おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「シティ・マラソンズ」 三浦しをん・あさのあつこ・近藤史恵

2011年07月25日 | Weblog

「シティ・マラソンズ」三浦しをん・あさのあつこ・近藤史恵 文藝春秋社

 

 「身も心も」(光文社刊 盛田隆二著)を読了後、とある推理小説を読み始めたものの、見開き2ページを読み切れないうちに猛烈な眠気が襲ってくるほど催眠効果が強烈。1週間以上かかっても50ページぐらいしか進まず、毎日持ち歩いているのに、だんだんカバンから取り出すのがユウウツになり、ついに断念。救いを求めるような気持ちで「シティ・マラソンズ」を開いたら、面白いほどにサクサク読めて快適でした。肩肘張らずに楽しめるページターナーです。

 

 もともとはアシックスのウェブサイト上の企画小説。

 

「風が強く風が吹いている」(三浦しをん)/「バッテリー」(あさのあつこ)/「サクリファイス」(近藤史恵) スポーツ小説をヒットさせた女性作家3人にマラソン小説を依頼したわけですね。三浦しをんがニューヨークマラソン、あさのあつこが東京マラソン、近藤史恵がパリマラソンを舞台にしたストーリーを作成。意図してか、偶然なのか、そもそもマラソンとはそういうものなのかはよくわかりませんが、共通テーマは「自分に向き合う」。

 

企画モノweb小説の功罪。「功」は、「自分に向き合う」という重いテーマにもかかわらず、過剰に重苦しくならずに気楽に読めるということ。「罪」は…その時、作家が本当に書きたかったことを書いているのだろうかということ。もちろん、プロの作家であれば編集者のオーダーに合わせた作品を製作することもそれほど珍しいことではないのかもしれないけれど、でも、企画のために設定されたテーマと、締め切りと、字数の制限があるなかで、本当に面白い作品を作るのは難しいことだと思う。

 

三浦しをんバージョンは、横浜ローカルの不動産会社に勤める男が、突然、社長命令で明日、ニューヨークに飛んでマラソンに出場せよと命じられる話。元陸上部の長距離経験者とはいえ…たまにジョギングするぐらいの実質10年ブランクでいきなりフルマラソンを走れるのだろうか―と疑問が湧いた。 ニューヨークマラソンの「楽しさ」みたいなものは伝わってきたけれど、ちょっと設定に無理がありすぎのような。三浦しをんが文楽にハマッて、書きたくて書きたくて仕方がなかった「仏果を得ず」の気迫に比べると、流して書いているような印象は否めず。

 

あさのあつこバージョンは、ランナーではなくて、ランニングシューズを作っている人を主人公に仕立てたもの。(あっ、発注したアシックスの心をくすぐる度合いでいけば、これがナンバーワン?) 実は、あさのあつこの小説を読むのはこれが初めてのような気がするので、過去の作品との出来は比較しようもありませんが…。小サッパリとまとまっているけれど、深く心を揺さぶられることもないという感じ。ま、単に、私好みではない設定であるというだけのことかもしれません。思い・思われる微妙な三角関係のうちの誰かが早世してしまうことで、残された二人の関係のバランスが崩れていく―という「タッチ」方式(すみません、「タッチ」読んでいませんが…)のストーリーって、3人の誰かしらに自分を投影して読めるから共感を誘いやすいけれど、でも、なんか、安っぽい印象。

 

で、私好みだったのは、近藤史恵バージョンでした。才能が無いことを自覚したバレーダンサーが、現実逃避のためにパリに語学留学。走ることの喜びに出会ったことで、アスリートとしての自分に再会する。最も、真正面から「自分に向き合う」というテーマに向き合っている印象だったし、何よりも、街を駆け抜けていく気持ち良さが伝わってくるという点でも秀逸でした。近藤史恵バージョンが最後だったことで、後味よく読み終われました♪

 

 



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