トライ2おじさんの エッセイ!

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「今はよき思い出」だ

2017-02-13 14:33:15 | エッセイ
 小学校時代から続く友人と、昨夜もメールのやり取りをした。「今度、いつ会おうか」とか、「どこの飲み屋にする?」とかのメールだ。電話での会話だと、記録に残せないし、たまには誤解が生じる。しかし、メールは記録に残る し、やり取りも早い。便利になったものだとつくづく思う。
 私は、昭和49年に入社した。今から42年前のことだ。君津市にある製鉄所の技術研究室に配属され、薄板の材質研究に従事した。当時の仕事ぶりを思い出すと、現在とは、実に隔世の感がある。
 入社したての頃、資料を作成するのは全て手書きだった。研究成果を資料にまとめるときは、A4かA3版の横罫が入った薄い紙に鉛筆で記入する。グラフなども、その紙面に直接書き入れる。薄い紙を使うのは、会議用にコピーを何部かつくるための原紙とするためだ。できあがると、上司のチェックが必ず入る。そのチェック方法が半端なやり方ではない。赤の水性ラッションペンで、原紙に書き込んでくる。ラッションペンで書かれた文字は消えない。だから、一文字でも修正があると、コピーすることができず、全部書き直しだ。しかし、何回も書き直すことで、文章のあり方や漢字も覚える。
 私が工業系の大学に入ったのは、現代国語や英語などの語学がきらいで苦手だったためだ。そんな私だったが、徐々に資料作成が上手になった。
 当時、コピーは青焼き複写機でおこなっていた。湿式のもので、原紙の下に感光紙を密着させて、複写機に装入する。通過中に紫外線があたる。原紙上に何も書かれていない部分では紫外線が透過し、感光紙のジアゾ化合物が分解される。それで白く現像される。逆に文字等がある部分は紫外線透過が妨げられ、ジアゾ化合物が残留することで、文字や図画に現像される。
 この湿式青焼き複写機では、度々痛い思いをさせられた。原紙が巻き込まれ、現像液に浸ってしまうことだ。液に濡れると、鉛筆書きの部分がにじむし、原紙そのものがしわくちゃになり、書き直しとなる。会議直前でこうなると、もはやどうにもならない。
 入社後五年たって、現場第一線の技術室に管理職として異動した。現場の操業は二十四時間動いている。操業状況は本社のほうでも監視していて、操業データや会議資料を求められることがよくあった。締切り期限に間に合うときは気持ちよく事前に送付する。といっても郵便で送るのだ。今のような電子メールなどありはしない。ファックスもない時代だ。だが、締切日ギリギリまで作成に手間取っているようなときには奥の手があった。
「廣川さん、お願いしている資料が届きませんが、どうなっていますか」
と本社から催促電話が掛かってくる。
「え!まだ届きませんか。昨夜の本社便で封筒に入れて送ったのですけど」
「いやー、まだなんですが。7階の郵便箱に入っているのかなー。とにかく調べますが、もう一度送付してもらえませんか」
「そうですか。それじゃあ、もう一度送付しましょう」
 こっちはその資料を頑張って作成している真最中だ。際どいやり方だったが、こういう形で切り抜けたことが何回かあった。でも、相手もしたたかで切りに保険をかけていて、2、3日の余裕を持っていることはわかっている。
 昔のことだが、なにか人間臭いつきあいだったように思う。
 ところが、ファックスが導入されると途端に厳しくなった。
「廣川さん、もう資料ができていると思いますので、ファックスで送信してもらえますか」と言ってくる。さすがに逃れられないので、正直に「申し訳ない。まだできていないんです。悪いけど、もう少し時間をくれますか」と謝りを入れる。電子メールができると、さらに厳しくなった。
 文明が発展することはよいことだ。だが、発展と同時に人間は機械に使われるようになってしまう。
 四年前に退職した。当時のことは、「今は良き思い出」として記憶に残っている。
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