フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

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関流数学家 DEUX MATHEMATICHIENS DE L'ERE EDO

2007-02-28 23:16:50 | 科学、宗教+

先日取り上げた狩野亨吉氏の講演記録 「記憶すべき関流の数学家」 を読む。明治40年12月5日、江戸時代の数学者関孝和の弟子2名について関孝和二百年忌記念講演会で話した内容である。当時の雰囲気が伝わってくるのと、どういう人をどういう理由で取り上げているのかを探っていくと、狩野自身のものの見方や人物像が浮かび上がってくるので興味深い読み物となった。当日狩野氏は体調を崩し、若い人に代読させている。

「古来我国の学問は、支那か、印度か、西洋かを手本といたしまして、出来て居ります。学者も亦、自然彼方の人を真似て、得意となつて、誰も亦之を怪しまなかつたものであります。」 という言葉で講演は始る。そんな我国において、日本独自のものを捜し求め、新しい境地を開いた尊敬すべき人もいた。しかし、「我国民は、維新前後の混雑に紛れて、過去幾多の、尊敬すべき、記憶すべき人物を忘れ終うせたが為に、彼の心細いと云ふ感じに打たれて居りましたが、翻って徳川時代の歴史を調べて見ると、却て人意を強うする学者や人物を、多く見出すことが出来る。関孝和先生の如き即ち其一人であります。」

幕府や各藩が数学など推奨したこともないのに、その弟子が社会に広く出たということは 「頗る異とすべき現象」 と狩野は捉えている。その中で、関の孫弟子に当たるこの人を取り上げている。

中根元圭: 1662年 (寛文2年) - 1733年 (享保18年)

彼は、医者であったが、京都の銀座の役人になり、将軍吉宗に知られてさらに学問を続けることが出来た人である。数学、天文学、度量衡、韻鏡、書学、字書などの本を書き、音楽に詳しく日本の音楽を盛り立てようとしていた。彼が71歳の時、吉宗の命を受け、太陽と太陰との地球の距離を測るという日本初の事業に従事する。その結果は相当に怪しいものであったが、当時の測定法では致し方なかったのだろう。老骨に鞭を打っての仕事だったのだろう、その翌年には亡くなっている。学問に一生を捧げた人で、単に数学の分野だけに留まらず、文明史においても特筆すべき人物であったとしている。


関孝和の没後87年目に8人の弟子が碑を建て、祀った。その筆頭にいたのが生涯を浪人で暮らしたというこの方である。

本多利明: 1743年 (寛保3年) - 1821年1月25日 (文政3年12月22日)

越後村上の出身で、実学を修めるため18歳の時に江戸に出て、数学、天文学、剣術を学び修める。24歳の時、塾を開き弟子を取るようになるが、その仕事は別の人に任せて、自分は諸国を遊歴し、地勢、民族、物産、交通の便などを調べる。さらに外国との交流にも積極的で、「西域物語」 を著し、鎖国の時代にあって開国を主張する。その実現に向けて、我国で初めて航海術を学び、幕府から蝦夷地に2度に渡って航海を命ぜられるその道の「オーソリチー」 になる。その後、彼はあらゆる仕官を辞して、年来の目的であった経綸策の実施に向け自らの信念を友人などに諮った。彼の意見は、「独語」 (露西亜に対する策について)、「経世秘策」 (一般経済について)などに見ることができる。

興味深いことに、本多は北方の防備をしっかりしなければならないと説き、手段が穏和であれば、国境を広げることにも反対しないどころか、寧ろ積極的に領地を広けるべきであると主張している。小さな日本は鎖国などしている時ではなく、諸外国と通商の道を開き、首都を大陸に遷すがよしなどと言っている。さらに、北アメリカの内地にも開拓の手を伸ばすように建白までしている。稀有な人物であったようだ。

これだけのことを言いながら、彼が何故に罰せられることがなかったのか、と狩野は問う。そして、第一にはその著書を公表しなかったこと、第二には彼の性格に関わるもので、人間として信用を得ていたことが大きかったのではないかと推測している。自らを厳しく律するところがあり、人をよく受け入れ助ける寛容の人であったという。数学者としてのみならず、憂国の士として記憶に止めなければならない人物であると結論している。

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