新しい町に降り立ち、早速あてどもなく歩き回る。その時、とにかく先へ先へと歩を進めるようになっている。以前であれば、これを進むとわけがわからなくなると思うと道を引き返すことが多かったが、それでは気分が削がれるためか、もはやその気には全くならないことに気付く。どこに着くのかわからないまま進み、あとでどんな道を歩いていたのかを地図で確かめるのが大きな楽しみになっている。
ところで、こちらでは本屋さんに入るのがひとつの楽しみになっている。展示の仕方が日本と違い、大きなお店でもどこかパーソナルな (人間の生の) 感触を感じることができ、しかも美しく感じることが多いからだ。その日は、壁に10名程度の作家の今までに見たことのない表情が何気なく飾られた本屋が目につき中に入る。まず、許可を得てから店内の写真を撮る。飾り付けが感じよく、本当に気持ちがよい。いつものことだが、彼らの中にある美的センスがわれわれのそれと根本的に違うのだ、ということを思い知らされる。なぜそうなのか、という疑問がずーっと私の中にある。
最近お定まりのコースになっている Philosophie のコーナーへ。その棚の前に立ち、そこにある先人の営みを思った時、これまでになく気持ちが昂ぶってくるのを感じていた。そこで、 « Les philosophes et la science » 「哲学者と科学」 という1000ページを超える本を買う。これから時間をたっぷり使って、これまでずーっと先送りにしてきたことについて読み、考え、そして何かを作ることができれば、、、という想いが襲ってくる。それから、2000ページを超える歴史上の人物を描いたプルターク « Plutarque » を手に取る。なぜか興奮を抑えきれないようだ。こちらはいずれ、ということで棚に戻した。
アラブ系のサンドイッチ屋さんで昼食。アメリカ時代を思い出し、禁断のコーラと日本の3倍はあるサンドを平らげる。歩いたからしょうがない、と自分に言い聞かせながら。これをやっているから、ダイエットの効果がさっぱり上がらないのだろう。
その日ホテルに戻り、本屋さんのしおりを見て、やっぱりフランスか、という感じで嬉しくなる。そこにはこう書かれていた。
« Un peu de philosophie pour l'arrivée du Printemps... »
「春を迎えて少し哲学を・・」 という言葉の下に、次の三冊が紹介されている。
1977年、体制に暗殺されたチェコの偉大な思想家ヤン・パトシュカの歴史哲学作品
J. Patočka « L'Europe après l'Europe » 「ヨーロッパ後のヨーロッパ」
イデオロギーと個人の問題についてのアドルノ1950年の作品
T.W. Adorno « Etudes sur la personnalité autoritaire » 「専横的人格に関する研究」
ルイ・アルチュセールの自伝の改訂版
Louis Althusser « L'avenir dure lontemps » 「未来は永続する」
・・・ この日、至福の時間が流れていた。