「本は鏡のようなもの。それを読む人の内面を映し出す」なんて言葉があるが、今月は観る人の価値観や知識を問う映画が多かった。
まずは『パンズ・ラビリンス』。様々なメタファーがてんこ盛りで、観る人によって同じシーンでもこんなに解釈が違うのかと驚かされた。ある人は少女の最初の試練である大木を女性器だと捉え、洞に潜っていく行為を胎内回帰と解釈したし、またある人は大木=国家(スペイン)、大木を蝕む大蛙=独裁者(フランコ)だと考えた。夢判断などでは鍵はエロチックな象徴だし、『不思議の国のアリス』のようなエプロン・ドレスが汚されたりするので、もう少し性的なイベントがあったかもしれない。それはさておき、内戦時代から第二次世界大戦にかけてのスペイン情勢がある程度わかっていないと、いろいろ見過ごすことになりかねない映画だった。観て、大いに語れ。
その点は『キングダム』も似ている。サウジアラビアとアメリカ、と言うよりは石油メジャーの関係を意識して観ると断然面白くなる。「FBIがサウジのルールを無視して無茶な捜査をする」「無敵のFBIが次々とテロをなぎ倒す」といった点が非難されそうだが、それぞれ911以降のアメリカが積極的に行っている価値観の押しつけと報復の連鎖である。明確には描かれていないものの自己批判的なものが感じられた。単なるアクション映画に終わっていないのがすごい。『シリアナ』を面白いと感じた人と一緒に観たい作品。
偶然だと思うが、今月上映された映画で50年代から60年代にかけてアメリカを語ることができる。
『ゾンビーノ』は、ゾンビをペットにできる世界のホーム・コメディ。シュールなギャグは嫌いではないが、映画としてはもう一捻り欲しいところ。舞台は1950年代の郊外住宅地であり、強力な父権やマッチョリズムをゾンビを使って揶揄している。
『ゾンビーノ』ではマッチョの象徴たるゾンビ戦争の英雄が非業の最期を遂げるが、『ヘアスプレー』にも朝鮮戦争の英雄が登場し、主人公たちの行動を阻止しようとする。さすがに殺されることはないが、阻止は失敗に終わり、また性病持ちであることが明かされ、マッチョの権威は失墜する。映画は明るい未来を予感させるダンス・ムービーであり、鑑賞後は実に気持ちよく劇場を後にできる。トラボルタが一瞬見せる『フラッシュ・ダンス』のパロディも素敵だ。
ところが60年代はキューバ危機、ケネディ暗殺があって、ベトナム戦争へと突入していく暗黒の時代となる。その背後で暗躍していたCIAの創設からピッグス湾事件後までを描いているのが『グッド・シェパード』。夫婦生活の破綻を描くなら描く、端折るならもう少し端折って欲しかったし、時間軸の入れ替えに一部未整理な印象を持ったが、インテリジェンスの世界に関わるとろくなことにはならない、ということがよくわかる映画だった。OSSからCIAに組織が変わり、その役割が大きくなっていく過程がよくわかる。また調子に乗ったCIAがピッグス湾事件で大失態を犯し、墓穴を掘ったことも。CIAがケネディ暗殺に一枚噛んでいると思う人には是非観てもらいたい。
『ローグ・アサシン』『ロケットマン』『クワイエットルームにようこそ』『仮面ライダー THE NEXT』はだいたい予想通りの作品。『クワイエットルームにようこそ』はシュールな笑いを楽しめるが、予想した以上に重い映画だった。メンタルなことで悩んでいる人、あるいはそういう人が身近にいる人は、何かと考えさせられることだろう。『仮面ライダー THE NEXT』は期待しなかった割には面白かったが、もう少し脚本が整理されていればと感じた。惜しい。
残念賞だったのは『インベージョン』。地雷とわかって踏みました。B級映画としても何とも中途半端な出来で、非常にがっかり。「共産主義恐い恐い」が使えないのなら、いっそ原作に忠実に作るとかすれば良かったのにと思う。セーターに密着した二コール・キッドマンの形の良い胸ばかりが記憶に残っている。
駄目かと思ったらやっぱり駄目だったのが『カタコンベ』。友人はサイコ・スリラーとして面白かったと評価していたけど、あらゆる意味で駄目だった。
読書傾向としては新刊ではなく少し古い作品ばかり読んでいたが、機本伸司の『神様のパズル』と『僕たちの終末』は当たりだった。前者はもともと評判が良い作品だったが、後者はどちらかと言えばwebで酷評されていた。つくづく他人の評価は当てにならないと思ったが、その逆のパターンが『イニシエーション・ラブ』。対象年齢を知りたい。もちろんこの評価も個人的なものであり、当てになるとは限らない。
『マイティ・ハート-愛と絆-』の予習として、『誰がダニエル・パールを殺したか?』を読んだが、読み物としてはそれほど面白いものではなかった。しかしダニエル・パール事件の大まかな流れを再確認でき、主犯とされるオマルがたどってきた道のりを知ることができたので、映画を観る上で大きな助けになると思う。だったら未亡人となったマリアンヌの『マイティ・ハート』を読めば良さそうなものだが、主観的になりすぎてないかと不安だったために『誰が~』を選んだ。こちらはこちらで取材小説のスタイルをとっていたので、十分に主観的だったのだが。
※
