど、変な色してる」
「本当?どこどこ」
久しぶりにカエルを拝めると、勇んで朝のデッキに出た。
 家内の指さすところはバラの鉢の中だ。よく見ると、なにやら茶色のまだら模様のカエルで、横を向いてじっと動かない。近寄って、手の届きそうなところまで顔を近づけても、目も体も全く動かさない。しばらくそうしていると、ふと剣道での試合のような感覚にとらわれた。面金(メンガネ)の中の顔は見えないが、「静」の中で全神経が研ぎ澄まされてこちらに向かっている、といった感じだ。
そっと、鉢から顔をあげて離れ、
「カメラ取ってくる。見張っといてよ」
と言い残し、二階の書斎からカメラを携えて戻った。
「あれ、カエルは?」
「居なくなっちゃった?おかしいわね。そこら辺にいない?」
「居ないよ。何やってんだよ。見といてくれって言っといたじゃないか」
「そんなこと言ったって、こっちも忙しいのよ。早くバラの手入れを済まさなきゃならないし、洗濯物だってあるのよ」
いつものパターンだ。人の言うことをまともに受け取ってくれない。豹変したら、これ以上言ってもどうにもならない。
 それにしても、カエルを見るのは久しぶりだ。バラの柵を作った昨年まではけっこう見かけたことを覚えている。デッキの奥にある金寿木蓮(キンジュモクレン)の大きな緑の葉っぱに、よくかしこまっていた。今日見たカエルと大きさがほぼ一緒だったし、動きのなさも同じだ。ただ、きれいな緑色の葉っぱの上にのっていたからだろうか、その時はきれいな緑色をしていた。
 今日のカエルは、黒とグレーのまだら模様だ。黒の模様は、墨で描いた「人」の文字に似ていて何個かある。その間がグレーでまだら模様となっていた。鉢の土の上に鎮座していたからなのか、以前のカエルとは、色も模様も変わっていた。
 それからというもの、私は注意して庭を眺めるようになった。どこかに潜んでいないかと、バラの緑色した葉っぱや、鉢の中などにも、腰をかがめて丁寧に探した。
 これが朝の日課となった。一か月ほどの間に、大きさの違う4匹のカエルを見つけることができた。これらは、その時々で、さまざまな色模様をしていた。カエルってけっこう面白い生き物だなと思い、少し詳しく調べてみた。
正式名称は「ニホンアマガエル」。体長は4センチほどで、メスのほうが大きい。食性は、動いている小さな昆虫やクモ類を捕食する。エサが近づくまでじっとしていて、ここぞというときに飛びかかり、押さえつけて口を大きく開けて飲み込む。けっこう獰猛だ。
 色は、ふだん黄緑色だが、時と場所によっては灰色系に変わる。擬態だ。英語では「カモフラージュ」という。周りの環境や、温度・湿度・明るさなどによってホルモンを分泌し、皮膚の色素細胞を拡張・伸縮させて色を変える。知れば知るほど面白い生き物だと思う。
 状況によって変化するなんて、人間と似ているところがある。カエルが変わるのは「本能」によってだ。でも、人間は「心のありよう」で豹変する。