空からマリコ「安全第一」

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【オリジナル】マリコ、「バカ意見」を嘆く

2015-09-16 00:16:25 | 公共航空

 相変わらず豪雨被害の報道取材ヘリについて「バカ意見」があるようなのでマリコから再びオリジナル。

 某「松」というコメディアンが「ヘリを制限してドローンで」という意見を吐いたそうですが、ドローンについても、ヘリの運用についても知識のない人の典型的な意見です。

 まず、確認ですが航空法では「離着陸を除いて運航中のヘリは地上から高度150メートル以下(人口密集地では300メートル以下)に降りてはいけない」というのがあります。これを最低安全高度といいます。

 最低安全高度の例外が救助ヘリ(自衛隊機、警察、消防、海保・・最近はドクターヘリもこの範疇になりました)です。もちろん人を救助するときには150メートル以下に降りなくては作業できません。安定的にホバリングで救助作業をできるのは20~30メートル程度(それ以下になると万一突風などが吹いた場合は、姿勢を回復できないので)。

 救助ヘリは150メートル以下で作業し、報道ヘリは(法的に)150メートル以上で撮影しなくていけないとなります。さらに報道ヘリは複数機の場合、ホバリング禁止で右回りというと定められています(日本新聞協会航空取材委員会の定めによる)。さらに122・6MZの共通波があり救助ヘリから「どいてくれ」といえば、どくのが原則です。

 過去に取材機同士の衝突はあっても、救助機と取材機が衝突した例は日本ではありません。高度差と被写体との関係(救助作業の直上位置では作業の様子が見えない)を考えれば、当てようという意図がない限り、当たりようがないといえます。空の世界ではそうやって安全を確保されています

 ただ、高度を極端に下げての接近や、旋回への無理な割り込みなどのバイオレーション(規定違反)が危険を呼ぶのは、当たり前のことです。

 取材機の気流で救助ヘリが邪魔されるというのも誤りです。普通の取材機は小型に分類される機種(経済性がもっぱらの理由)です。パワーを生み出すローターの直径は約10メートルです。一方、今回活躍の自衛隊のUH60ブラックホークのローター直径は16メートルとはるかに大きいです。取材機が150メートルの高度を守り、30メートルの高度で救助機が作業をしたとして、実に120メートルもの高度差があります。影響はほとんどないといえます。

 さて、「松」提案のドローン活用について。マリコは「救助ヘリにドローンを近づけるのは断固反対」します。おそらく、すべてのパイロットが同意見と言っていいでしょう。

 昨今、日本で改正航空法が成立してドローンについて①150メートル以下を飛行する②操縦者が有視界で把握できる範囲に限られる・・となりました。

 ドローンは大きくても長さ2メートル程度でしょう。空からみれば2メートルの物体は芥子粒のように見えます。そんなものが同じ高度の空域で飛んでいれば、パイロットの発見が遅れるなど危険きわまりないことです。ドローンがもしテールローターなどに接触すれば、不時着もしくは墜落となります。また、現段階でドローンの操縦者が救助機のパイロットに行動の意図を伝えることはできません(ここが航空界が今、一番問題にしている部分)。この場合は救助機側が回避しなくてはなりません。これはまさに作業の妨害にほかなりません。

 最近の例を一つ挙げますと、今年アメリカのカリフォルニアでは異常気象の影響で山火事が多発しました。この山火事でFAA(米連邦航空局)は現場上空のドローンの飛行を禁止しました。

 これはアメリカでは山火事火災の消火には多くの航空機(ウオーターボマー=水の爆撃機)が投入されますが、その航空機にドローンが接近したためです。アメリカでも有人機と無人機の同じ空域での運用は、大きな問題となっているという例です。

http://www.nbcnews.com/storyline/western-wildfires/drones-flying-over-huge-california-fire-hindered-firefighters-officials-n382501

 さて、もうひとつ「松」の番組で「ミスターの坊ちゃん」が「統制機云々・・」という話をしていたようですが、統制機の役割は個々の救助作業を指揮することではなく「任務完遂のために空域全体を統制・管理すること」が役割です。もっとかみ砕いて言えば、空域に飛ぶすべての航空機を把握してコントロールすることです。これには取材機も含まれます。法的拘束力はありませんが「救助に入る」「救助完了で離脱する」と共通波で話せば、取材機がどのように動くかは予測がつきますし、自然とコースから〝排除〟することもできます。そうしたことを想像、実行できない統制官は日本の自衛隊にはいないと私は思います。

 最後に一部にある「サイレントタイム」(一定時間、すべての航空機を現場から離して騒音を止める)について。これは一度書いた覚えがあるのですが、取材機だけの問題ではなく、地上指揮官にしっかり権限を持たせ、すべての航空機を現場から遠ざけなければ被災者発見という効果を見込めません。一部自治体でプロトコル(手順)が用意されていますが、その裏打ちには法的拘束力が必要だと思います。

 救助は最優先事項ですが、同時に被害把握など国民の知る権利を支えるのもまた航空機やヘリコプターの重要な仕事だと思います。その両立のために法律やプロトコルが「空」にはあるのです。

 航空機の持つ利点、すべてを生かしきる知恵や工夫に議論が及ばないことが日本国民の航空知識や常識の薄さの証明である・・とマリコは嘆きます。

 


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