まずは『パンズ・ラビリンス』。様々なメタファーがてんこ盛りで、観る人によって同じシーンでもこんなに解釈が違うのかと驚かされた。ある人は少女の最初の試練である大木を女性器だと捉え、洞に潜っていく行為を胎内回帰と解釈したし、またある人は大木=国家(スペイン)、大木を蝕む大蛙=独裁者(フランコ)だと考えた。夢判断などでは鍵はエロチックな象徴だし、『不思議の国のアリス』のようなエプロン・ドレスが汚されたりするので、もう少し性的なイベントがあったかもしれない。それはさておき、内戦時代から第二次世界大戦にかけてのスペイン情勢がある程度わかっていないと、いろいろ見過ごすことになりかねない映画だった。観て、大いに語れ。
その点は『キングダム』も似ている。サウジアラビアとアメリカ、と言うよりは石油メジャーの関係を意識して観ると断然面白くなる。「FBIがサウジのルールを無視して無茶な捜査をする」「無敵のFBIが次々とテロをなぎ倒す」といった点が非難されそうだが、それぞれ911以降のアメリカが積極的に行っている価値観の押しつけと報復の連鎖である。明確には描かれていないものの自己批判的なものが感じられた。単なるアクション映画に終わっていないのがすごい。『シリアナ』を面白いと感じた人と一緒に観たい作品。
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偶然だと思うが、今月上映された映画で50年代から60年代にかけてアメリカを語ることができる。
『ゾンビーノ』は、ゾンビをペットにできる世界のホーム・コメディ。シュールなギャグは嫌いではないが、映画としてはもう一捻り欲しいところ。舞台は1950年代の郊外住宅地であり、強力な父権やマッチョリズムをゾンビを使って揶揄している。
『ゾンビーノ』ではマッチョの象徴たるゾンビ戦争の英雄が非業の最期を遂げるが、『ヘアスプレー』にも朝鮮戦争の英雄が登場し、主人公たちの行動を阻止しようとする。さすがに殺されることはないが、阻止は失敗に終わり、また性病持ちであることが明かされ、マッチョの権威は失墜する。映画は明るい未来を予感させるダンス・ムービーであり、鑑賞後は実に気持ちよく劇場を後にできる。トラボルタが一瞬見せる『フラッシュ・ダンス』のパロディも素敵だ。
ところが60年代はキューバ危機、ケネディ暗殺があって、ベトナム戦争へと突入していく暗黒の時代となる。その背後で暗躍していたCIAの創設からピッグス湾事件後までを描いているのが『グッド・シェパード』。夫婦生活の破綻を描くなら描く、端折るならもう少し端折って欲しかったし、時間軸の入れ替えに一部未整理な印象を持ったが、インテリジェンスの世界に関わるとろくなことにはならない、ということがよくわかる映画だった。OSSからCIAに組織が変わり、その役割が大きくなっていく過程がよくわかる。また調子に乗ったCIAがピッグス湾事件で大失態を犯し、墓穴を掘ったことも。CIAがケネディ暗殺に一枚噛んでいると思う人には是非観てもらいたい。
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『ローグ・アサシン』『ロケットマン』『クワイエットルームにようこそ』『仮面ライダー THE NEXT』はだいたい予想通りの作品。『クワイエットルームにようこそ』はシュールな笑いを楽しめるが、予想した以上に重い映画だった。メンタルなことで悩んでいる人、あるいはそういう人が身近にいる人は、何かと考えさせられることだろう。『仮面ライダー THE NEXT』は期待しなかった割には面白かったが、もう少し脚本が整理されていればと感じた。惜しい。
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残念賞だったのは『インベージョン』。地雷とわかって踏みました。B級映画としても何とも中途半端な出来で、非常にがっかり。「共産主義恐い恐い」が使えないのなら、いっそ原作に忠実に作るとかすれば良かったのにと思う。セーターに密着した二コール・キッドマンの形の良い胸ばかりが記憶に残っている。
駄目かと思ったらやっぱり駄目だったのが『カタコンベ』。友人はサイコ・スリラーとして面白かったと評価していたけど、あらゆる意味で駄目だった。
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読書傾向としては新刊ではなく少し古い作品ばかり読んでいたが、機本伸司の『神様のパズル』と『僕たちの終末』は当たりだった。前者はもともと評判が良い作品だったが、後者はどちらかと言えばwebで酷評されていた。つくづく他人の評価は当てにならないと思ったが、その逆のパターンが『イニシエーション・ラブ』。対象年齢を知りたい。もちろんこの評価も個人的なものであり、当てになるとは限らない。
『マイティ・ハート-愛と絆-』の予習として、『誰がダニエル・パールを殺したか?』を読んだが、読み物としてはそれほど面白いものではなかった。しかしダニエル・パール事件の大まかな流れを再確認でき、主犯とされるオマルがたどってきた道のりを知ることができたので、映画を観る上で大きな助けになると思う。だったら未亡人となったマリアンヌの『マイティ・ハート』を読めば良さそうなものだが、主観的になりすぎてないかと不安だったために『誰が~』を選んだ。こちらはこちらで取材小説のスタイルをとっていたので、十分に主観的だったのだが。