フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

正月の読書で、ある発見 UNE PETITE DECOUVERTE DE 2007

2007-01-05 23:31:32 | 哲学

昨年、この国に欠けている重要なものの実体と思えるものを 「科学精神」 という言葉で捉えられるようになり、自らも考えを始めることにした。この正月実家に帰り、母親の小さな本棚を覗いていたところ、西田幾多郎の弟子、高山岩男氏による 「西田哲学」 (岩波書店) と坂田徳男という人 (ネットで調べたところ、医学部と文学部を出ている) の 「哲學素描」 (晃文社) が目に留まった。深夜、「哲學素描」 のページをぱらぱらと捲っていて驚いた。

そこには私が最近興味を持ち始めている科学と哲学を取り巻く問題が一般向けに論じられていたからである。さらに、敗戦後数年で出版されたせいか、敗戦の原因についても考察されていて、日本人における 「科学精神」 の欠如を最大のものとしてあげている。読んでみると、日本人は全く進歩していないな、というのが読直後感であった。ほんの一部を引用してみたい。そこから全体の調子が伝わるのではないかと思う。

「戰後育の一方針として論理學の授を中學初年級から課するといふ案を提唱せられた方があつたが賛成である。あらゆる合理的思惟の基礎根柢となる論理學が何故從來我國の育制度上不當に輕視せられたかは、實に全く理解し難いことである。ある友人が私に言った、「日本人には 『理解』 といふことがなく、『情解』 があるだけだ」 と。萬事を感情から割出して考へ易い國民の根本性情がこの戰爭の前後を通じて國家に災いしたことは恐らく敵の優秀な兵器の性能にもまさるものがあつたであろう。
 論理學の無視も、そのやうな學科が實用向でないといふ見地から來たものとすれば、ここにも日本人の心理的近視眼が遺憾なくさらけ出されてゐる。」

このブログでも高校教育に論理的に考えるコースとしての 「哲学」 を組み込んではどうかというようなことを書いたことがある (5 août 2006)。その時に、同じ主張を昔されたことがあるというコメントを悠様からいただいたが、反応がほとんどなかったという。

「何ら明確な概念規定を入れることもできない 『八紘一宇』 といふごとき空疎な理念をば哲學的言辞をもつて粉飾するに日も足りなかった 『哲學者達』 がさらに昨今、民主主義轉向に、看板の塗變へに、これまた日も足りぬ有様を目撃するにつけて、私は世界におよそこれほど無性格な學界をもつ國がまたと他にあらうかの歎を發せざるをえぬ一人である。輕々しく立場を轉換することは政治家においてすら無節操の非難に値する。いやしくも學者の場合、それは痛烈な良心の苦悶を經ずしては起こりえないことではないか。極端から極端への、無論理、無媒介な轉化は、我國の學者の無性格と無良心を表明する以外の何物でもない。彼等は毫も學者ではなく、思想家でもなく、要するに幇間に過ぎないのであり、まづ葬り去るべきは彼等の一黨であるであろう。國民の精神を毒すること彼等に過ぎたるものはないからである。」

激しく本質を突いた言葉が迸り出ている。私の少ない経験と独断を覚悟で言わせていただければ、科学者は言うに及ばず、文系の思想を扱っている人の態度を見ていると、その人の全存在をかけてある思想を語っているというよりは、単なる仕事として語っているようにしか見えないことが多い。自分がどこか別のところにいるのである。日本に哲学研究者はいるが、哲学者は少ないと言われる所以でもあるのだろう。それがもてはやされるのか、軽いのである。そのため、環境が変われば全く逆のことも平気で言えるのではないだろうか。そんな思いを捨てられない。

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ところで、この本が出版された日を見たとき、不思議な感慨が私を襲ってきた。それは私が母親の胎内にいたと思われる時期に当たるのである。本人に確かめると、この本を買ったのか、父親から借りたのか、誰かにもらったのか覚えておらず、読んだのかどうかもはっきりしないという。しかし、運命論者の私としてはそこに何らかの意味を持たせようとしているようだ。

2007年正月最初の読書が私にちょっとした発見をもたらしてくれた。

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